以前、「決定版!チェロの名曲・名盤 20選」という記事を書いたら、予想を遥かに上回る反響があった。そこでヴァイオリン篇もすることにした。熟考の上、20枚のアルバムを選んだ。聴いて欲しい順に並べてある。
- コルンゴルト/ヴァイオリン協奏曲
(シャハム、プレヴィン/ロンドン交響楽団)
- バッハ/無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ
(ファウスト or クレーメル)
- フランク、ドビュッシー、ラヴェル/ヴァイオリン・ソナタ
(デュメイ、ピリス)
- ルクレール/ヴァイオリン・ソナタ集
(寺神戸
亮 or サイモン・スタンデイジ)
- ベルク/ヴァイオリン協奏曲
(ファウスト、アバド/モーツァルト管弦楽団)
- ローザ/ヴァイオリン協奏曲 第2番
(ハイフェッツ、ヘンドル/ダラス交響楽団)
- イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ
(佐藤俊介 or 松田理奈)
- シベリウス/ヴァイオリン協奏曲
(ハーン、サロネン/スウェーデン放送交響楽団)
- ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ 第9番「クロイツェル」
(コパチンスカヤ、サイ or ムローヴァ、ベズイデンホウト)
- ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ 第1番「雨の歌」
(ファウスト、メルニコフ)
- ヤナーチェク/ヴァイオリン・ソナタ
(五嶋みどり、アイディン)
- コリリアーノ/レッド・ヴァイオリン・コンチェルト
(ベル、オールソップ/ボルティモア交響楽団)
- ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲集「四季」
(ビオンディ/エウローパ・ガランテ)
- メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲
(イブラギモヴァ、ユロフスキー/エイジ・オブ・インライトゥメント管)
- ショーソン/ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のためのコンセール
(パイク、ポスター、ドーリック弦楽四重奏団)
- フォーレ/ヴァイオリン・ソナタ 第1番
(シャハム、江口玲)
- バルトーク/ヴァイオリン協奏曲 第2番
(コパチンスカヤ、エトヴェシュ/フランクフルト放送響)
- チャイコフスキー/なつかしい土地の思い出
(諏訪内晶子、モル)
- ジョン・ウィリアムズ/「シンドラーのリスト」から3つの小品
(ギル・シャハム)
- 愛の喜び~ヴァイオリン名曲集(コン・アモーレ)
(チョン・キョンファ、フィリップ・モル)
次点として次の曲を挙げておく。
- プロコフィエフ/ヴァイオリン協奏曲 第2番
(ヴェンゲーロフ、ロストロポーヴィチ/ロンドン交響楽団)
やっぱりコルンゴルトは最高だね。詳しくは下の記事を読んでください。
ヴァイオリン協奏曲の各楽章は過去にコルンゴルトが作曲した映画のテーマ音楽(ライトモティーフ、示導動機)が引用されている。濃密に浪漫的な音楽だ。
J.S. バッハの無伴奏作品については今更僕が語るまでもないだろう。チェリストが一生をかけて研鑽を積む最終目標地点がバッハの無伴奏チェロ組曲であるように、全てのソロ・ヴァイオリニストが目指す極北である。
デュメイとピリスのアルバム(93年録音)はフランス系ヴァイオリン・ソナタの名作を集めたもの。ただセザール・フランクはベルギー人だけれど。夏のアンニュイな午後に、酒の入ったグラスでも傾けながらゆったりと聴きたい。なお、デュメイが弾くフランクのソナタはコラールがピアノ伴奏を務めたディスク(89年録音)もお勧め。こちらは大変珍しいマニャール/ヴァイオリン・ソナタがカップリングされている。
ジャン=マリー・ルクレール(1697-1764、フランス)のヴァイオリン・ソナタはOp.5-7やOP.9-3もいい。格調高く、品がある。ルクレールはルイ15世より王室付き音楽教師に任命されるが地位をめぐる内部抗争で辞任。晩年は貧民街に隠れ住み、惨殺死体となって発見されるという劇的最後を遂げる。犯人は未だ不明。寺神戸
亮かサイモン・スタンデイジによるバロック・ヴァイオリンの演奏でどうぞ。
アルバン・ベルクが可愛がっていたアルマ・マーラの娘マノンが19歳で亡くなり、それを悲しんだ彼は作曲中だったヴァイオリン協奏曲に「ある天使の想い出に」という献辞を付けた。十二音技法で書かれた作品だが、終盤にはバッハのコラールが聴こえてきて祈りの音楽となる。アルマ・マーラーは華麗な男性遍歴で知られており、クリムトとも深い仲にあった。マーラの死後彼女は2度再婚している。一方アルバン・ベルクも不倫し放題の男であったのだが(「抒情組曲」は不倫相手への想いを語っている。またカルロス・クライバーは実はベルクの息子だという根強い噂!?もある)、アルマとベルクの関係はどうだったんだろう?なお、ファウストとアバドのCDはベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲がカップリングされている。
ハンガリー出身のミクロス・ローザ(ロージャ・ミクローシュ)のヴァイオリン協奏曲はビリー・ワイルダー監督の映画「シャーロック・ホームズの冒険」に転用されている。ハンガリー的哀愁がそこはかとなく漂う。初演者であるハイフェッツの演奏でどうぞ。なお、ローザは「白い恐怖」「二重生活」「ベン・ハー」で生涯3度アカデミー作曲賞を受賞した。
イザイはベルギーのヴァイオリニスト/作曲家。フランクのヴァイオリン・ソナタはイザイの誕生日に送られたもの。無伴奏ヴァイオリン・ソナタは大バッハの作品を意識した厳格さを有しながらも、20世紀に書かれた近代性も兼ね備えている。
シベリウスのコンチェルトは北欧らしいうら寂しさが魅力的。メラメラと鬼火のように燃える。
ベートーヴェン「クロイツェル・ソナタ」でムローヴァはガット弦を張った1750年製グァダニーニとバロック弓を使用し、伴奏はフォルテピアノという徹底したピリオド・アプローチ。ルーマニアとウクライナに国境を接するモルドヴァ共和国に生まれたコパチンスカヤの演奏も奔放で魅力的。火傷しそうなくらい熱く、激烈である。
室内楽の名手ブラームスのソナタは手の届かないもの(=クララ・シューマン)への憧れの感情が心に沁み入る。第3楽章に自作「雨の歌」からの引用があるのだが、これはクララが大好きな歌曲だったという。
ヤナーチェクについては五嶋みどりの解説を読んでいただくのが一番いいだろう→こちら。民族色豊かで、仄暗い色気がある作品。オペラ「利口な女狐の物語」を観て分かったのはヤナーチェクの音楽はエロティックだということ。死ぬまで浮気をしていたような助兵衛ジジイだからね。
コリリアーノは映画「レッド・バイオリン」でアカデミー作曲賞を受賞した。その音楽を再構成したのヴァイオリン協奏曲である。冒頭にソロが奏でる妖しい旋律が循環主題として各楽章に登場する。サウンドトラックでもソロを担当したジョシュア・ベルの演奏でどうぞ。なお映画「レッド・バイオリン」(1998)は1つの楽器が数世紀に渡り人の手から手へと渡っていく物語だが、同様の趣向の作品として燕尾服が旅するジュリアン・デュヴィヴィエ監督「運命の饗宴」(1942)やスピルバーグ監督の「戦火の馬」(2011)がある。
僕がクラシック音楽を好きになった切っ掛けは小学校4年生の時に聴いたヴィヴァルディ「四季」だった。演奏はフェリックス・アーヨがソロを担当したイ・ムジチ合奏団のレコード(2度目の録音)。その頃はクラシックLP売上ランキングでイ・ムジチの「四季」がトップセラーの常連だった(当時一番売れていたのはミケルッチがソロを担当した3度目の録音)。また僕がイ・ムジチを生で聴いた時にリーダーを務めていたのはピーナ・カルミレッリ。しかしその後、アーノンクール/ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスによるレコードが登場しその過激さで世間を席巻してからは状況が一転する。古楽器演奏全盛期の到来である。最早誰も微温的なイ・ムジチの演奏など見向きもしなくなった。古楽器の代表選手として刺激的なファビオ・ビオンディを第1に推すが、ジュリアーノ・カルミニョーラもいい。考えてみたらふたりともイタリア人だね。
巷で「3大ヴァイオリン協奏曲」といえばベートーヴェン、メンデルスゾーン、ブラームスを指し、チャイコフスキーを加えると「4大」となる。中でもメンデルスゾーン(通称メンコン)はヴィブラートをたっぷりかけ砂糖菓子みたいに甘ったるい演奏が大勢を占め、多くのクラシック音楽ファンは食傷気味になっている。ところがそのうんざり感を払拭するような演奏が登場した。イブラギモヴァは437Hz調弦によるヴィブラートを抑制したピリオド・アプローチ。ちなみに日本のモダン・オーケストラの標準ピッチはA音442Hzでヨーロッパでは444Hz辺だという。だからこのCDは若干音が低い。なんと新鮮に響くことだろう!メンデルスゾーンは当時忘れ去れれていたJ.S.バッハの「マタイ受難曲」を100年ぶりに蘇演した指揮者でもあった。さらにその後日談ともいうべきオラトリオ「聖パウロ」も作曲している。つまり、彼の音楽は決してロマンティックに解釈すべきではなく、バッハに対するようにアプローチすべきだというのが僕の結論(ファイナル・アンサー)である。
ショーソンのコンセールを一言で表すなら、「幻夢の世界へようこそ!」
ドビュッシーやラヴェルら印象派と比較して、フォーレはあまり聴かれていない。知られているのは「レクイエム」と「シチリアーナ」「夢のあとに」くらいではないだろうか?特に室内楽には沢山素晴らしい曲があるのだが。ヴァイオリン・ソナタは優しい夢を描く逸品。シャハムのアルバムには他に、「シチリアーナ」「夢のあとに」「子守唄」といった珠玉の小品と、ピアノ三重奏曲が収録されておりお勧めしたい。
バルトークの音楽はやはり、土俗的なハンガリー色が魅力的。そのキャリアの出発点がハンガリー民謡の収集家だったということと決して無縁ではないだろう。何故だか郷愁を誘われるんだよね。
チャイコフスキーはヴァイオリンとピアノのための作品だが、グラズノフ編曲によるオーケストラ版もある。有名なヴァイオリン協奏曲もいいけれど、たまにはこういった愛すべき小品にも耳を傾けたい。
「シンドラーのリスト」は言わずと知れたアカデミー作曲賞を受賞したスピルバーグ監督の映画のための音楽である。ユダヤ人の物語だからヘブライ風節回しが特徴的。映画のサントラはイツァーク・パールマンが弾いている。ギル・シャハムのCDはオーケストラとの共演盤とピアノ伴奏の2種類ある。なお、ジョン・ウィリアムズがミュージカル映画「屋根の上のヴァイオリン弾き」のために作曲したヴァイオリン協奏曲も一聴の価値あり。こちらの独奏はアイザック・スターン。
「コン・アモーレ」と題されたチョン・キョンファが弾く小品集は「愛の喜び」「愛の悲しみ」「ジプシーの女」とクライスラーの曲が3曲、他にエルガー「愛の挨拶」やドビュッシー「美しい夕暮れ」など選曲が優れている。以前の彼女の演奏と比べ、角がとれて柔らかくなった。同様の企画として五嶋みどりの「アンコール!」も定評があり、素晴らしい。こちらの選曲は一捻りあり。
プロコフィエフはロシア革命時に海外に逃れ約20年間亡命生活を送っていたが、後にソビエト連邦に帰国するという奇特な人生を送った。ヴァイオリン協奏曲 第2番の第1楽章は諦念の音楽。第2楽章は過去を懐かしむような回顧録。第3楽章はカスタネットが加わり、初演されたスペイン(マドリード)を彷彿とさせる情熱的舞踏音楽が展開される。
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