アナログ野郎=クリストファー・ノーラン吠える!〜映画「インターステラー」
評価:A
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「ダークナイト」「インセプション」のクリストファー・ノーラン監督が大胆(無謀!?)にもスタンリー・キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」に挑んだ野心作。
映画冒頭からいきなりハンス・ジマーの音楽がパイプオルガンの重低音で開始され、明らかに「2001年宇宙の旅」への宣戦布告をするのだからおったまげた。R.シュトラウス作曲「ツァラトゥストラはかく語りき」への対抗心むき出し。帰宅し調べてみると監督たっての希望でテンプル教会@イギリスのパイプオルガンが使用されているとのこと。登場するロボットのTARS(ターズ)CASE(ケイス)は黒光りする石版で、要するに「2001年」のモノリスを彷彿とさせる。「2001年」におけるHAL 9000の反乱に相当するイベントもあり(今回はコンピューター vs. 人間でないところがミソ)。
その他にも多くの人が指摘するように「フィールド・オブ・ドリームス」「ライトスタッフ」「未知との遭遇」「コンタクト」などへのオマージュあり。因みに本作を監修している理論物理学者キップ・ソーンはカール・セーガンが小説「コンタクト」を執筆する際にワームホール理論について情報提供をしている。あと僕が気がついたのはピーター・ハイアムズ監督の最高傑作「カプリコン・1」へ目配せ。本作で描かれる世界はNASAのアポロ計画の成果が政府によって否定され、アポロ11号が月に着陸したのはフェイクで、ソ連が宇宙開発に無駄に資金投資させるための戦略だったと教科書を書き換えさせたという設定。これって有人火星探査宇宙船カプリコン1号の物語をアポロ11号に置き換えただけだよね?
ウェールズの詩人ディラン・トマス(←ボブ・ディランの名前の由来となった)が父親の死に直面した時に作った詩が劇中で引用される(マイケル・ケインが朗読)。
Do not go gentle into that good night,
Old age should burn and rave at close of day;
Rage, rage against the dying of the light.
穏やかな夜に身を任せるな
老いたる者よ怒りを燃やせ、終わりゆく日に
怒れ、怒れ、消え行く光に抗って
要するに「親父、死ぬな!」と訴えているのであるが「インターステラー」に当てはめると、この「夜」とは「アメリカという国家の死」と言い換えることが出来るだろう。「怒れ」とは宇宙を目指すことを諦めたことに対して。そして「上を向いて歩こう」「いつでも夢を」これが監督からの熱いメッセージである。
クリストファー・ノーランは徹底的にデジタルが嫌い。本作で描かれるのはパソコンもスマートフォンも存在しない世界。代わりに本が重要な役割を果たす。現在世間ではデジタル撮影→デジタル上映が主流なのに、ノーランはフィルムで撮影することに固執し、3D上映も否定する。SF映画を沢山撮っているが極力CGは使わず、ミニチュアや“マックスチュア”(最大7m以上の模型!)を活用する。そもそもこの命名は「ロード・オブ・ザ・リング」の特撮工房WETAが作成した巨大ミニチュア=”ビガチュア”への対抗心だろう。「オレの方がもっと大きいぜ」と言いたいわけ。まるで子供だね。でもそこが愛おしい。要するに撮影方法も「2001年」が創られた時代(1968年)のスタイルを踏襲しているのだ。徹底したアナログ野郎である。
「2001年宇宙の旅」「未知との遭遇」「ゼロ・グラビティ」そして「インターステラー」に共通して言えることは、宗教映画だってこと。勿論、キリスト教とか既存宗教の概念を遥かに超越しているけどね。我々はどこから来て、どこへ向かうのか?生きることの意義、目的は?知的生命体は地球以外にも存在するのか、それとも我々は天涯孤独なのか?神は存在するか? ……そういった諸々の事を考えさせられる。所詮は「答えのない質問」なのだけれど、死ぬ間際までその問いを発し続けなければならない、それが人間なのだ。天空の星々を見上げる時、誰もが哲学者になる。星に願いを(When You Wish upon a Star)。←ちなみにこの「ピノキオ」の主題歌はスピルバーグ監督「未知との遭遇」の音楽にも引用されている。
ただ寡黙でダイアログの少ない「2001年宇宙の旅」や「ゼロ・グラビティ」と比べると、本作は饒舌で全篇が台詞で覆い尽くされているのが大きな違い。黙っている方が神秘性を増すと思うのだけれど、ノーランという監督は言いたいことが沢山あって、それが出来ない人なんだよなぁ。微笑ましい。
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