驚くべき物語「あなたを抱きしめる日まで」
評価:A+
センスがない酷い邦題だ。原題は"Philomena"。主人公であるアイルランド人の老婆の名前である。キリスト・カトリック教会の聖女フィロメナがその由来。
公式サイトはこちら。アカデミー賞で作品賞・主演女優賞・脚色賞・作曲賞の4部門にノミネート。
事実は小説より奇なり。信じられないような実話だ。原作に惚れ込んだ俳優のスティーヴ・クーガンがプロデューサー、共同脚本を務め、50年前に生き別れになった息子を探すフィロミナに協力する元BBC記者のジャーナリストを演じた。
何よりジュディ・デンチが素晴らしい。「恋におちたシェイクスピア」でエリザベス女王を演じ、007シリーズではジェームズ・ボンドの上司Mを演じたデンチには知的で威厳があるイメージが付きまとう。しかし今回は信心深いが教養がなく、陳腐な恋愛小説(ハーレクイン・ロマン)が大好きという役どころで意表を突かれた。オックスフォードとケンブリッジがごっちゃになって「オックスブリッジ」と言ったりする。
そんな彼女をジャーナリストは初めバカにしている。彼はイギリス政府の報道官を務めたキャリアもあり、そもそも三面記事なんか書きたくない。そんな二人の珍道中が面白おかしく描かれ、次第にジャーナリストがフィロミナとの友情を深めていく過程が自然に描かれている。
本作のテーマは子どもの幸せを願う母の愛である。しかしそれだけではなくミステリー仕掛けにもなっており、最後には驚愕の事実が判明し社会派の様相も呈してくる。映画は静かに処女崇拝のカトリック教会と、アメリカの共和党政策(レーガン、ブッシュ時代)を批判する。
はっきり言って僕は道徳の教科書みたいな今年のアカデミー作品賞受賞作「それでも夜は明ける」よりも本作の方が遥かに優れていると確信する。しかし欧米での評価が「それでも夜を明ける」より低かったのは、カトリック教徒と共和党支持者を敵に回したからではないだろうか?恐らくそれだけでアカデミー会員の過半数を上回ったであろう。
またアレクサンドル・デスプラの音楽も印象深い。映画冒頭に10代のフィロミナが遊園地で若い男に出会う場面、ストリート(手回し)オルガンが奏でるワルツが全体のテーマ曲になっている。それは彼女にとって忘れられない大切な想い出であり、息子への想いにも繋がっているのだ。
兎に角物語が感動的だし(何度も泣いた)、大女優(Dame)ジュディ・デンチの偉大さにはひれ伏すしかない。上映館数は少ないが、ゆめゆめお見逃しなく。
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