コルンゴルト/オペラ「死の都」舞台版日本初演!(舞台写真付き)
3月9日(日)びわ湖ホールへ。
コルンゴルトのオペラ「死の都」舞台での日本初演(2日目)を観劇。実はこの作品、コンサート形式では井上道義/京都市交響楽団が1996年9月8日の定期演奏会で初演している(マリエッタ:中丸三千繪 ほか)。それから舞台上演までなんと18年の歳月を要したわけだ。ちなみにハンブルクとケルンの二都市同時初演は1920年なのでそれから既に100年近く経過している。
僕がコルンゴルトの魅力に開眼したのが1982年頃。映画「シー・ホーク」の音楽に打ちのめされた。「死の都」はまずゲッツ・フリードリヒ演出で1983年にベルリン・ドイツ・オペラで上演されたプロダクションをレーザー・ディスクで観た。その後、ストラスブールのライン国立歌劇場公演(インガー・レヴァント演出)と今回、新国立劇場でも上演されるカスパー・ホルテン演出による2010年フィンランド国立歌劇場のプロダクションをDVDで鑑賞した。
ローデンバックの原作「死都ブルージュ」は最後、主人公が亡き妻とそっくりの容姿をした踊り子を絞殺するが、コルンゴルト父子が台本を書いたオペラの方は「夢オチ」に改変、第2幕以降はパウルの見た幻想として処理され、目を覚ました彼が友人と共にブルージュを旅立つ場面で幕を閉じる。しかしストラスブール版の演出は非常にユニークで、歌詞とは裏腹に主人公は狂気の世界に留まったまま友人と踊り子を殺し、さらに自ら手首を切って命を絶つという衝撃的なものとなっている(つまり「この世」から旅立つという読み替えだ)。大変面白い解釈で、僕は「これもありだな」と想った。今回の新国立劇場版とびわ湖版は従来のテキスト通りの終わり方である。
びわ湖ホールは初めて訪れた。大阪や神戸からのアクセスは不便だが、ラウンジやホワイエからびわ湖が眺められ、環境が素晴らしい。建物もスタイリッシュで、大いに気に入った。
本番前のワークショップにも参加。撮影許可が下りたので、写真も掲載する。
舞台上から客席の眺め。オーケストラ・ピット、指揮台が見える。一番手前の出っ張りはプロンプター・ボックス(歌詞のきっかけを与える人が配置される)。
上写真は第2幕(装置:松井るみ)。なかなか美しいものに仕上がっている。
教会は中に明かりが灯る仕掛けが施されている。
上写真はバック・ステージの第1幕パウルの家。これは機械操作でスライド式に舞台前方に出てくるようになっている。実際の第2幕冒頭は幕が開くとこの部屋のままで、セットが後退し第2幕の装置が奈落からせり上がってくるのを観客に見せる。
オーケストラピットの楽譜(第1ヴァイオリン)。Die tote Stadt(死の都)というタイトルが読み取れる。
僕は日本初演に期待すると同時に、キャスト&スタッフ全員が日本人というプロダクションに対して一抹の不安があった。そしてその予感は悪い形で的中した。先ず主役のパウル:山本康寛、マリー/マリエッタ:飯田みち代が弱い。声は美しいが、如何せん声量がない。オケはおろか、合唱にも負けている。山本は元々パウル役に起用された歌手が病気のため代役を務めたが、びわ湖ホール声楽アンサンブルのメンバー。ソリストとしての経験は乏しく、荷が重すぎたのではないだろうか?フランク:黒田博とフリッツ(ピエロ):晴雅彦のふたりが良かった。
舞台装置はシンプルながら洗練されたものだったが、いただけなかったのが栗山昌良(88)の演出。対話する時も歌手が向かい合わず、客席を向いて歌うのは余りにも不自然でどうかと想った。確かにその方が声がよく通るだろうが、考え方が古過ぎる。棒立ち状態で演技らしい演技もない。20世紀オペラとしての近代性が感じられないし、逆に歌舞伎的様式美にも至っていない。中途半端、ナンセンス。演出家の選択は明らかに失敗だった。はっきり言って演出家と歌手は海外から招聘した新国立劇場のプロダクションの方を観たかった。
沼尻竜典/京都市交響楽団は豊穣な音場を創り出し、理知的な演奏だった。ただ沼尻の解釈はあくまで作品と距離をとった客観的解釈であり、コルンゴルトの音楽はもう少し主観的にのめり込んで、むせ返るような官能的響きで観客を酔わせて欲しいなという欲求不満も若干残った。
しかしながら、生で聴くコルンゴルドの音楽は本当に溜息が出るくらい素晴らしかった。この「死の都」はヴェルディの「オテロ」、プッチーニの「トスカ」、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」そしてR.シュトラウスの「バラの騎士」に匹敵する、オペラ史に燦然と輝く傑作中の傑作であると僕は確信している。いろいろ問題がある舞台初演であったが、とにかく「死の都」が日本で上演されたことに乾杯!
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