弦楽四重奏でプログレ!?〜モルゴーア・クァルテット 大阪公演
6月23日(月)ザ・フェニックスホールへ。
モルゴーア・クァルテットで、
- リゲティ:弦楽四重奏曲 第2番 (1968)
- ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲 第13番 (1970)
(休憩) - ピンク・フロイド:原子心母 (1970)
- キング・クリムゾン:レッド (1974)
- イエス:危機 (1972)
前半が20世紀のクラシック音楽で後半がプログレッシブ・ロック。いずれも1968-1974というほぼ同時代に作曲されたもの。極めてユニークなプログラムである。昨年のコンサートの感想は下記。
リゲティの曲は室内楽の森へ〜厳選!これだけは絶対聴いておきたい80曲でも取り上げたが、体の皮下組織を虫がモゾモゾ蠢き、「痒い〜っ!!」とのたうち回るような音楽。様々な技法を駆使し次々と趣向が凝らされており、変化に富んで面白い。激しくて、「とんがった」演奏。
ショスタコーヴィチは沈鬱で、諦念の感情が色濃い。死の淵からの叫びが聴こえた。
後半プログレッシブ・ロックのアレンジは全て第1ヴァイオリン荒井英治氏が担当。
ピンク・フロイド「原子心母」は原題Atom Heart Motherの直訳。プログラムノートで荒井氏は「3.11のショックがなければ、恐らくこの曲を手がけることはなかったろう。小野富士(ヴィオラ)の出身地、福島への思いを込めた」と書いている。原子力エネルギー(atomic energy)に対する切実な、切羽詰まった警鐘、大地の怒り、祈りといったもろもろの要素が詰まった作品に仕上がっていた。僕はこのカヴァーを聴いていて、震災後の福島でロケを敢行した園子温監督の映画「希望の国」のことを想い出した。「希望の国」では全篇にマーラー/交響曲第10番が流れる。そう、「原子心母」はマーラーのシンフォニーに繋がっている。
「レッド」は体でビートを刻み、髪を振り乱してシャウトする感じ。ベトナム戦争への抗議とか、怒れる若者たちの反逆・反骨精神に溢れ、ノリノリの演奏。「さぁ、パーティの始まりだ!」聴衆は熱狂の渦へと巻き込まれた。僕はスティーブ・ジョブズがスタンフォード大学でしたスピーチを締めくくる言葉"Stay hungry,stay foolish"を想い出した。
イエス「危機」第1部からは鳥の声が聞こえ、第2部はフォーク調で踊りたくなる気分。第3部は天上の音楽。マーラー/交響曲 第4番 終楽章を彷彿とさせる。第4部は混沌(カオス)。時は遡行し、ビッグバンから無に還る。
荒井氏から挨拶。「(おじさんがプログレを演奏するのは)大変ですわぁ。あと5年位したら弾けなくなるんじゃないかと思います。まだ音大生だった若い頃は周りに『イエスとかキング・クリムゾンって、すごいよね』と語り合える友達がいなくて悲しかったけれど、今はこうして仲間が出来ました」と。
アンコールは東日本大震災にショックを受けてキース・エマーソンが書き上げた「ザ・ランド・オブ・ライジング・サン」。瞑想的で心に沁み入る音楽だった。
僕がこれからのモルゴーア・クァルテットで聴きたい曲はまずなんといってもアルベリク・マニャール/弦楽四重奏曲。あとフィリップ・グラス/弦楽四重奏曲 第3番「MISHIMA」もいいな。スティーヴ・ライヒ/ディファレント・トレインズも是非聴きたいのだが、言葉や汽車の音、サイレンなどを録音したテープとの共演なので、果たしてライヴで演奏可能なのかな?
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コメント
雅哉さん、こんにちは。
モルゴーアの演奏会、今回もとても楽しかったですね!
学生のころちょっとだけプログレのリバイバルブームがあって、クリムゾンやフロイドにかぶれていた時期があったのですが、イエスはなんだかおじさんっぽくて好きではありませんでした。。(好きな方に怒られそうですが)
だけど、今回で「危機」ってこんなにドラマティックな曲だったんだ!って目から鱗でした。
一昨年の演奏会で、クラシックは演奏下手でもなんとかなるけど、ロックはそうはいかないんですよって荒井さんが言って笑いを誘っていましたが、ほんとに大変なのかもしれませんね。
次回のプログラムも楽しみですね!
投稿: mai | 2014年6月30日 (月) 13時10分
maiさん、コメントありがとうございます。
終演後のサイン会で、荒井さんから「次は(エマーソン・レイク&パーマーの)タルカスを狙っているんですよ」と伺いました。「タルカス」といえば吉松隆さんによるオーケストラ編曲が話題沸騰となり、NHK大河ドラマ「平清盛」でも使用されましたよね。弦楽四重奏版も愉しみです。
投稿: 雅哉 | 2014年6月30日 (月) 21時22分