大阪クラシック2014「9の呪い」
今年が9回目となる大植英次プロデュース「大阪クラシック」を聴いた。僕は第1回目から毎年足を運んでいる。今年のテーマは「9曲=究極」。ベートーヴェンの交響曲(第九)に端を発する「9の呪い」についても取り上げられた。
9月8日(月)第20公演@大阪証券取引所ビル1階アトリウム
日本センチュリー交響楽団の女性奏者による
- ボロディン/弦楽四重奏曲 第2番
大好きな曲。特に第3楽章 夜想曲 が有名。科学者・医学者として活躍し、同時に「日曜作曲家」でもあったアレクサンドル・ボロディンが、愛を告白した20周年記念として妻に捧げたカルテットというのが何ともロマンティックではないか。
第23公演@大阪市中央公会堂 中集会堂
クラリネット:田本摂理、ホルン:高橋将純、ファゴット:常田麻衣、ヴァイオリン:田野倉雅秋、石塚海斗、ヴィオラ:岩井英樹、チェロ:林口眞也、コントラバス:山田俊介で、
- シューベルト/八重奏曲
朗々としたホルンの響きに魅了された。気持ちいい!弦の音色も瑞々しい。ただ、チェロはもっと雄弁に歌って欲しいと想った。クラリネットはまろやかで控え目。調和の美しさがあった。田野倉コンサートマスターは「俺が俺が」という自己主張はせず、その清潔感が好ましい。前任の長原幸太との大きな違いだ。
作家の村上春樹も指摘しているが、シューベルトの音楽は冗長で緩い(特に弦楽五重奏曲や交響曲 ハ長調「ザ・グレイト」など)。しかしその「退屈さを楽しむ」ことに独特の味わいがあることを僕は最近発見した。
9月9日(火)第34公演@ザ・フェニックスホール
ヴァイオリン:田野倉雅秋、チェロ:近藤浩志、ピアノ:澤田智子で、
- チャイコフスキー/ピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の思い出に」
ピアニストは田野倉夫人とのこと。生で聴くと、ピアノが難しい曲だなと感じた。いくつか音抜けがあった。考えてみれば本作は旧友ニコライ・ルビンシテインへの追悼として作曲されたが、ルビンシテインはチャイコフスキーが献呈しようとしたピアノ協奏曲第1番を「演奏不可能」と酷評し、書き直しを要求したというエピソードが残っている。今回のトリオはよく歌い、時に激しい火花を散らせた。ヴァイオリンは抑制が効いている。第2楽章の変奏曲はマズルカやロシアの民族舞踏、ワルツあり、フーガありとバラエティに富む。フィナーレで冒頭のテーマが戻っくてくると詠嘆の心情を強く訴えかけてくる。そして最後は葬送行進曲になり、静かに消え入る。聴き応えがあった。
9月10日(水)第47公演@ザ・フェニックスホール
ヴァイオリン:崔 文洙、ピアノ:吉山 輝で、
- ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ 第9番「クロイツェル」
- ベートーヴェン/ロマンス 第2番(アンコール)
野太い音でwildな演奏。ちょっと荒っぽいかな?とも想った。
9月12日(金)第68公演@ザ・シンフォニーホール
大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団で、
- ドヴォルザーク/交響曲 第9番「新世界より」第2楽章
- ブルックナー/交響曲 第9番 第2楽章
- マーラー/交響曲 第9番 第4楽章
いわゆる「9の呪い」特集。
大植英次は自筆譜の楽譜を聴衆に示し、「大フィルは本物しかやりません!」と力強く宣言した。
しかし、何と「新世界より」第2楽章はトリオ(中間部)をカットした短縮版での演奏。「それでええんかい!」とツッコミを入れておく(多分、時間の関係だろう)。
ブルックナーはテンポを動かし過ぎだと想った(些かあざとい)。ゲネラルパウゼ(総休止)直後の音の出だしを一部の奏者がフライングしたりと、練習不足も垣間見られた。
しかし大植得意のマーラーはお見事の一言。粘り腰で弦の強奏が鮮烈。高橋将純のホルン・ソロがまた心地よく胸に沁みる。万感の想いが込められた演奏で、「ああ、大植さんは今、レニー(レナード・バーンスタイン)と一緒に指揮台に立っているんだなぁ」と感じられた。僕は映画「砂の器」のクライマックスで、コンサートホールに響くピアノ協奏曲「宿命」を聴きながら丹波哲郎演じる刑事が言う台詞を想い出した。
「今、彼は父親に会っている。 彼にはもう音楽の中でしか父親に会えないんだ!」
終始鬱々と、黒雲が立ち込め悪天候の「大地の歌」とは異なり、第9番の終楽章は晴れ渡り、音楽は青空の彼方に吸い込まれるように消えてゆく。ロマン派、そして調性音楽の終焉。死の受容、魂の解放。けだし名演だった。
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