批評/reviewとどう向き合うか? (映画・音楽・演劇など)
基本的に当ブログは批評/レビュー・サイトであると自認している。では僕にとって他者の批評文・評価は何を意味してきたかということについて今回は語ってみたい。いずれ将来、これを読むであろう息子(現在3歳)に対するメッセージとでもいうか、いわば「人生の先輩」からの助言である。
僕は小学校5,6年生の頃から「レコード芸術」誌を購読し始めた。そして「推薦盤」(現在は複数の評価となり「特選盤」となった)のレコード(CD)を中心にクラシック音楽を聴いてきた。
中学生の頃から映画に夢中になり、何から手を付けていいのか分からないので、歴代の「キネマ旬報」ベストテンにランクインした作品や米アカデミー作品賞受賞作(第1回から全作制覇)、カンヌ・ヴェネツィア・ベルリンなど代表的国際映画祭で最高賞を受賞した映画などを手当たり次第観てきた。
すると次第に分かってきたことは、確かに「名作」とか「名演」などと呼ばれるものに当たりは多いが、ハズレも少なからずあるということである。世間の評価が必ずしも自分の嗜好と一致はしないーという当たり前の結論に到達した(でもそれが分かるまで15年位かかった)。そこで大切なことは自分の意見に自信を失っては駄目だということ。他人と違っていていい。真っ直ぐがいい。世間体など気にせず「王様は裸だ!」と言える勇気を持とう。
アカデミー賞とか映画のベストテン、音楽コンクールなどは集計による多数決で決まる。しかし最大公約数の意見が正しいとは限らない。例えば現在では名作の誉れ高い「市民ケーン」も「2001年宇宙の旅」もアカデミー作品賞や監督賞を受賞していない。ヒッチコックの「めまい」なんかノミネートすらされていない。逆に過去の受賞作で忘れ去られたものも沢山ある。名ピアニスト;イーヴォ・ポゴレリッチはショパン国際ピアノ・コンクール本選で落選し、審査員のひとりだったマルタ・アルゲリッチは「彼こそ天才よ!」と怒り辞任した。ウラディーミル・アシュケナージはショパン国際コンクールで第2位だった。その時の第1位はアダム・ハラシェヴィチ。聞いたことある?アシュケナージが優勝しなかったことに納得しなかったアルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリは審査員を下りた。
時の洗礼を受けないと見えてこない真実は確かにある。ストラヴィンスキーのバレエ音楽「春の祭典」が初演時に大ブーイングでスキャンダラスな混乱を招いたことは余りにも有名だが、他にも初演時に評論家から不評で現在では名曲と認知されているものは沢山ある。ブルックナーやマーラーの交響曲もそう。現在ではベートーヴェン/交響曲第7番の決定的名演とされるカルロス・クライバー/ウィーン・フィルの録音は発売当初、「レコード芸術」の推薦盤にならなかった。時代を先取りし過ぎたのだ。
これは政治にも言えることだ。アドルフ・ヒトラーは「独裁者」と呼ばれるが、ナチスは普通選挙により正式な手続きでドイツの第一党となり、ヒトラーが首相に任命された。ドイツ国民が彼を選んだのだ。ロシア革命にしても帝政(ロマノフ朝)に反旗を翻し「民衆」が勝ち取った成果だが、その末路はどうだったか?
人は判断を誤ることがある。それは不可避だ。しかし一番大切なのは間違ったことに気付いた瞬間に立ち止まり、軌道修正することである。歴史はそうやって積み重ねられてきたし、その結果人類は良き方向に向かっている……そう信じたい。
芸術の話に戻ろう。では世間の評判を無視していいのか?と問われると答えは「否」である。自分の判断、殻に閉じこもっていれば世界は広がらないし、映画/CDとかは毎年無数に公開/発売されるわけだからその全てを観る/聴くことなど不可能なわけで、途方に暮れるだろう。指針(ナビゲーター)は必要だ。心の門を開き、他人の意見に素直に耳を傾け身を委ねてみよう。その上で取捨選択をすればいい。そのうちに自分と気の合う同士、感性が似たNavigator(Reviewer)と出会うだろう。要はバランス感覚だ。
息子へー
まずは先人の意見、賢者の知恵に耳を傾けなさい。ただそれを鵜呑みするのではなく、常に疑いの目で見てごらん。お父さんが言っていることだって正しいとは限らない。そのためにはブレない軸=自分の感性を磨きなさい。沢山観る/聴くこと。そして直感を信じなさい。他人と違う意見を言うことは勇気がいる。でもそれが出来る人は美しい。
読者へー
これが僕の人生哲学である。だから当ブログに書いていることが正しいなんて全く想っていない。違った意見があっていい。ただ、これから貴方が観る映画や聴く音楽を選ぶ参考になれば嬉しい。そういうスタンスでこれからもお付き合い頂ければ幸いである。
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