「ベイマックス」と、「アナと雪の女王」創作の秘密
「ベイマックス」の評価はA+。公式サイトはこちら。
完璧な映画。物語の構成、アクション・シーンのスピード感など文句のつけようがない。ジョン・ラセターがチーフ・クリエイティブ・オフィサーとして復帰してからのディズニーの快進撃はとどまる所を知らない。
- ディズニーの第三次黄金期到来!〜アナと雪の女王
(ラセターがディズニーを突如解雇され、失意のうちにピクサーに入社してから、電撃的カム・バックまでの軌跡を詳しく解説)
「ベイマックス」の頭部は神社の鈴を基にデザインされているが、そのふっくらした体型はトトロやドラえもんを想起させ、腕がミサイルのように飛ぶ仕掛けはマジンガーZ(ロケットパンチ)だ。またダイナミックなカー・チェイスはラセターがこよなく愛する「ルパン三世 カリオストロの城」のそれを参考にしているのは明らかだし、飛行船が登場するのも宮﨑駿への敬意の表明であろう(かつてラセターは「すべてのピクサー作品は宮崎映画へのオマージュだ」と語った)。ジャパニメーションへの愛がいっぱい詰まっている。
今回はサンフランシスコと東京を融合した“サンフランソウキョウ”が舞台となるが、ラセターが監督した「カーズ2」にも東京が出てくるし、複数のヒーローが協力して戦うというプロット(原題はBig Hero 6)は「Mr.インクレディブル」を彷彿とさせる。ディズニーとピクサーの距離はグッと近づいた。
NHKで放送されたドキュメンタリー「魔法の映画はこうして生まれる~ジョン・ラセターとディズニー・アニメーション」と、BS ディーライフ/Dlifeの特別番組「アナと雪の女王のすべて」を観た。ラセターがいかにしてピクサー方式をディズニーに導入し、死に体だった老舗スタジオを蘇らせたかが克明に描かれている。それは徹底したディスカッションで多くのスタッフのアイディアを取り入れ、作品を練り上げる戦略である。ストーリールームで繰り広げられるノート・セッションという極秘会議では誰もが役職に関係なく対等な立場で物語を面白くするために意見を言い合う。別の作品に携わるスタッフも参加し、例えば「ベイマックス」のセッションでも「アナと雪の女王」のジェニファー・リー監督が「この描き方では少年の気持ちが観客に伝わらない」等と積極的に発言する。
驚くべきことに「アナと雪の女王」の初期設定ではアナとエルサは姉妹ではなかったという。エルサのキャラクターデザインは尖った髪の毛と真っ青な顔で、生きたイタチで作ったコートを着ていた。そして雪だるまの軍団を率いて村を襲う。一方アナは農家の娘で、傷ついた心を雪の女王に凍らせてもらうために山へ向かうというプロットだった。もしこのまま映画化されていたとしたら、女性観客の心を鷲掴みすることも世界的な大ヒットも望むべくもなかっただろう。何かが違う。行き詰っていた時に、誰かが会議で言った。「ふたりを姉妹にしたらどうだろう?」ノート・セッションの成果は絶大である。また「雪だるまつくろう」は公開直前までカットされる方針だったという事実にも驚かされた。エッ、あの名曲が!?
「ベイマックス」の話に戻ろう。最新のテクノロジーを用いたロボットが少年の心を癒やす物語だ。これってディズニー=ピクサー・アニメーション・スタジオのメタファーだよね?CGという時代の最先端をゆく技術を用いて子どもたちの夢を育む、それが彼らの使命である。主人公ヒロの亡くなった兄タダシが学んでいた工科大学には4人の仲間がいる。彼らがまた変人揃いて、ワイワイガヤガヤ愉しそうに研究開発・実験をしているその姿を見ていて、僕はピクサーのアニメーターたちのことを想い出した。
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