我が生涯、最愛の映画(オールタイム・ベスト)について語ろう。(その1)
10年前にHPで同様の企画をしたが、今回内容に変化がなければ困るなと想った。もし同じだったらここ10年で僕の感性が衰えた、生きながら死んでいるも同然ということを意味するからね。よくオールタイム・ベストテンという企画が雑誌などで組まれるが、選者が選ぶのって大体その人が青春期に観た映画なんだ。でもそれじゃ駄目だろう?単に「昔は良かった」という懐古趣味でしかない。
結論として色々入れ替わりがあってホッとした。()内は監督。
- はるか、ノスタルジィ(大林宣彦)
- 風と共に去りぬ(ジョージ・キューカー→ヴィクター・フレミング
→サム・ウッド)米 - めまい(アルフレッド・ヒッチコック)米
- ドクトル・ジバゴ(デヴィッド・リーン)英
- 風立ちぬ(宮﨑駿)
- サウンド・オブ・ミュージック(ロバート・ワイズ)米
- 秒速5センチメートル(新海誠)
- ニュー・シネマ・パラダイス(ジュゼッペ・トルナトーレ)伊
- 打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?(岩井俊二)
- 七人の侍(黒澤明)
- 山の音(成瀬巳喜男)
- ある日どこかで(ヤノット・シュワルツ)米
- 魔法少女まどか☆マギカ(新房昭之)
[前編]始まりの物語[後編]永遠の物語[新編]叛逆の物語 - フォロー・ミー(キャロル・リード)英
- 草原の輝き(エリア・カザン)米
- 冒険者たち(ロベール・アンリコ)仏
- シベールの日曜日(セルジュ・ブールギニョン)仏
- 恋のエチュード(フランソワ・トリュフォー)仏
- 禁じられた遊び(ルネ・クレマン)仏
- 甘い生活(フェデリコ・フェリーニ)伊
- 赤い靴(マイケル・
パウエル、エメリック・プレスバーガー)英 - E.T.(スティーヴン・スピルバーグ)米
- 初恋のきた道(チャン・イーモウ)中
- ジェニーの肖像(ウィリアム・ディターレ)米
- フィールド・オブ・ドリームス(フィル・アルデン・ロビンソン)米
- 素晴らしき哉、人生!(フランク・キャプラ)米
- 雨に唄えば(スタンリー・ドーネン、ジーン・ケリー)米
- 太陽の少年(チアン・ウェン)香港・中
- 殺人の追憶(ポン・ジュノ)韓
- ゼロ・グラビティ(アルフォンソ・キュアロン)米・英
- さらば、我が愛 /覇王別姫(チェン・カイコー)香港・中
原則としてひとりの監督につき1作品のみに絞った。そうしないと収集がつかなくなるから。例えば、大好きな大林監督作品だけでベスト10を選ぶことだって可能。やってみようか?
- はるか、ノスタルジィ
- 時をかける少女
- 日本殉情伝 おかしなふたり ものくるほしきひとびとの群
(外伝 夕子かなしむ) - 廃市
- ふたり
- さびしんぼう
- 野のなななのか
- この空の花 ー長岡花火物語
- EMOTION 伝説の午後 いつか見たドラキュラ
- 彼のオートバイ、彼女の島
- HOUSE ハウス
- 麗猫伝説(TV映画)
- なごり雪
- 転校生
- 青春デンデケデケデケ
- あした
- So long ! (AKB48 MV)
さて、リストを作成していて気付いたこと。「本当は愛し合っている男女が、結局結ばれない」という、失はれる物語が僕は好きなんだってこと。「ドクトル・ジバゴ」や「秒速5センチメートル」「ニュー・シネマ・パラダイス」「ある日どこかで」「山の音」「草原の輝き」「シベールの日曜日」「恋のエチュード」等がそれに該当する。映画だけじゃなく、僕が偏愛する小説「草の花」(福永武彦)や「嵐が丘」(エミリー・ブロンテ)なんかもそう。「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラとレット・バトラーも結婚はするけれど、最後は行き違いから別れることになる。これはもう、好みというか性癖だね。"It is written." ー遺伝子に刻み込まれているんだから、自分の意志ではどうしようもない。制御不能だ。
では第1位から順に選出(推薦)理由を述べていこう。
「はるか、ノスタルジィ」 このベスト・ワンは10年前から変わらない。完璧な映画。大林宣彦の流麗な演出、阪本善尚・撮影監督による玻璃のように繊細で美しい映像、大林監督の右腕でこれが遺作となった薩谷和夫による渾身の美術セット、そして心に沁み入る久石譲の音楽。文句のつけようがない。ミステリアスなヒロインを演じた石田ひかりも素晴らしい。言葉は虚しい。とにかく観てください。それしかない。
「風と共に去りぬ」 撮影中に監督が次々と交代した(ジョージ・キューカー→ヴィクター・フレミング→サム・ウッド)。脚本は作家のF・スコット・フィッツジェラルド(華麗なるギャツビー)をふくめ13人が手直しに携わったという。つまり本作は大プロデューサー:デヴィッド・O・セルズニックのものなのである。現在のハリウッドは監督の作家性が尊重されるので、こんな強引な形で製作者が作品をコントロールすることは事実上不可能。ハリウッド黄金期だからこそ実現した、最早失われた夢の世界である。
「めまい」 アルフレッド・ヒッチコック監督による傑作中の傑作。イギリスの最も権威がある映画雑誌 “Sight & Sound” が2012年に発表したオールタイム・ベスト50で堂々第1位の栄冠に輝いた。投票者は映画批評家を中心に、プログラマー、研究者、配給業者など、映画の専門家846名。また同時にマーティン・スコセッシ、クエンティン・タランティーノ、フランシス・フォード・コッポラを含む、358人の映画監督による投票も行われ、「めまい」は第7位だった(第1位:東京物語、第2位:2001年宇宙の旅、同2位:市民ケーン、第4位:8 1/2)。原作はミステリー小説だが、だれが犯人かなどというのはどうでもよく(実際映画の半ばで事件の真相が分かる)、全編を貫く悪夢のような雰囲気が魅惑的。墜ち続ける感覚。またワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」に基づくバーナード・ハーマンの浪漫的音楽が抜群に素晴らしい。
「ドクトル・ジバゴ」 デヴィッド・リーン監督の映画なら、「アラビアのロレンス」や「ライアンの娘」を本作と差し替えても一向に構わない。ただ「アラビアのロレンス」はむさ苦しい男ばかり出てくる映画なので、色気がないのが玉に瑕。初めて観たのが中学生くらいで、さっぱり内容が理解出来なかった(アラビア情勢は実に複雑だ)。特にロレンスがトルコ軍の捕虜となり、拷問を受ける場面で軍の司令官(ホセ・フェラー)が男色家(ゲイ)だということが当時は見抜けなかったので、ちんぷんかんぷんだった。映画を観る「適齢期」というのは確かにあるね。背伸びし過ぎた。「アラビアのロレンス」「ドクトル・ジバゴ」「ライアンの娘」で3度アカデミー撮影賞を受賞したフレディ・ヤングによるスケールが大きな映像が圧巻。詩人が主人公である「ドクトル・ジバゴ」ではリーン監督の繊細な演出にも注目(特に主観ショット)。自然描写が卓越している。また24人のバラライカ楽団をフィーチャーしたモーリス・ジャールの音楽の美しさも筆舌に尽くし難い。
「風立ちぬ」 前回まで宮崎アニメといえば痛快な冒険活劇「天空の城ラピュタ」が不動のベストだったが、「風立ちぬ」を観てこちらでもいいかなと初めて想った。詳しくは下記記事で論じた。作品を紐解くキーワードは”ピラミッド”。
「サウンド・オブ・ミュージック」 中学生の頃から大好きで、大学の卒業旅行でオーストリアのザルツブルクまで旅をして、ロケ地めぐりに勤しんだという想い出の作品。郊外のロケ地をめぐるバス・ツアーというのが毎日運行していて、確か発着は(「ドレミの歌」のロケ地)ミラベル公園だったように記憶している。バスに日本人は僕だけ!アメリカ人が多かったかな。現地の人は殆どこの映画を観てないそう。そりゃ、オーストリア人が英語を喋っているのだから不自然だよね。日本を舞台にしたハリウッド映画に僕達が違和感を覚えるのと同じことだろう。
「秒速5センチメートル」 については下記記事で十分に語ったので、もういいだろう。ブルーレイで観れば観るほどどんどん好きになっていく自分が恐ろしい。
そうそう、一言だけ追記。劇中でヒロインが読んでいる文庫本のタイトルー村上春樹「螢・納屋を焼く・その他の短編」、トルーマン・カポーティ「草の竪琴」、そして夏目漱石「こころ」。これらを読めば、作品をより一層深く理解出来るだろう。
「ニュー・シネマ・パラダイス」 映画好きにはたまらない作品。自分の少年時代の想い出に重ねて観てしまうんだよね。これほど泣いた映画も後先ない。涙腺崩壊とは正にこれ。そして嗚呼、エンニオ・モリコーネの音楽!ずっと以前、映画評論家・森拓也が「キネマ旬報」で本作に登場する映画館に映写機が一台しかないのはおかしいと得意気に書いていた(→詳細はこちら)。しかし大林宣彦監督によると、この映画で描かれているのは「流し込み上映」という手法で、実際に映写機一台でこの流し込みをやっている映画館が高知県にあるという(→こちら!)。いやぁ、驚いた。そして溜飲が下った。ざまあみろ、森拓也。なお本作には最初に上映された2時間4分の国際版と、後に公開された2時間50分ディレクターズ・カット版があるが、僕は断固短い国際版を推す。全長版を観て、「世の中には知らない方が幸せなことってあるんだな」と思い知った。決してディレクターズ・カット版はお勧めしない。正直がっかりした。
「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」 「LOVE LETTER」と並び岩井俊二(脚本・監督)の最高傑作であり、奥菜恵絶頂期の記録としても永遠の価値を有している。岩井監督は「LOVE LETTER」の酒井美紀といいい、「花とアリス」の蒼井優といい、少女が放つ一瞬の煌きをすくい取り、フィルムに永遠に刻みつけることに長けている。それは正に魔法の瞬間である。青春という「失われた時を求めて」、ワンダーランドにようこそ。元々はTVシリーズ「If もしも」の1編として1993年にフジテレビで放送された45分の小品。日本映画監督協会新人賞を受賞。またTV版「モテキ」で満島ひかりと森山未來がこの「打ち上げ花火」のロケ地めぐりをする回があり、出色の出来。大学生の頃、繰り返し尾道に旅をして大林映画のロケ地めぐりをしていた自分自身を見ているようで爆笑した。青春って恥ずかしい。でもそれでいい。
「七人の侍」 泣く子も黙る黒澤明の代表作にして日本映画屈指の名作。これを観たことない日本人は、いわばシェイクスピアやディケンズを知らないイギリス人みたいなものだね。つまり基本的教養だ。黒澤の「生きる」については下記で語った。
「山の音」 成瀬巳喜男監督は「浮雲」や「女が階段を上る時」などドロドロした男女の恋愛を描くのが上手い人だが、「山の音」は初老の男(山村聰)とその息子の嫁(原節子)との恋愛感情を描いている。実に際どいテーマだが、決してその気持が言葉で示されることはなく、プラトニックなまま終わる。成瀬監督が醸しだす空気感が絶妙で心地いい。痺れる。大人だねぇ。鎌倉の美しい風物が華を添える。モノクロ作品。
カルト映画「ある日どこかで」に関しては、下記で語り尽くした。
「魔法少女まどか☆マギカ」 については三部作あり。
これからこの大傑作に出会う人々への僕からの切実なお願いはどうか劇場版からではなく、全12話のTVシリーズから入っていって欲しいということである。「騙されることの快感」が必ずそこにはあるから。
「フォロー・ミー」 については下記記事を参照のこと。
キャロル・リード監督作品では光と影が交差し、白黒映像の美を極めた「第三の男」(カンヌ国際映画祭グランプリ)も捨て難い輝きを放ち続けている。
「草原の輝き」 については下記記事をどうぞ。
同じエリア・カザンの監督作品ではジェームズ・ディーン主演の「エデンの東」もいいね。エデンの園から追放された主人公の母親=ハリウッドに赤狩りの嵐が吹き荒れていた時代に、司法取引をして仲間を売ったカザン(元共産党員)自身とも解釈出来る。
16位以下の作品については、また後日改めて語りたい。乞うご期待。
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