映画「渇き。」
評価:A-
問題作である。巷では賛否両論喧しく、嫌いな人は吐き捨てるように罵倒する。キャッチコピーは「愛する娘は、バケモノでした。」「あなたの理性をぶっ飛ばす劇薬エンターテイメント!!」。公式サイトはこちら。
監督は「告白」でも物議を醸した中島哲也。主演は役所広司、その娘・可奈子を小松菜奈(18)が演じる。また「告白」「あまちゃん」の橋本愛、「私の男」の二階堂ふみなど旬の女優たちが脇を固めている。
118分の上映時間中、観客は黒板を爪で引っ掻く音を始終聞かせれるような生理的不快感を強いられる。中島監督は意図的に人の神経を逆なでするような作品に仕上げた。「告白」よりも悪意は遥かに増幅され、パワーアップている。レイティングはR-15だが、R-18でもいいんじゃないか。それぐらい過激である。
小松菜奈の役どころはいわば「魔性の女」=ファム・ファタールである。この女のためならどこまでも落ちていきたい、破滅しても構わないと、どんな男でも覚悟する。そんな感じ。彼女はファッションモデル出身だし可愛い顔なので「小悪魔的」と評したいところだが、どうしてどうして、とんでもない悪魔、正真正銘のボス・キャラである。
中島監督の演出スタイルはこれまでの作品「下妻物語」「嫌われ松子の一生」「告白」などとはぜんぜん違う。僕は鈴木清順のアヴァンギャルド(「野獣の青春」「けんかえれじい」「東京流れ者」「殺しの烙印」)に近いと感じた。本作で役所広司が演じる元・刑事役は、まるで清順映画における宍戸錠みたいに破天荒・破れかぶれだしね。
本作が好きかと問われたら答えはNo.だ。観ていて気持ちが良いものではないし、他者にもお勧めしない。しかし紛れもない傑作であることは決して否定出来ない。嫌いだけれど作品の有する圧倒的力は認めざるを得ない。そういう立場だ。これを悪しざまに罵る連中は何も分かっちゃいねーんだよ。
物語の冒頭、役所広司が狂犬のように叫ぶ「ぶっ殺す!」という台詞と、小松菜奈が耳元で囁く「アイシテル」が対比されるが、そのギャップ、振幅の大きさが映画のリズムとなり、人間とはどういう存在かを観客に突きつける刃となる。出来ることなら目を逸らしたい。しかし、(残念ながら)ここには紛れもなく不都合な真実があるのだ。
余談だが中島監督が実写版「進撃の巨人」映画化プロジェクトから降板したのは返す返すも残念だ(その代わりが「ローレライ」「日本沈没」の樋口真嗣って……)。
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