大林宣彦監督「野のなななのか」
評価:A+
5月17日(土)映画公開初日に鑑賞。公式サイトはこちら。
「この空の花 ー長岡花火物語」と、その続編ともいうべきアイドル・グループAKB48のために大林監督が撮ったMV「So long ! 」、そして本作は3部作と言えるだろう。共通するテーマは3・11、福島原発事故、そして先の戦争(大東亜戦争/太平洋戦争/第二次世界大戦)。3・11の衝撃を経て、大林監督が若い世代にどうしても伝えておきたいこと、言い残したいことを吐露した、いわば遺言であり「老人映画」でもある。
品川徹演じる主人公は3月11日14時46分に他界する。言うまでもなく東日本大震災が発生した日、その時刻である。時計は14時46分で止まっているが、映画の終盤に動き始める。この演出は大林監督の「廃市」(1983、原作:福永武彦)でもあった。また絵が燃える場面は「日本殉情伝 おかしなふたり ものくるほしきひとびとの群れ」(1988)で映画館の看板が燃える場面を、常盤貴子が電車に乗る場面は「廃市」や「おかしなふたり」を、安達祐実が死ぬ間際の姿は「はるか、ノスタルジィ」(1993)の石田ひかりを、またパスカルズ演じる野の楽師たちが楽器を演奏しながら練り歩く情景は「おかしなふたり」のチンドン屋を想起させた。これは黒澤明監督「夢」の最後のエピソード「水車のある村」にも繋がっている。ちなみに大林監督は「夢」のメイキングを撮っている(僕はレーザーディスクを所有)。さらに「野のなななのか」で斉藤とも子が演じる住職の妻の名前は橘百合子。な、なんと「さびしんぼう」で富田靖子が演じた少女の役名ではないか!!「さびしんぼう」のラストシーンで富田靖子は住職となった尾美としのりの妻として、その傍らに座っている。つまり文字通り本作は大林映画の集大成なのである。ちなみに斉藤とも子は「金田一耕助の冒険」以来、実に35年ぶりの大林映画出演となった。
現在32歳の安達祐実が16歳の役を演じるという驚天動地。ちょうど半分だぜ!?それでもちゃんと16歳に見えるのだから唖然とした。彼女のデビュー映画は「REX 恐竜物語」(1993)。これは角川春樹が監督を務めたが、そもそも大林監督は「金田一耕助の冒険」「ねらわれた学園」「時をかける少女」「少年ケニア」「天国にいちばん近い島」「彼のオートバイ、彼女の島」と6本の角川映画を撮っている。だから彼女が主演する映画を撮っていても全然不思議ではなかったわけで、ニアミスだったのだ。
僕は今まで常盤貴子が大嫌いだったのだが、本作の彼女は妖しく美しかった。まさに大林マジック。恐れ入った。
北海道の芦別を舞台に、炭鉱の過去と現在、原発などエネルギー問題、カナディアンワールドという寂れたテーマパーク(北海道に赤毛のアンの家!?)に象徴される日本の「まちおこし」ならぬ「まち壊し」、大都市一極集中の一方で過疎化する地方の問題、1945年8月15日(終戦記念日)以降も続いていた樺太での戦争(対ソ連)などが重層的多角的に語られる。前作「この空の花」ではそれがカオス(混沌)を形成していたのだが、本作ではむしろ静謐にまとまっている。ジャーナリスティックなシネマ・エッセイに留まらず、輪廻転生や芸術論まで交わされ作品は無限の広がりを見せるのだ。
過去と現在、生者と死者が同居するワンダーランド=シネマ・ゲルニカ。これぞ大林映画の真骨頂である。
最後に、大林監督はこれが遺作でも構わないと考えておられるフシがあるが、ファンは未だ映画「草の花」(原作:福永武彦)を諦めておりませんよ、と申し添えておく。
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