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「アナと雪の女王」とエリザベート(ミュージカル)

ディズニー映画「アナと雪の女王」の勢いが止まらない。興行成績ではピクサーの「トイ・ストーリー3」を凌駕し世界で最もヒットしたアニメーション映画となり、日本でも観客動員数歴代2位の「タイタニック」を超え、第1位「千と千尋の神隠し」に迫っている。既にDVD・ブルーレイが発売され、こちらも数々と記録を塗り替えている。しかし、まだ一部の映画館では上映中。日本語吹き替え版の松たか子と神田沙也加の評価も高く、サウンドトラックCDやダウンロード版も飛ぶように売れている。

アイドル評論家で作家の中森明夫氏が独自解釈で「アナ雪」を論じるも、あるタブーに触れたため「中央公論」から掲載拒否されたことでも話題になった。

僕は概ね、中森氏に同意する。ディズニーが王子様の価値を否定したことも、エルサとアナが一人の女性の内にある二つの人格だというご意見も至極ごもっとも、仰る通りである。見事な論評だ。ただし、以下(引用)の箇所はいただけない。

本来、映画のテーマ曲はクライマックスに流れるものだろう。ところが『レット・イット・ゴー』はアナが救済される最終盤ではなく、前半部にエルサが王国を追放されてたった一人、山奥で自らの魔力を全開にするシーンで流れるのだ。

これは余りにもミュージカルに対して無知な人の発言だ。例えば同じディズニー映画「美女と野獣」のタイトル曲や「アラジン」の”ホール・ニュー・ワールド”(いずれもアカデミー歌曲賞受賞)は物語の半ばで歌われる。舞台ミュージカルの場合は基本的に二幕ものだが、「ウエストサイド物語」の”トゥナイト”や「ファイ・フェア・レディ」の”踊り明かそう”、「ラマンチャの男」の”見果てぬ夢”、「キャッツ」の”メモリー”や「オペラ座の怪人」のタイトル曲も全て第一幕で歌われる(映画版も前半部)。つまり”ありのままで”が劇中で歌われる位置はミュージカルの常套手段なのだ。何も特別なことじゃない。

ここで僕はウィーン・ミュージカル「エリザベート」(現在、宝塚大劇場で上演中)と「アナと雪の女王」の類似点について指摘しておきたい。まず主人公の身分が似ている。かたやオーストリア皇后であり、かたや女王である。そしてどちらも国を治めるトップとして自我を抑えるという責務を拒否し、自由を希求する。「エリザベート」の代表曲”私だけに”(やはり第一幕で歌われる)の歌詞、

鳥のように解き放たれて
光めざし夜空飛び立つ
でも見失わない
私だけは

は、明らかに「アナ雪」の”Let It Go(ありのままで)”と全く同じ内容を歌っている。力強い曲調も似ている。歌の途中で朝日が昇ってくるシチュエーションもそっくりだ。

エルサが皇帝一族のしきたりに束縛されたエリザベートに相当するのだとしたら、妹のアナは結婚する前のシシィ(=エリザベートの愛称)だ。エリザベートは継母の皇太后ゾフィーに対し「馬に乗ります!」と宣言して却下されるが、アナは宮殿で自転車に乗っている。幼い日のアナはエルサが魔法で作った氷の山から転落するが、これは「エリザベート」でシシィが綱渡りしている途中に落っこちるエピソードに呼応している。またアナ&ハンス王子=バカップルによるデュエットは、エリザベートにフランツ・ヨーゼフが求婚する場面を彷彿とさせる。アナとハンスは「私たちは よく似てるわ」と歌うが、「エリザベート」では息子のルドルフがママに「僕たちは似たもの同士だ」と歌う(しかし実際には全然似ていない)。

こうして比較していくと、「アナ雪」がミュージカル「エリザベート」を徹底的に研究し、参考にしたことがよく分かるだろう(「知らなかった」とは言わせない)。ただどうしてそのことに今まで気付かれなかったのかというと、「エリザベート」が主に上演されているのはドイツ=オーストリア=ハンガリー圏と日本であり、ニューヨークやロンドンなど英語圏で上演されていないため、殆ど知られていないことが幸いしたと言えるだろう。

誤解のないよう申し添えておくが、僕は「アナ雪」が「エリザベート」を模倣したと非難しているのでは決してない。「アナ雪」の楽曲は大好きだし、そういう参照は芸術作品にしばしばあることだ。シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」もそれに基づくレナード・バーンスタイン作曲のミュージカル「ウエストサイド物語」もどちらも傑作だし、オペラ「蝶々夫人」とミュージカル「ミス・サイゴン」、そしてオペラ「ラ・ボエーム」とミュージカル「RENT」の関係性も同様である。

世界中の女性達が「アナ雪」に感動し、自我に目覚め、これから「ありのままで」生きていくことだろう。大いに結構。僕は彼女たちにエールを送りたい。ただし、自由を得ることと引き換えに、その代償も払わなければならないこともお忘れなく。ひとりで旅を続けたエリザベートの晩年は孤独だったし、「アナ雪」のエルサも最後は人生の伴侶を得ることもなく、一人ぼっちだ。

「アナ雪」の共同監督のひとり、ジェニファー・リーはディズニー長編アニメ53作目にして“初”の女性監督となった。劇中のナンバー「生まれてはじめて」でフランスの画家ジャン・オノレ・フラゴナールが描いた「ブランコ」という絵画が登場する。

Anna
(「アナ雪」バージョン)

       ↓

B
(オリジナル版;ちなみに後方でブランコを引っ張っているのが貴婦人の夫、前方で寝そべり、スカートの中を覗いているのが彼女の愛人とも解釈出来る)

実はこの絵、トニー賞を受賞したミュージカル「コンタクト」のコンセプト・アートとしても使用されているのだ。

「コンタクト」の振付・演出をしたのはスーザン・ストローマン。彼女は2001年に「プロデューサーズ」でトニー賞の最優秀ミュージカル演出賞を受賞した。これは1998年に「ライオンキング」でジュリー・テイモアが受賞したのに続き、女性演出家として二人目の快挙であった。だから当然、この絵を使用したことはアナの奔放さを象徴するのと同時に、スーザン・ストローマンに対するリスペクトの意味もあるのだろう。

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