宝塚バウ・ミュージカル「ノクターン -遠い夏の日の記憶-」
6月26日(木)宝塚バウホールへ。花組「ノクターン -遠い夏の日の記憶-」を観劇。
台本・演出は原田 諒。ロシアの文豪イワン・ツルゲーネフの「初恋」が原作である。
ツルゲーネフ「初恋」の評判は中学生の頃から耳にしていたが、「どうせ古典的で退屈な恋愛小説だろ」という先入観から読む気になれなかった。しかし今回、この作品を観てびっくり!ドロドロした大人の話だった。
兎に角、瀬戸かずや演じる主人公の父親のキャラクターが最高に可笑しい。普通、息子の初恋の相手を愛人にしようとする!?鬼畜の、どスケベオヤジである。世の中を斜めから見た虚無的な台詞もいい。「所詮、この世は夢」なんて痺れたね。ヒロイン・ジナイーダの母親がどうしようもない守銭奴で、かつてはモスクワの高級娼婦だったという設定にもぶっ飛んだ。
主役の柚香 光はけだし美形の男役である。ヴィジュアル的に完璧といえるだろう。彼女が将来、トップ・スターになることは間違いない。歌はそこそこだが、キレのあるダンスが素晴らしい。惚れ惚れした。
ジナイーダは高飛車な女王様(あばずれ)として登場するが、主人公に恋心を抱くあたりから純情な乙女心が垣間見られ始め、その変化が鮮やか。主人公の父親が「彼女が毒婦であろうと聖女であろうと、私にはどうでもいいことだ」という旨の台詞を言うが、正に観客にも彼女がどちらなのか最後まで掴めない。その多面性を華耀きらりは見事に演じ切った。
母親役の桜一花も気品があって好印象。
主人公ひとりだけが世間知らずの「おこちゃま」で、周りの人々全員が大人という設定がいいね!つまりひと夏の経験で初(うぶ)な男の子が大人へと成長してゆく「通過儀礼」が本作の核であり、これは例えば映画「おもいでの夏」とか「マレーナ」、小説「ふがいない僕は空を見た」などに決定的な影響を与えている。「おもいでの夏」(Summer of '42)もひと夏の体験だしね。
あと特筆すべきは美術の素晴らしさ。最初、屋敷の柱が大理石ではなく大木だったので「何で?」と思ったが、続く場面でそれがそのまま森になる演出は鮮やかだった。また木の一本一本に下から照明を当て、光の色が変化することで様々な表情を見せる。つまり本作の第二の主人公は「森」だと言っても過言ではなく、ソンドハイムのミュージカル"Into the Woods"(まもなく映画が公開)に通じるものを感じた。
充実したカンパニーで、話もすこぶる面白く、これは絶対観逃せない公演である。ツルゲーネフ、やるじゃん!
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