戦慄のドキュメンタリー「アクト・オブ・キリング」
評価:A
今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた衝撃作。公式サイトはこちら。
1965年にインドネシアで軍事クーデターが起こり、100万人に及ぶ大虐殺が実行された。犠牲となったのは”共産主義者”の烙印を押された人々(その多くは事実無根だった)や華僑たち。殺戮者であるプレマン(英語のfree manが語源。ヤクザ・チンピラ)に当時の様子を再現してもらうという内容。現在も彼らは罪を問われることなく英雄視されており、嬉々として国営テレビに出演したりしている。プレマンで組織された愛国的青年団は300万人に及び、政府の大臣たちともべったりの関係である。
プレマンが笑ったり踊ったりしながら得意気に殺人を再現する場面は戦慄を禁じ得ない。ナチスのホロコーストとか被害者の証言によるドキュメンタリーは観たことがあるが、加害者が語るという点でこの映画は画期的、ユニークである。
おぞましい内容だ。吐き気がする。耳を覆いたくなるような現実。しかし目を逸らしてはいけない。なぜならここに描かれていることも間違いなく人間の本質の一部なのだから。この狂気は我々の中にも潜んでいるのである。
あるプレマンがこう言う、
「戦争犯罪は勝者が規定するものだ。俺は勝者だ。だから俺の解釈に従う」
「どうして共産主義者殺しにばかり注目する?だったらインディアンたちを大量虐殺したアメリカ人を罰せよ」
彼の言葉はある意味本質を突いている。第二次世界大戦で勝者が敗者を裁いた東京裁判は果たして公平だったと言えるのか?長崎・広島に落とされ、一般市民(非戦闘員)の犠牲者を沢山出した原子力爆弾投下は戦争犯罪ではないのか?何故それを指示した者達は裁かれない?(日本の真珠湾攻撃は軍事施設への攻撃であり、一般市民を狙ったものではない。)
キャメラが最後に捉える主人公のアンワルの姿は彼の心の闇の深さを赤裸々に映し出している。
もし貴方がヒトであるならば、絶対に観るべき映画だ。
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