城田優 主演/ミュージカル「ファントム」
10月6日(月)梅田芸術劇場へ。ミュージカル「ファントム」を鑑賞。公式サイトはこちら。
この作品とロイド=ウェバー版「オペラ座の怪人」の関係性については下記記事で詳しく述べた。
僕は今まで「ファントム」を3人の演出家で観ている。大沢たかお版は鈴木勝秀の演出が悲惨でお話にならなかった。最低最悪、消したい記憶だ。宝塚版の中村一徳もそこそこ(凡庸)。今回のダニエル・カトナー(ハロルド・プリンスの弟子)バージョンが最も優れていた。演出により作品が輝くことを実感。スピード感溢れる舞台転換が鮮やかだし、特にピアノに座ったエリック(=ファントム)がクリスティーヌに歌のレッスンをする"You Are Music"(君は音楽)のナンバー、
Oh, you are music, beautiful music And you are light to me
(ごめん、日本語歌詞は覚えていない)
の箇所でクリスティーヌだけにスポットライトが当てられフッと明るくなり、やがてスッと暗くなる演出には感動した。 そう、彼にとってクリスティーヌは、暗闇の中で見出した唯一の光なのだ。また、仮面の下の醜い素顔を全く見せない(特殊メイクを施さない)方針も納得がいった。この作品に見世物小屋的オカルト要素は不要である。観客の想像力で補えばいい。(今後再演があるなら)宝塚版も見倣うべきだ。途中登場する「暗い森」の雰囲気も素敵だった。
今回改めて、原作は同じなのに「オペラ座の怪人」と「ファントム」は完全に異なる作品だなぁと痛感した。それはただ単に作詞・作曲家が別人ということだけではない。
「オペラ座の怪人」が初演された時(1986年)、作曲したアンドリュー=ロイド・ウェバーは38歳、ファントムを演じたマイケル・クロフォードが44歳、クリスティーヌ役のサラ・ブライトマンが26歳だった。そして84年から90年までウェバーとサラは結婚生活を送っている。本作はクリスティーヌがファントムを通して死んだ父親の幻影を見るというファザコンの話しであり、ファントムはあくまでも醜いおっさんで、ウェバーは明らかにそこにサラに対する自分の恋愛感情を重ねている。「オペラ座の怪人」25周年記念コンサートで彼はサラを"My angel of music !"(ファントムがクリスティーヌを呼ぶ名称)と紹介しているしね。
一方の「ファントム」は主人公エリックがクリスティーヌの美しい歌声を聴いて、死んだ自分の母親の面影を思い描く。つまりマザコンの物語なのである。エリックのイメージは初々しい20歳代の若者で、「ぼく」という一人称がよく似合う。「オペラ座の怪人」は「私」だ。
タイトルロールの城田優は傷つきやすい青年像を描き、申し分ないはまり役。背が高く舞台映えするし、ヴォイス・トレーニングの成果か以前より歌も随分上手くなった。ヒロインの山下リオ(「あまちゃん」の宮下アユミ役)は声量が乏しいが、綺麗な声で音程もしっかりしている。なにより可愛いし、顔が小さい!これが初舞台とは信じられないくらい健闘いていた。マルシアはコミカルな演技で笑わせてくれるし、歌姫カルロッタとして歌唱力にも不満なし(前回同役を演じた大西ユカリは全くオペラ歌手とかけ離れた歌唱で、怒り心頭に発した)。吉田栄作の歌はいただけないが、演技力でそれをカバー。最後エリックとのデュエットに僕は滂沱の涙を流した。それまで猫背だったのに、この歌でスッと背筋が伸びるんだよね。
是非このダニエル・カトナー演出版で再演して欲しいし、城田優と山下リオには続投を期待する。嗚呼、どうしてももう一度観たい!
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コメント
こんにちは。
こちらのサイトには初めて訪問させていただきました。
城田ファンとして嬉しく読ませていただきました。
途中「~仮面の下の醜い素顔を全く見せない(特殊メイクを施さない)方針も納得がいった」とありましたが、実はあの仮面の下に特殊メイクされてます。
下手側(特に二階席)だと角度によってはよく見えるそうです
でも客にはあえて見せないのが抑制が効いてるというべきなんでしょうか?
それはさておき宝塚や大沢版と比べて演出がショボイだの何だのと言われているので、こちらの評を読んで「アレはアレ,コレはコレ」と一観客のくせに開き直る事ができそうです
投稿: TAMA | 2014年10月14日 (火) 15時02分
TAMAさん、コメントありがとうございます。知りませんでした!しかし特殊メイクを施しながら客に敢えて見せないというのは、なんとも奥ゆかしいですね。多分、仮面から覗き見える目の為の処理なのでしょう。
投稿: 雅哉 | 2014年10月15日 (水) 08時34分
はじめまして。こちらの感想を拝見して、you are music の時にクリスティーヌだけにスポットライトが当たる演出に初めて気付きました。何度も見ていたはずなんですが…(この曲を歌う時のエリックが素晴らしく、そちらにばかり意識が集中していたようで)改めて見ると、仰る通り素晴らしい効果があったと思います。切なさ倍増で涙が止まりませんでした。全体的に抑制の効いた大人な演出で、ファントムの心情が丁寧に表現されていましたよね。ダニエル演出、城田エリック、リオクリスで是非再演して欲しいと思います。素敵なことを教えていただいてありがとうございました。
投稿: yamada | 2014年10月16日 (木) 23時07分
yamadaさん、嬉しいコメントをありがとうございます!
"You Are Music"でクリスティーヌの立つ場所が明るくなるのが、ほんの束の間というのがまたいいですよね。「一瞬の光」の切なさが心に滲みます。
投稿: 雅哉 | 2014年10月17日 (金) 08時10分
雅哉 様
ご無沙汰しています。
私も6日のファントム観に行ってました。
3階席で観たのですが、後ろスピーカーからの音が殆ど無く、東宝を見慣れている者としては、最初物足りなさを感じましたが、演者の生声を重視した音響にどんどん引き込まれました。
今回は歌える人達ですものね。
ただ、オケが舞台の後ろで生音が届いて来なかったのが残念でした。
城田エリック良かったですね。
小さい頃から人と隔絶した所で生きてきて、他者と交わらず大きくなった、子どものままのエリック…
宝塚の男役さんはカッコよくないといけないので、あそこまではできなかった。
大沢さんも、アクションがカッコよくてエリックの内面の弱さがあまり出ていなかった。
今回のファントムは、シンプルにエリックの内面が良く表現されていたと思います。
前回の大沢さんのは、ベッドに横たわる杏の美しさしか記憶に無いのですが、宝塚版と日本語歌詞が全く違うのですね。
エリザベートも違いますが、全く違ったので驚きました。
城田エリック、又観たいです。
投稿: *pino* | 2014年10月18日 (土) 13時31分
*pino* さん、コメントありがとうございます。
そうそう、大沢版のレビューにも書いたのですが、「オペラ座」のお話なので、やはりオケは舞台前方のオーケストラ・ピットに収まってくれていないと雰囲気が出ないですよね。まぁ劇団四季のカラオケ(東京公演以外)よりは、生演奏があった方がよっぽどマシですけれど。
僕は宝塚版を含め今まで4人の役者が演じるエリックを観ましたが、城田優が最も似合っていました。本公演が決定版であると確信しています。
投稿: 雅哉 | 2014年10月18日 (土) 13時58分