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2014年10月15日 (水)

いまを生きる

首吊り自殺したロビン・ウィリアムスの追悼として映画「いまを生きる」(Dead Poets Society , 1989)を鑑賞した。初めて観たのが24歳くらいで、その時はただただ退屈でしかなかった。しかし久しぶりに再見し、言わんとすること/アカデミー(オリジナル)脚本賞を受賞し、現在も「不朽の名作」として語り継がれる意味が漸く理解出来た。「死せる詩人の会」という原題が示すように詩の引用が多く、字幕では中々真意が伝わりにくいもどかしさがあるなと今回感じた。

Carpe_diem

ロビン・ウィリアムス演じる教師が全寮制学校の生徒に教える言葉として、カルペ・ディエムCarpe Diemというラテン語が出てくる。「その日を摘め」「一日の花を摘め」という意味で、英語ではseize the day(その日をつかめ)と訳される。紀元前1世紀・古代ローマの詩人ホラティウスの詩に登場する語句で、一日一日を大切に生きろという意味である。

これはメメント・モリMemento Mori=「死を想え」「死を記憶せよ」とほぼ同義語だと言える。西洋の静物画によく机の上に乗った頭蓋骨が登場するが、あれはMemento Moriを象徴している。どうせ自分はいつか必ず死ぬのだから、今を愉しめという警句である。

Pieter
ピーテル・クラース(クラースゾーン)「ヴァニタス」1630年

V_2
ポール・セザンヌ「頭蓋骨と果物」1895-1900

「ダークナイト」「インセプション」のクリストファー・ノーラン監督の出世作「メメント」(2000)は当然、Memento Moriに由来する。

これらの言葉はイギリスの詩人ロバート・ヘリック(1591-1674)の「時を惜しめと、乙女たちに告ぐ(To the Virgins, to Make Much of Time)」と密接に結びついている。次のような詩句だ。

Gather ye rose-buds while ye may,
Old Time is still a-flying:
And this same flower that smiles today
Tomorrow will be dying.

まだ間に合ううちに薔薇の蕾を摘むがいい
時は飛ぶように過ぎ去ってゆくのだから
今日微笑んでいるこの花も
明日には枯れてしまうだろう

そして大正時代に流行った「ゴンドラの唄」(吉井勇 作詞/中山晋平 作曲)は恐らくロバート・ヘリックの詩に基づいている。

この歌は黒澤明監督の映画「生きる」のクライマックスに登場する。志村喬演じる主人公は市役所の市民課長。ある日彼は自分が胃がんで余命いくばくもないことを知る。形式主義がはびこり、公園を作って欲しいという市民の要望をたらい回しにする組織(お役所仕事)の中で彼は奔走し、漸く完成させる。雪の中でそのブランコに揺られ、彼が歌うのが「ゴンドラの唄」。そしてそのままひっそりと息を引き取る。翌日、公園は子どもたちの笑い声で溢れていた。……カルペ・ディエムの精神がこの映画に息づいている。

そして僕はいま、3歳の息子にこの言葉を送りたいと想う。悔いのない人生を!

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