どうして主人公の少女の瞳は青いのか?〜映画「思い出のマーニー」
評価:B
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原作は1967年にジョーン・G・ロビンソン(女性)が上梓した英国の児童文学である。その舞台を北海道の湿原に置き換え翻案している。恐らく原作に敬意を払った結果なのだろう、アンナとマーニーという名前を残したために無理が生じている。そもそも主人公の少女・杏奈の目が青いという時点で、この映画の重要な秘密のネタバレになっているのだからいただけない。もしそれに気づかなかった観客がいたとしたら、正真正銘の子供か、単なる間抜け(=関西では”アホ”とも言う)である。原作通りイギリスを舞台にしてアニメを製作するか、翻案したいのなら思い切ってマーニーの名前を変更し、日本人にするべきだったと僕は想う。脚色が中途半端なんだよ。また設定が偶然に頼り過ぎでご都合主義、詰めも甘い。
まあそういった疵もあるが、僕は基本的にこの作品世界は好きである。さすがスタジオ・ジブリ、背景美術も丁寧に書き込まれていて美しい。
僕が本作を観ながら思い出した映画が3本ある。それらについて書いていこう。きっとより深く理解する上で役に立つと想うから。
まずは「ジェニーの肖像」(1948、米)。原作は1938年に刊行されたロバート・ネイサンの幻想文学である。少女の幻想の立ち現れ方が似ているし、特にマーニーがサイロで嵐に怯える場面は「ジェニーの肖像」の灯台の場面を彷彿とさせる。
そしてジュリアン・デュヴィヴィエ監督の「わが青春のマリアンヌ」(1955、仏)。原作はドイツのペーター・ド・メンデルスゾーンが書いた「痛ましきアルカディア」。霧に包まれた湖の対岸にある古城に幽霊が現れ、主人公がボートを漕いで訪ねて行くという設定がそっくりだ。松本零士がこの映画を偏愛しており、ヒロインのイメージがメーテルの造形に多大な影響を与えていることは余りにも有名。「わが青春のアルカディア」という作品も書いているしね。
また「思い出のマーニー」では主人公が幼いころ母が歌ってくれた子守唄としてタレガ作曲のギター独奏曲「アルハンブラの思い出」が使用されている(劇中では歌詞のないヴォカリーズとして歌われる)。これを聴いてギレルモ・デル・トロ監督のダーク・ファンタジー映画「パンズ・ラビリンス」(2006)の子守唄が脳裏に蘇ってきた。今初めて気がついたのだが両者は明らかに似ている。「パンズ・ラビリンス」がスペイン内戦を背景としており、タレガもスペイン人というのは決して偶然ではないだろう。「パンズ・ラビリンス」は一人の孤独な少女が空想する(現実逃避の)世界を描いているが、「思い出のマーニー」との共通点も多い。もしかしたら米林宏昌監督はこの映画が好きなのかも知れないな、とふと想った。
色々欠点もあるが、偉大なる宮﨑駿の影響を逃れて米林監督はよく頑張った。その健闘を讃えたい。
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