DOCUMENTARY of AKB48 The time has come 少女たちは、今、その背中に何を想う?
評価:A
映画公式サイトはこちら。AKB48のドキュメンタリー第4弾である。僕は全て観ているが、寒竹ゆりが監督した第1作は凡庸で、救いようのない駄作であった。しかし、メジャーデビュー間もない頃の「軽蔑していた愛情」から彼女たちのMVを多数撮ってきた高橋栄樹監督にバトンタッチして以降の3作は見違えるほどの完成度の高さを誇ることになる。特に3・11東日本大震災と、西武ドームでのコンサートで楽屋裏では過呼吸で倒れた前田敦子が果敢にステージに立つ姿に焦点を当てた第2作は掛け値なしの大傑作であった。
第2作ほど大きなテーマがなく、前田敦子の卒業と「センター=立ち位置0とは一体、彼女たちにとって何を意味するのか?」を問う第3作は些かトーンダウンの印象を拭い去れなかった。もうネタ切れかな?と僕は想った。実際、毎年2月に新作が公開されていたのに今年は音沙汰がなかった。しかし、約半年遅れてこの7月に第4作が登場した。恐らく大島優子卒業を待っての、このタイミングなのだろう。そうこうしている間に世間を震撼させた握手会襲撃事件が偶然発生し、ちゃっかり盛り込まれた。時期をずらした価値は十二分にあったのだ。
第2作の時もそうだったが、本作を観てつくづく身に沁みるのは「これは戦争映画だ!」ということ。ある人が本作を「これは高橋版『仁義なき戦い 代理戦争』だ」と評したが、言い得て妙である。
AKBグループのメンバーが置かれた状況は余りにも過酷である。弱肉強食、一瞬でも気を抜いたものは生き残れない。かといって努力だけでは報われない。運(例えば生まれ持った容姿・資質)にも左右される。「運命の女神は果たして自分に微笑んでくれるのか?」どうかは誰にも分からない。四面楚歌、周囲は敵ばかり。秋元康を含む運営スタッフも決して味方ではない。ある日突然「大組閣祭り」と称して地方へ飛ばされる女の子もいる。人事異動についての説明は一切ない。何が起こっているのか、全く状況が把握出来ない。彼女たちは一瞬にしてパニックとなり極限状態に追い詰められる。非情だ。しかし、そこから何かが生まれる。それを秋元(=運命の女神、いや悪魔?)は狙っているのだが……。
大組閣で名古屋のSKE48の移籍を命じられた佐藤すみれや大阪のNMB48に行くことになった藤江れいなは、発表の瞬間立っていることも出来ず泣き崩れるが、翌日のインタビューでは既に立ち直り、前向きなコメントをしているのが印象的だった。彼女たちはタフだ。そういう者のみがこの残酷な世界で生き残れる。
対象となる期間は1年半だが本作はその焦点を昨年12月31日の紅白歌合戦から今年6月の襲撃事件及び総選挙までに絞っている。その狙いは大成功だったと言えるだろう。紅白で卒業発表をする予定の大島優子のリハーサル時の不安そうな顔をカメラはアップで捉える。総監督・高橋みなみ以外のメンバーは未だ誰もその事実を知らない。また優子の卒業セレモニーが行われる予定だった国立競技場ライヴが悪天候で中止になった時、その知らせを聞いた彼女が号泣する瞬間もカメラに収められている。ここで一瞬、無音になる演出もいい。セレモニー中止になる前日ライヴ(曲目はUZA)の畳み掛けるような編集も素晴らしい。さすが高橋監督、数々のMVを撮ってきたキャリアは伊達じゃない。またこの時の舞台がまるでシルクド・ソレイユみたいなアクロバティックな演出で観応えがある。
総選挙でスピーチするメンバーの後ろ姿をキャメラは舞台袖から撮る。雨が激しく降っている。彼女たちの眼の前に広がるのは茫洋たる暗闇。絶対的孤独……。このドキュメンタリーのテーマを象徴する風景である。日本のアイドルの生き様はハードボイルドだ。
また本作には総選挙の順位(36位)に落ち込んでいるこじまこ(小嶋真子、チーム4→K)に対し「今年はあなたの名前を知ってもらう年。来年羽ばたけばいいんだから」と慰める芽野しのぶ(衣装チーフ・デザイナー兼グループ総支配人)の様子とか、公演初日のように舞台上で時めかない自分に対して苛立つ岡田奈々(チーム4)の憂鬱とか、次世代に対する目配りも怠りない。100点満点である。
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