イザベル・ファウスト&アレクサンドル・メルニコフのブラームス
6月24日(火)いずみホールへ。イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)、アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ)で、
- シューマン、ブラームス、ディートリヒ/F.A.E.ソナタ
- ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ 第1番「雨の歌」
- ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ 第2番
- ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ 第3番
- シューマン/ロマンス イ長調 Op.94-2(アンコール)
ピリオド・アプローチ(時代奏法)を熟知したファウストは幽(かそけ)きヴィブラートを掛け、モノ・トーンの印象。
F.A.E.ソナタとは名ヴァイオリニストヨーゼフ・ヨアヒムの座右の銘"frei, aber einsam"(自由だが孤独)の頭文字F-A-Eの音名をモチーフとしている。第1楽章はシューマンの弟子で後に「ブラームスの思い出」を執筆したアルベルト・ディートリヒが作曲し、第2と第4楽章をシューマン、第3楽章スケルツォをブラームスが担当した。"frei, aber einsam"(自由だが孤独)という言葉で宝塚宙組「翼ある人びと-ブラームスとクララ・シューマン-」のことを想い出した。ファウストの演奏は軽やかで自然体。のびやかに歌う。第2楽章「間奏曲」は優しく包み込むよう。ブラームスによる第3楽章は才気が迸る。
続くブラームスのソナタは禁欲的で淡い色彩。F.A.E.が1853年の作品で、ブラームスの第1番「雨の歌」が1878-9年だから実に25年の歳月が経過している。いかに彼が慎重だったか窺い知れよう(その間、幾つものソナタが破棄されたという)。
「雨の歌」第3楽章は同名の歌曲の旋律を採っている。その歌詞(詩:クラウス・グロート)は、
雨よ降れ、降れ
子供のころのあの夢を
もう一度呼び覚ましてくれ、
雨水が砂の上で泡立つ時に(中略)
裸足で雨に打たれ、
草の中に手をさし伸べ、
手で水の泡に触れるのは、
なんと楽しいのだろう(中略)
身震いのするほど冷たい、全ての雨滴が
降りてきて、この鼓動する胸を冷やし、
こうして、創造の聖なる営みが
私のひそやかな命に忍び入るのだ
素敵でしょう?これはクララ・シューマンが愛した歌曲だったという。ブラームスって、意外とロマンティックだよね。
ソナタ第3番 終楽章のプレスト・アジタートは激しいながらも、同時にクールな演奏だった。
ファウストの弾くブラームスは、決して奏者の自己主張を前面に押し出すことなく控えめで、音楽に寄り添ったものだった。しみじみと、寂しいけれどほんわか心に温かい余韻が残る、素晴らしいコンサートだった。
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