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2014年12月

2014年映画ベスト28選

恒例により今年公開された映画から選んだ。タイトルをクリックするとレビューに飛ぶ。

  1. 野のなななのか
  2. アナと雪の女王
  3. あなたを抱きしめる日まで
  4. 紙の月
  5. ベイマックス
  6. グランド・ブタペスト・ホテル
  7. スノーピアサー
  8. インターステラー
  9. 6歳の僕が、大人になるまで。
  10. アクト・オブ・キリング
  11. Godzilla ゴジラ
  12. 舞妓はレディ
  13. 寄生獣
  14. her/世界でひとつの彼女
  15. インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌
  16. 渇き。
  17. ウルフ・オブ・ウォールストリート
  18. ブルージャスミン
  19. DOCUMENTARY of AKB48 The time has come 少女たちは、今、その背中に何を想う?
  20. 宇宙戦艦ヤマト 2199 星巡る方舟
  21. ゴーン・ガール
  22. LEGO ムービー
  23. ジャージー・ボーイズ
  24. STAND BY ME ドラえもん
  25. ウォルト・ディズニーの約束
  26. ダラス・バイヤーズクラブ
  27. それでも夜は明ける
  28. 蜩ノ記

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戦慄のドキュメンタリー「アクト・オブ・キリング」

評価:A

今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた衝撃作。公式サイトはこちら

1965年にインドネシアで軍事クーデターが起こり、100万人に及ぶ大虐殺が実行された。犠牲となったのは”共産主義者”の烙印を押された人々(その多くは事実無根だった)や華僑たち。殺戮者であるプレマン(英語のfree manが語源。ヤクザ・チンピラ)に当時の様子を再現してもらうという内容。現在も彼らは罪を問われることなく英雄視されており、嬉々として国営テレビに出演したりしている。プレマンで組織された愛国的青年団は300万人に及び、政府の大臣たちともべったりの関係である。

プレマンが笑ったり踊ったりしながら得意気に殺人を再現する場面は戦慄を禁じ得ない。ナチスのホロコーストとか被害者の証言によるドキュメンタリーは観たことがあるが、加害者が語るという点でこの映画は画期的、ユニークである。

おぞましい内容だ。吐き気がする。耳を覆いたくなるような現実。しかし目を逸らしてはいけない。なぜならここに描かれていることも間違いなく人間の本質の一部なのだから。この狂気は我々の中にも潜んでいるのである。

あるプレマンがこう言う、

「戦争犯罪は勝者が規定するものだ。俺は勝者だ。だから俺の解釈に従う」
「どうして共産主義者殺しにばかり注目する?だったらインディアンたちを大量虐殺したアメリカ人を罰せよ」

彼の言葉はある意味本質を突いている。第二次世界大戦で勝者が敗者を裁いた東京裁判は果たして公平だったと言えるのか?長崎・広島に落とされ、一般市民(非戦闘員)の犠牲者を沢山出した原子力爆弾投下は戦争犯罪ではないのか?何故それを指示した者達は裁かれない?(日本の真珠湾攻撃は軍事施設への攻撃であり、一般市民を狙ったものではない。)

キャメラが最後に捉える主人公のアンワルの姿は彼の心の闇の深さを赤裸々に映し出している。

もし貴方がヒトであるならば、絶対に観るべき映画だ。

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ホビット 決戦のゆくえ (HFR【高画質版】3D・字幕上映)

評価:B

映画公式サイトはこちら

僕は「ロード・オブ・ザ・リング(The Lord of the Rings;以下LotRと略す)」三部作と「ホビット」三部作を全て映画館で観てきた。結論から言うと「ホビット」はLotRの焼き直しに過ぎず、既視感ばかりが付きまとった。財宝に目が眩んだ人物の人間性が変わるというテーマもLotRにあったしなぁ。また「ホビット 思いがけない冒険」ではご都合主義にも辟易した。万事休すの旅の仲間たちを鳥が最後に助けるのだが、それなら最初から鳥に目的地まで運んでもらえばいい。バカみたい。

映画オリジナル・キャラクターであるエルフのタウリエルは登場する必然性を全く感じない。女っ気がなく寂しいから創作されたのだろうが、彼女の恋なんかどーでもいい。魅力もないし、単なる蛇足だ。やはり原作には登場しないガラドリエルやレゴラスも何だかなぁ。レゴラス様の不死身の活躍はLotR「王の帰還」と代わり映えしない。壮大なスケールの戦闘シーンはド迫力だが、それだけ。

結局「ホビット」三部作からは何も得るものがなかった。LotRで沢山のアカデミー賞を受賞した優秀なスタッフたちだが、準備期間を含め費やされた5年以上の歳月は時間の浪費、才能の無駄だったと断じざるを得ない。

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「ベイマックス」と、「アナと雪の女王」創作の秘密

「ベイマックス」の評価はA+。公式サイトはこちら

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完璧な映画。物語の構成、アクション・シーンのスピード感など文句のつけようがない。ジョン・ラセターがチーフ・クリエイティブ・オフィサーとして復帰してからのディズニーの快進撃はとどまる所を知らない。

「ベイマックス」の頭部は神社の鈴を基にデザインされているが、そのふっくらした体型はトトロやドラえもんを想起させ、腕がミサイルのように飛ぶ仕掛けはマジンガーZ(ロケットパンチ)だ。またダイナミックなカー・チェイスはラセターがこよなく愛する「ルパン三世 カリオストロの城」のそれを参考にしているのは明らかだし、飛行船が登場するのも宮﨑駿への敬意の表明であろう(かつてラセターは「すべてのピクサー作品は宮崎映画へのオマージュだ」と語った)。ジャパニメーションへの愛がいっぱい詰まっている。

今回はサンフランシスコと東京を融合した“サンフランソウキョウ”が舞台となるが、ラセターが監督した「カーズ2」にも東京が出てくるし、複数のヒーローが協力して戦うというプロット(原題はBig Hero 6)は「Mr.インクレディブル」を彷彿とさせる。ディズニーとピクサーの距離はグッと近づいた。

NHKで放送されたドキュメンタリー「魔法の映画はこうして生まれる~ジョン・ラセターとディズニー・アニメーション」と、BS ディーライフ/Dlifeの特別番組「アナと雪の女王のすべて」を観た。ラセターがいかにしてピクサー方式をディズニーに導入し、死に体だった老舗スタジオを蘇らせたかが克明に描かれている。それは徹底したディスカッションで多くのスタッフのアイディアを取り入れ、作品を練り上げる戦略である。ストーリールームで繰り広げられるノート・セッションという極秘会議では誰もが役職に関係なく対等な立場で物語を面白くするために意見を言い合う。別の作品に携わるスタッフも参加し、例えば「ベイマックス」のセッションでも「アナと雪の女王」のジェニファー・リー監督が「この描き方では少年の気持ちが観客に伝わらない」等と積極的に発言する。

驚くべきことに「アナと雪の女王」の初期設定ではアナとエルサは姉妹ではなかったという。エルサのキャラクターデザインは尖った髪の毛と真っ青な顔で、生きたイタチで作ったコートを着ていた。そして雪だるまの軍団を率いて村を襲う。一方アナは農家の娘で、傷ついた心を雪の女王に凍らせてもらうために山へ向かうというプロットだった。もしこのまま映画化されていたとしたら、女性観客の心を鷲掴みすることも世界的な大ヒットも望むべくもなかっただろう。何かが違う。行き詰っていた時に、誰かが会議で言った。「ふたりを姉妹にしたらどうだろう?」ノート・セッションの成果は絶大である。また「雪だるまつくろう」は公開直前までカットされる方針だったという事実にも驚かされた。エッ、あの名曲が!?

「ベイマックス」の話に戻ろう。最新のテクノロジーを用いたロボットが少年の心を癒やす物語だ。これってディズニー=ピクサー・アニメーション・スタジオのメタファーだよね?CGという時代の最先端をゆく技術を用いて子どもたちの夢を育む、それが彼らの使命である。主人公ヒロの亡くなった兄タダシが学んでいた工科大学には4人の仲間がいる。彼らがまた変人揃いて、ワイワイガヤガヤ愉しそうに研究開発・実験をしているその姿を見ていて、僕はピクサーのアニメーターたちのことを想い出した。

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大阪桐蔭高校吹奏楽部 サンタコンサート2014〜エッ、来年の定期は新作ミュージカル!?

12月19日(金)、20(土)大阪ビジネスパーク TWIN21アトリウムへ。

「笑ってコラえて!」や「24時間テレビ」などへの出演で全国的にも名が知られるようになった大阪桐蔭高等学校吹奏楽部によるX-mas「180人のサンタコンサート 2014」を聴く。 無料。総監督・指揮者は梅田隆司先生。

昨年は「招待席」に空席が目立ち、一方で立ち見の一般客が沢山いたと書いたが、今回はその「招待席」がなくなっていた。また以前定期演奏会の感想で編曲者を明記してほしいと書いた翌年には改善されており、梅田先生の真摯な姿勢には頭が下がる。

ただ、来年2月の定期演奏会チケット先行販売が会場であったのだが、申込用紙を受け取るまで並んで40分掛かり、さらに購入まで20分、計1時間も立ちっぱなしで待たされて閉口した。いくら素人とはいえ、運営方法が未熟過ぎる!来年は再考を望みたい。具体的対策としては、

  • 販売開始時刻を1時間早める
  • 申込用紙記入テーブルをもっと増やす

などを挙げたい。

ところでその定期は2015年2月15日(日)、16日(月)にフェスティバルホールで開催されるが、創部10周年記念ということで創作ミュージカル「河内湖(かわちこ)」が初演される。作曲は吹奏楽コンクールでも引っ張りだこの高 昌帥(こう ちゃんす)。期待で胸が高鳴る。「河内湖」から来年桐蔭が吹奏楽コンクールで演奏する自由曲が生まれるかも知れない。

また来年3月15日にはニューヨークのカーネギーホールで演奏会をし、17日にはセント・パトリック・デー・パレードへの参加も決まったとか。

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さて、サンタコンサートはそれぞれ50分の演奏が金曜日に3ステージ、土曜日に4ステージあり、総計40曲。なんと重複するプログラムは一切なし!(このバンドは100曲位のレパートリーがあるらしい。)例えば金曜日の3ステージには全てX-mas メドレーがあったが、アレンジは違っていた。僕が聴いたのは、

  • 1st Stage (金)
  1. ウィンター・ワンダーランド in Swing(福田洋介 編)
  2. ジブリ・シネマコレクション
  3. X-mas メドレー Part I
  4. ビートルズ・メドレー
  5. ひまわりの約束〜STAND BY ME ドラえもん
  • 2nd Stage
  1. X-mas メドレー Part II
  2. 北国の春〜北酒場
  3. サザン・メドレー
  4. キャンディーズ・メドレー
  5. SMAPメドレー
  6. 東京ブギウギ
  • 3rd Stage
  1. X-mas メドレー Part III
  2. アラジン・ハイライト
  3. マイ・フェア・レディ
  4. 坂本 九 メドレー
  5. 復興支援ソング花は咲く
  • Kid's Stage (土)
  1. ジングル・ベル
  2. リトル・マーメイド
  3. 赤鼻のトナカイ
  4. ホワイト・クリスマス
  5. 名探偵コナン
  6. 新プリキュア〜トッキュウジャー
  7. WakeUp〜ゲラゲラポー〜妖怪体操〜ゲゲゲの鬼太郎〜アンパンマン

交響組曲「ジブリ・シネマコレクション」(編曲者不詳)より<ハトと少年(天空の城ラピュタ)〜鳥の人(風の谷のナウシカ)〜時代の風(紅の豚)〜マンマユート(紅の豚)〜空中散歩(ハウルの動く城)〜ふたたび(千と千尋の神隠し)〜ゴンドアの思い出(天空の城ラピュタ)〜荒地の魔女(ハウルの動く城)〜アシタカとサン(もののけ姫)〜さんぽ(となりのトトロ、合唱付き)〜世界の約束(ハウルの動く城)〜となりのトトロ>はアレンジが凄く良かった。「ふたたび」はオーボエとフルートの二重奏(ソロ)が美しい。また梅田先生は声楽科出身ということもあり、ここは歌の精度が高く、合唱コンクールに出場しても入賞するんじゃないか?というくらいのレベルである。

X-mas メドレー Part I は<クリスマス・イブ〜恋人はサンタクロース〜すてきなホリデイ>、PartII はXmas Swingin' コレクション(福田洋介 編)で<サンタが街にやってくる〜赤鼻のトナカイ〜サンタクロースがやってくる〜きよしこの夜〜荒野のはてに〜もろびとこぞりて〜We Wish You A Merry Christmas〜ホワイト・クリスマス>、PartIII はHappy!Happy!!Happy!!!Xmas(林 直樹 編)でマライア・キャリー「恋人たちのクリスマス」、ワム!「ラスト・クリスマス」、ジョン・レノン「Happy Xmas (War is Over)」の3曲を中心に、「ジングル・ベル」「第九」「もろびとこぞりて」「きよしこの夜」「主よ、人の望みの喜びよ」が織り込まれている構成。

アラジン」はジョン・モス編。〈アラビアン・ナイト~ひと足お先に~結婚の発表~ホール・ニュー・ワールド~ジャファーの出番~アリ王子のお通り~フレンド・ライク・ミー~ハッピー・エンディング〉

サザン・メドレー」は杉本幸一編曲。〈TSUNAMI~チャコの海岸物語~HOTEL PACIFIC~いとしのエリー~勝手にシンドバット〉11分。TSUNAMIの木管五重奏(フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン)によるアンサンブルが僕のお気に入り。

マイ・フェア・レディ」の洒落た編曲はロバート・ラッセル・ベネット。オリジナル作品としては「バンドのためのシンフォニック・ソング」「古いアメリカ舞曲による組曲」がある。<運がよけりゃ~君住む街角~ああ、なんて幸せ!~まずは教会へ~忘れられない君の顔~踊り明かそう>のメドレー。

曲の合間に梅田先生のM.C.あり。いままで推薦入学で毎年60人位の生徒を受け入れてきたが、来年度は少し増員して70人の内定者が決まった。現在部員数は180人程度だが、近い将来200人を超えるだろう。新入生は入学式前の2月下旬から学校に来て自主練習を始め、4月初頭から本番に出演する。各パートごとに募集するがフルートは特に人気があって、4人/年の募集に対して希望者が12人位いる。人数の多いクラリネットの方が競争率が低いので、うちの学校を希望している人はそちらをお勧めする。また、よく生徒たちから卒後の進路相談を受けるが、プロ奏者になるために音楽大学を受験することだけは止めておけと助言すると。「そんなの無理!」音楽で身を立てられる人はほんの一握り(それでもプロになった卒業生は数名いる)。「音大行ってどうするの?」ただし、教師を目指す人は応援する等といったお話があった。

お酒を飲めない梅田先生だが、北新地のバーでピアノを弾いていたことがあるという、意外な過去も明らかに。

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金曜日のアンコールで演奏された「アナと雪の女王」シンフォニック・ハイライトはスティーヴン・ブラ編曲(推定)で、<氷の心〜Let It Go〜雪だるまつくろう〜生まれてはじめて〜エピローグ>。Let It Goは女子生徒による合唱(フルコーラス)付きで感動的だった。「アナ雪」から世界が変わる、そんな実感があった。来年の定期で是非また聴きたい。

また昨年演奏されなかった「銀河鉄道999」(樽屋雅徳 編、歌付き)が最後にあったのも嬉しかった。これがないと寂しいからね。

翌土曜日のKid's Stageには3歳の息子を連れて行ったのだが、最初の曲からノリノリで、「ゲラゲラポー」や「妖怪体操」は立ち上がり高校生のお兄さんお姉さんたちと一緒に歌って踊ったりして、とても愉しそうだった。

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《宝塚便り》武田尾温泉の紅葉

宝塚駅からJRで8分、車だと約30分で行ける場所に武田尾温泉がある。あまり喧伝されてはいないが、静かで鄙びた隠れ家である。

11月20日頃に訪れた時の写真をお見せしよう。

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紅葉も美しいが、地元では桜の名所としても知られている。

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温泉は紅葉館 別邸「あざれ」に入った。源泉掛け流しで無色透明な泉質。入浴後はポッカポッカに温まり、中々冷めなかった。また無料の足湯もある。

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ここで神田川敏郎プロデュースのランチ2,500円を食べたのだが、これが意外にも(失礼!)美味しかった。コスト・パフォーマンス的にも悪くない。

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福知山線廃線跡がハイキング・コースになっているのだが、真っ暗なトンネルを幾つかくぐり面白かった。懐中電灯を持参した方がいいだろう。

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キーワードは”ブロンド”!〜映画「ゴーン・ガール」

評価:B+

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キャメラがロザムンド・パイクのブロンド(金髪)を大写しにする映画冒頭部を観て、瞬時に「エッ、これってヒッチコックへのオマージュ?」と想った。そしてその後、僕の直感を裏付けるように「めまい」や「サイコ」を彷彿とさせるシーンが矢継ぎ早に登場した。

アルフレッド・ヒッチコックはブロンドの美女に固執する映画監督だった。それは偏執狂と言っても過言ではないものだった。「鳥」で主演女優ティッピ・ヘドレン(メラニー・グリフィスの母)を執拗に襲う鳥たちはヒッチコックの性的願望/衝動を具現化したものと解釈出来る。嘴(くちばし)が何を象徴しているかは火を見るよりも明らかだ。

Birds

「鳥」「マーニー」で一躍スターになったティッピにヒッチは性的関係を求めた。しかし彼女は拒絶した(「マーニー」に出演した翌年、ノエル・マーシャルと結婚)。ヒッチは「私の力を持ってすれば、君をハリウッドのスタジオから締め出すことなんか簡単なんだよ」と言ったという。その後ティッピはまともな役に恵まれず、消えていった(=ゴーン・ガール)。

注意!!以下、ネタバレあり。いや、そうしないと到底この映画は語れない。


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「ゴーン・ガール」と「サイコ」の共通点は以下の通り。

  • ロザムンド・パイクが車を運転する場面は「サイコ」で会社の金を横領したジャネット・リーが車で逃走するそれを彷彿とさせる。
  • 両者のヒロインは逃走中に宿泊したモーテルで予期せぬ犯罪に巻き込まれる。
  • 殺人の凶器は刃物。
  • 「ゴーン・ガール」にはそのものズバリのシャワー・シーンが登場し、ご丁寧にも排水口にが流れる様子を大写しにするカットまである。

「ゴーン・ガール」と「めまい」のプロットの相似については、

  • 死んだ筈のブロンド美女がふたたび男の前に現れる。
  • 映画中盤で(女の回想として)事件の真相が明らかにされる構成。
  • 髪の毛の色を変え、みすぼらしい服装をしたロザムンド・パイクに大富豪役のニール・パトリック・ハリスが洋服と染毛剤を渡し、「昔の君に戻ってくれ!」と言う場面は「めまい」でジェームズ・スチュワートがキム・ノヴァクに対してしたことと全く同じ。

Vertigo

「ゴーン・ガール」は確かに面白かったし、先の読めないストーリーで最後の大どんでん返しにも驚かされたけれど、ちょっとヒッチを意識し過ぎで手放しで賞賛は出来ない。デヴィッド・フィンチャー監督作品なら僕は「セブン」「ゾディアック」「ソーシャル・ネットワーク」「ドラゴン・タトゥーの女」の方が好きだな。

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向田邦子への挑戦状〜三谷幸喜「紫式部ダイアリー」

12月11日(木)森ノ宮ピロティホールへ。三谷幸喜 作・演出、斉藤由貴長澤まさみの二人芝居「紫式部ダイアリー」を鑑賞。

清少納言 vs. 紫式部のバトルというからてっきり十二単で登場するのかと思いきや、現代のホテルのバーが舞台になっているので意表を突かれた。彼女らの著作が「枕草子」と「源氏物語」(連載中)という設定はそのままだが、紫式部(長澤)はパープル色のMacBook Airを使っている。またふたり以外に、一言も喋らないバーテンダーが登場する。

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観ていて、「これって三谷幸喜宮藤官九郎の話だよね?」と感じた。自分より若くて美人で才能がある紫式部に清少納言が嫉妬する図式は、劇作家としてだけではなく役者やパンク・バンド(グループ魂)でも活躍するクドカンに対して三谷が抱いているであろう感情を想起させる。三谷が映画「みんなのいえ」で日本アカデミー賞脚本賞にノミネートされた年、最優秀賞を受賞したのはクドカンの「GO」だった。また三谷は「王様のレストラン」で向田邦子賞を打診された時、第1回目受賞者が「寂しいのはお前だけじゃない」の市川森一だったことから「自分は未だあのレベルに達していない」と辞退している(倉本聰「北の国から2002 遺言」が代わりに受賞)。結局この賞もクドカンに先を越された(「うぬぼれ刑事」2010)。

劇中、清少納言は紫式部に「ブログとかツイッターとかに”オワコン”とか”才能が枯れた”とか書かれているのを読むと落ち込むから、自分の名前でインターネット検索をするのはやめた方がいい」と助言する。これには爆笑。実際僕も三谷の才能が枯渇したんじゃないかと過去に書いている。

結局この芝居は自分のことを書いているんだね。だから赤裸々で切実で面白い。ここ10年位パッとしなかった三谷作品の中で、ずば抜けた完成度である。

冒頭からトルコ軍楽隊の音楽が聴こえてきて、僕は向田邦子脚本、和田勉演出のテレビ・ドラマ「阿修羅のごとく」で使用された「ジェッディン・デデン」 (Ceddin Deden、祖先も祖父も)のことを想い出した。すると途中からその曲ズバリが登場し、最後もCeddin Dedenで締めくくられた。

女の業とか醜い部分を描かせたら向田邦子の右に出るものはいなかった。つまり本作は「女を描けない」と言われ続けた三谷の、向田に対する大胆不敵な挑戦状だったのだ。そういえば森田芳光が監督した映画版「阿修羅のごとく」(筒井ともみ 脚色)にも長澤まさみは出演していたではないか!!(映画版でCeddin Dedenは使用されず)。その意図は明白である。今回の三谷の気迫には凄みすら感じられた。

長澤まさみが素晴らしい。無邪気で残酷な小悪魔。僕は彼女が東宝「シンデレラ」グランプリに選ばれ銀幕デビューした「クロスファイア」(2000)から映画館でリアルタイムに観ている。撮影当時まだ12歳(小学6年生)の少女だった。初主演の映画「ロボコン」(2003)なんか本当にスクリーンで輝いていた。その彼女も現在27歳。初めて生で見たが本当に美人でセクシーで、そしてなによりその卓越した演技力に刮目した。劇中で「美人だと周りからちやほやされるけど、中々才能を認めてもらえないんです」と悩みを打ち明ける場面があるが、それはまさみの本心だろうと想った。

余談だが「全然大丈夫です」と言うまさみに対し、斉藤由貴が「肯定文に『全然』は日本語として間違っているんじゃない?」という場面がある。それに対してまさみが「夏目漱石も使っています」と答える。そこで興味を持ったので帰宅して調べてみた。

夏目漱石『坊っちゃん』(明治39年 1906年)の職員会議の場面で主人公が「一体生徒が全然悪るいです。どうしても詫まらせなくっちゃあ、癖になります」と言うと、これに対して数学教師の山嵐が「私は教頭及びその他の諸君の御説には全然不同意であります」と反論する。芥川龍之介は『羅生門』(大正4年 1915年)で「これを見ると、下人は初めて明白にこの老婆の生死が、全然、自分の意志に支配されてゐると云ふことを意識した」と記述している。また森鴎外は『灰燼』(大正元年 1912年)の中で「好色家が女がうるさいと伝ふと、全然同じ事である」と書き、山本周五郎の『青べか物語』(昭和35年 1960年)には「三人とも全然まるはだかであった」とある。

肯定文で使っても全然大丈夫なんだね。日本語の勉強になった。

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シリーズ《音楽史探訪》パブロ・カザルスと鳥の歌

チェロの名曲「鳥の歌」といえば20世紀を代表するチェリスト=パブロ・カザルス(1876-1973)と不可分である。しばしばカザルス作曲と記載されるが、元は彼の故郷スペイン・カタロニア(カタルーニャ)の民謡である。トレモロの序奏(弦楽アンサンブル版ではそれにハーモニクス=倍音奏法が加わる)と終結部のみカザルスの創作と言える。有名な演奏としては1961年にジョン・F・ケネディの前で弾いたホワイトハウスコンサートCD(モノラル)がある。

1939年スペイン内乱でフランコ独裁政権が樹立されるとカザルスは故国を捨てフランスに亡命、さらにプエルトリコへ拠点を移す。そしてフランコ政権を認める国では一切演奏しないと宣言した。1971年、94歳になったカザルスは「私の生まれ故郷カタロニアの鳥たちは、空に舞い上がるとピース(peace)、ピース、ピースと鳴くのです」と国連でスピーチをし、14年ぶりに一般聴衆の前で「鳥の歌」を披露した。その肉声と演奏はこちらで聴くことが出来る→You Tubeへ。今にも止まるんじゃないかという位ゆっくりしたテンポで奏でられ、魂を絞り出すように全身全霊を傾けた熱い演奏。正に慟哭・絶唱とも言うべき白鳥の歌となっている。この曲を弾く時彼は鳥となり、望郷の想いを胸に遥か上空から古里を見守っていたのだろう。そして2年後、カザルスは亡くなった。内戦後祖国で使用を禁じられていたカタルーニャ語が公用語として認められるのはフランコの死後、1978年のことである。

ナクソス・ミュージック・ライブラリー(NML)で聴けるカザルスの録音は1936年、1950年、1956年のものがある。

1936年7月、ナチス・ドイツ主導のベルリン・オリンピックに対抗してスペインの(カタルーニャ州都)バルセロナで平和と民主主義を標榜した人民オリンピックが企画され、各国から多くの選手団が市内に集まった(バルセロナはオリンピック開催予定地として立候補したがベルリンに敗れた)。開会式でカザルスはベートーヴェンの「第九交響曲」を指揮することになっていたが、その前日のリハーサル中にフランコ将軍が反乱を起こし、人民オリンピックは中止になった。そして月日は流れて1992年、バルセロナ・オリンピックが遂に実現し、その閉会式でヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレスが「鳥の歌」を歌った。なお彼女の「鳥の歌」はナクソス・ミュージック・ライブラリーで聴くことが出来る→こちら

今回、「鳥の歌」について色々調べていて驚愕の事実を知った。何と原曲はクリスマス・キャロルだったのだ!物哀しい曲調やカザルスのエピソードから考えて、まさかそんな明るい歌だとは想像だにしなかった。次のような歌詞である。

こよなく喜ばしい夜
至高の光が
輝く様子を見て
鳥たちは歌いながら
祝いに集う
甘やかな声をたずさえて

(スペイン)カタシロワシが
空高く舞う
調べもよく歌いながら
こう告げるー「イエス様がお生まれだ
我らを罪から救い
喜びを与え給うために」

この後、これに答えてスズメ、ムネアカヒワ、ナイチンゲール、ツグミなど鳥たちが救世主の誕生を祝福し歌う。NMLではクリスマス・キャロル(合唱)版も聴くことが出来る。こちらや、こちら。カタロニアの人たちにとって「鳥の歌」は平和を願う祈りの曲だったのだ。

スペイン内戦の悲劇はピカソの「ゲルニカ」を産み、映画ではビクトル・エリセ監督の名作「ミツバチのささやき」ギレルモ・デル・トロ監督のダーク・ファンタジー「パンズ・ラビリンス」 として結実した。またアーネスト・ヘミングウェイは通信社の特派員として内戦を取材し、その経験を基に小説「誰がために鐘は鳴る」を執筆、1943年にゲーリー・クーパーとイングリッド・バーグマン主演で映画化された。イングリッドが「鼻は邪魔にならないの?」と言うキス・シーンは余りにも有名。「鳥の歌」を聴く時、僕の脳裏にはそんなことどもが走馬灯のように駆け巡るのである。

Hikari

さて読者の皆さん、「鳥の歌」をめぐる冒険は如何でした?

メリー・クリスマス!

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映画「寄生獣」

評価:A

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金城武主演、山崎貴監督の「リターナー」(2002年)は映画館で観て頭を抱えた。酷すぎる。とにかくCG技術がお粗末。とても日本の特撮は見れたもんじゃないと絶望した。しかし「ALWAYS 三丁目の夕日」(2005年)には瞠目した。そこには昭和33年の東京が見事に再現されていたのだ。今年公開された「STAND BY ME ドラえもん」には「日本のCGアニメはここまで来たか!これならハリウッド(ピクサー&ディズニー)と互角に戦える」と感動すら覚えた。

そこで「寄生獣」である。いや、大したものだ。ヌメッとした湿気(←コンピューターでこれを醸しだすのは難しい)といい、CGの質感は申し分ない。そもそもこの漫画は「ロード・オブ・ザ・リング」の製作で名高いハリウッドのニュー・ライン・シネマが2005年に映画化権を獲得、「呪怨」の清水崇監督と交渉を進めていた。ところが2008年にこの会社はワーナー・ブラザースに吸収合併され、権利が日本に戻ってきたのである。以前から「寄生獣」を撮りたいと狙っていた山崎監督の意欲は凄まじく、すこぶる面白い作品に仕上がった。

以前から山崎監督作品は「泣かせ」に走り過ぎだという批判が根強い。「ALWAYS 三丁目の夕日」だって「STAND BY ME ドラえもん」もそう。本作もに流されてウェットな側面は確かにある。ただ母性は「寄生獣」の重要なテーマだし、下町情緒溢れる風景が「三丁目の夕日」に繋がり(つまり昭和を感じさせ)、僕は悪くないと想った。だってここは紛れもなく日本であり、僕たちは日本人なのだから。

それにしても自己のアイデンティティを探し求めて彷徨う寄生獣たちの姿は、どことなく映画「ブレードランナー」のレプリカントを彷彿とさせる。ある意味、哲学的/思索的作品と言えるだろう。

あと特筆すべきは佐藤直紀の音楽がすごく良かった。「ALWAYS 三丁目の夕日」の音楽はジェリー・ゴールドスミス作曲「ルディ/涙のウイニング・ラン」のパクリとしか想えず、閉口したのだけれど。

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映画「宇宙戦艦ヤマト 2199 星巡る方舟」

評価:B+

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劇場版完全新作ではあるが、テレビ・シリーズの第24話と25話の間のエピソード、つまりイスカンダルから地球に帰還するまでの物語となっている。

絵コンテに実写版「進撃の巨人」監督の樋口真嗣、原画に「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」の庵野秀明(総監督)、摩砂雪(監督)が参加しているのが目を引く。愛だね、愛。

今回フィーチャーされるヒロインは言語学のエキスパート桐生美影。髪の毛が赤に近い茶色で、勝気なところは「新世紀エヴァンゲリオン」の惣流・アスカ・ラングレーを彷彿とさせる(新劇場版でのアスカの設定は金髪【ブロンド】に変更)。中々魅力的なキャラクターだ。 

驚いたのはテレビ・シリーズのオリジナル・エピソードである第9話「時計仕掛けの虜囚」と第14話「魔女はささやく」が直接繋がっていたことと、ガミラス人と地球人のDNAが一致するという逸話が実は本作の伏線になっていたという点。予め周到に考えぬかれていたのだ。

物語の半ばで精神世界というか観念的・哲学的になるので戸惑う観客も少なくないだろう。いわば押井守の「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」や実相寺昭雄監督の「ウルトラセブン」を想起させる展開だ。「こんなのはヤマトじゃない!」とか賛否両論に分かれそうだが、僕は肯定する。だって戦闘シーンばかりだと飽きるじゃない?最後は「波動砲を使えない」という縛りを巧みに利用してド派手な肉弾戦/接近戦が用意されているし。十分満足した。

二等ガミラス人で冥王星前線基地司令官の娘ヒルデ・シュルツや、ヴォルフ・フラーケンに拾われ次元潜航艦UX-01の新入り乗組員となった機関士・藪助次がその後どうなったかとか、スターシャ・イスカンダルが古代守の子供を身ごもったらしいという設定など回収されていない伏線がまだまだ沢山残っているので、間違いなくこの続きはあるだろう。今から愉しみだ。

また旧シリーズで「さらば宇宙戦艦ヤマト」から加わる斉藤始(さいとうはじめ)が登場するのもニヤリとさせられる。ちなみに本シリーズには沖田十三(→総司)、土方竜(→歳三)、山崎奨(→烝)、山南修(→敬助)、芹沢虎鉄(→鴨)、新見薫 (→ 錦)、伊東真也(→甲子太郎)、徳川彦左衛門というふうに新選組に絡んだ名前が多数登場する(うち反乱分子も合致)。斉藤始も当然、新選組隊士・斎藤一に由来する。彼の今後の活躍が期待される。

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ヴォーチェ弦楽四重奏団 + 萩原麻未

12月3日(水)ザ・フェニックスホールへ。

ヴォーチェ弦楽四重奏団はパリ国立高等音楽院の卒業生により2004年に結成された。日本人として初めてジュネーヴ国際コンクールピアノ部門で優勝した萩原麻未もパリ国立高等音楽院を卒業(パリ在住)。気の知れた仲間の共演というわけ。

  • ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第4番
  • ヤナーチェク:弦楽四重奏曲 第2番「ないしょの手紙」
  • ドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲 第2番 作品81
  • 山田耕筰:赤とんぼ(アンコール)

短調なのに柔らかく口当たりの良い、陽だまりのベートーヴェン。アルバン・ベルク弦楽四重奏団に代表されるような(冬の)厳しさとか鋭さとは対照的。何だか緩い。考えてみればフランスのオーケストラが演奏したベートーヴェンの交響曲の名演なんて皆無だし、フランス人によるベートーヴェンの弦楽四重奏曲やピアノ・ソナタも然り。つまり彼らにベートーヴェンの音楽は理解不能なのじゃないだろうか?逆にドイツ人演奏家によるフランス印象派やフォーレの名演も数少ないわけで、両者は相容れない関係と言えるだろう。

ベートーヴェンを聴きながら、ここに来たことを後悔し始めていた。ところが!ヤナーチェクでは打って変わって大変な名演でびっくりした。ヴィオラが渋くて枯れた味わい。親密なひそひそ話を囁くよう。ヤナーチェクは63歳の時に25歳の人妻カミラ・シュテスロヴァーと出会い、不倫関係となった。彼女に送った恋文は722通に及び、1日3通書いたこともあるという。その想いが「ないしょの手紙」を生んだ。そう、これは「不倫音楽」なのだ。不倫は文化だ(by 石田純一)!

第1・第2ヴァイオリンがカミラの声を、ヴィオラ及びチェロが作曲家の肉声を代弁しているのではないか?と感じられた。艶めかしく濡れた感触。隠微なエロス。一転、民族舞曲的な終楽章は動的で狂気を孕む。

萩原が加わったドボルザークはピアノが華やかで雄弁。第2楽章ドゥムカは磨かれた音の一粒ゝが煌めく。第3楽章フリアントは透明感があり、繊細かつ流麗。パーフェクトな一体感だった。

終わり良ければ全て良し。ヴォーチェ弦楽四重奏団は現代物ほどいい。

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ワディム・レーピンと仲間たち/室内楽の夕べ

12月1日(月)ザ・シンフォニーホールへ。

ロシア出身のワディム・レーピン(ヴァイオリン)、アレクサンドル・クニャーゼフ(チェロ)、アンドレイ・コロベイニコフ(ピアノ)で、

  • ラフマニノフ:悲しみの三重奏曲 第1番
  • チャイコフスキー:アンダンテ・カンタービレ
    (チェロとピアノ編)
  • ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ
  • ラヴェル:ツィガーヌ
  • ポンセ:エストレリータ(第1部アンコール)
  • チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の思い出に」
  • スクリャービン:エチュード OP.42-5
  • バッハ:無伴奏チェロ組曲 第2番より「サラバンド」
  • クライスラー:中国の太鼓(以上3曲、第2部アンコール)

なんとアンコールが前半・後半合わせて4曲。ピアノ独奏、チェロ独奏、ヴァイオリン&ピアノと、組み合わせも多岐にわたり、開演19時ー終演21時40分の長丁場!サービス精神旺盛な若者たちだ(レーピンは今年43歳だけれど)。

ラフマニノフでは誰もいないシベリアの大雪原に、風だけが吹き荒ぶ情景が頭に浮かんだ。茫洋とした寂寞感。最後は「偉大な芸術家の思い出に」を彷彿とさせる葬送行進曲の歩みとなる。

アンダンテ・カンタービレは耳が腐るくらい聴いてきたが、今回初めてロシア民謡「ヴォルガの舟歌」の木霊(エコー)が曲中に忍ばされていることを発見!そこで調べてみると案の定、チャイコフスキーはウクライナの労働歌を基に作曲したという。なお、トルストイがこれを聴いて号泣したという逸話も残っており、農民を愛した小説家らしいなと想った(ヴォルガの舟歌は舟曳き人夫たちが口ずさんでいた歌をバラキエフが採譜したもので、その多くは貧農小作人や放浪者たちであったという)。

ドビュッシーのソナタでレーピンはノン・ヴィブラートを多用。しかし艶っぽい雰囲気を巧みに醸し出す。ツィガーヌも妖艶。深く濃密な音で肩の力が抜けた柔らかい弾き方。

チャイコフスキーのピアノ・トリオはヴァイオリンが禁欲的で辛口。抑制が効いている。一方のチェロは感情が迸り、よく歌う。対照的な両者は相反するひとりの感情を表現しているのではないだろうか?ピアノが亡き友人ニコライ・ルビンシテインの幻の役割を担い(コロコロと指がよく転がり、達者な演奏)、チェロが作曲家の「躁(そう)」の部分、ヴァイオリンが「鬱(うつ)」の部分を担当、少なくとも今回の演奏はそういう解釈だと僕には感じられた。因みにチャイコフスキーが躁うつ病であったことは余りにも有名である。

豊かな実りのある演奏会であった。

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成人指定〜柳家喬太郎独演会@大阪

11月29日(土)トリイホールへ。

今回は「R-18」噺、つまり成人向け落語会であった。喬太郎は昨年夏、鈴本演芸場@東京で夜の部のトリを努め、「夏のR-18」を披露したという。そもそもは青森の映画館で開催した三遊亭白鳥との二人会で「R-18」企画をしたのが発端だそう。

  • 桂ひろば/真田小僧
  • 柳家喬太郎/吉田御殿
  • 桂文三/植木屋娘
  • 柳家喬太郎/(江戸川乱歩 作)赤いへや

正直ひろばは本編(ネタ)よりも笑福亭たま/生喬/鶴志らから言われたことを披露したマクラの方が面白かった(←それってどうなん?)。詳しくは本人から「ブログやツイッターに書くな」と口止めされたので控える(ルールは守る)。

吉田御殿」には凄みを感じた。途中、男女の組んず解れつの描写に会場は爆笑。座布団の上で七転八倒する喬太郎の姿は往年の桂枝雀を彷彿とさせた。これってれっきとした古典(艶笑)落語で速記本から起こしたものらしい。

文三は師匠・(五代目)桂文枝が高座によく掛けていた「植木屋娘」を。屈託ない陽気なおやじを演じ、気持ちいい。ただし最後は枝雀版を踏襲し、サゲなし。この問題については下記記事で詳しく論じた。

僕としては”伝吉”という男の残酷さ、醜さが白日の下に曝されるオジリナル・バージョンで聴きたかった。だって折角「R-18」の会なのだし。

仲入りを挟みなんと「怪奇大作戦」の出囃子で登場した喬太郎、文三との共通点はウルトラマンが趣味ということ。東京では特撮のことだけ語る「セマイ落語研究会」というのもやっているという。「赤いへや」は意表を突いて古典落語「あくびの稽古(お江戸では「あくび指南」)」のクライマックスから始まり、実は噺家が主人公というメタフィクションに仕上げている。さすが天才だからこそ成せる離れ業。この語り部、人を死に追いやる(未必の故意で厳密に殺人とはいえない)ことが退屈しのぎであることが次第に明らかになるのだが、その内容が夢か現かにわかに判別出来ないという多層構造(いわば映画「インセプション」の手法)になっている。結局この男は映画「ダークナイト」のジョーカーみたいな存在で心の中が空っぽ、虚無なのだ。何をしても満たされないモンスター。背筋がゾクゾクっとした。

柳家喬太郎とクリストファー・ノーラン監督の意外な共通点を発見した、有意義な夜だった。

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デュメイ&関西フィル「オータム・スペシャルコンサート」

11月17日(月)伊丹アイフォニックホールへ。

オーギュスタン・デュメイ(ヴァイオリン)&関西フィルハーモニー管弦楽団のメンバー+上田晴子(ピアノ)で、

  • モーツァルト:ピアノ四重奏曲 第2番
    (デュメイは参加せず)
  • ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第2番
  • ブラームス:F.A.E.ソナタより 第3楽章「スケルツォ」
    (以上 デュメイ、上田)
  • ブラームス:ピアノ五重奏曲
    (デュメイ、関西フィルのコンマスや首席奏者、上田)

はっきり言って前座の演奏(モーツァルト)は中途半端で冴えなかった。

デュメイのソロは芳醇で深い音。どこまでも伸びる高音。一本の木がすっくと立ち、木漏れ日が差しこむよう。F.A.E.ソナタは低音が豊かに鳴り、雄弁。

後半の五重奏曲は気高い騎士のよう。白熱するアンサンブルに凄みを感じ、美音に酔い痴れた。

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ル・ポエム・アルモニーク

11月16日(日)兵庫県立芸術文化センターへ。

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フランス古楽界でいま最も旬なアンサンブル、ル・ポエム・アルモニークを聴く。メンバーはソプラノを含む5人。今回のプログラムは「17-8世紀フランス、スペイン 宮廷の薫り漂う美しき歌曲」と題されている。ちなみにスペイン発祥の舞曲サラバンド、シャコンヌ、パッサカリアは変容を遂げながらフランス音楽に浸透していった。

  • マルク・アントワーヌ・シャルパンティエ:「ル・シッド」のスタンザによるエール
  • マラン・マレ:サラバンド
  • ピエール・ゲドロン:たとえ醜い苦しみが
  • アントニオ・マルティン・イ・コル:ガイタの調べによる変奏曲
  • ルイス・デ・ブリセーニョ:「妻をちゃんとしつけておけば」「侯爵殿の馬は」
  • アンリ・ル・バイイ:痴れ者のパッサカーユ
  • ジャン=フェリ・ルベル:12のヴァイオリン・ソナタより第9番
  • セバスティアン・ド・ブロッサール:人の世のさまざまな惨めさ
  • ガスパール・サンス:パッサカーリェ
  • ルイス・デ・ブリセーニョ:スペインの女、斧の踊り、フォリア「前奏と即興」〜「山暮らしのお嬢さん、あなたは両目で」
    (以下アンコール)
  • エティエンヌ・ムリニエ:エル・バッシェル
  • ルイス・デ・ブリセーニョ:セギディーリャ
  • 作者不詳:ファド

初めて聴く音楽ばかり。休憩なしで2時間弱、典雅な世界を堪能した。古楽って心が落ち着くね。

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