演出家・栗山昌良が語る日本におけるオペラ上演史
コルンゴルトのオペラ「死の都」ワークショップで、演出家・栗山昌良(88歳)が日本におけるオペラ上演史をレクチャーしてくれたので、ここに備忘録として書き留めておく。栗山がオペラの演出に関わるようになってから、既に50年以上経過しているという。
歌舞伎は江戸時代、庶民の娯楽であったがヨーロッパにおけるオペラは王様など権力者の庇護で発展してきたので、国の補助金なしに成立しない。採算の取れない芸術である(歌舞伎は今も補助金なしで頑張っている)。
日本に初めてオペラハウスが出来たのが明治44年(1911年)、それが帝国劇場である。
大正に入ると浅草オペラが絶大な人気を誇った。大正5年(1916年)5月の帝劇洋劇部の解散により行き場を失くしたオペラがこちらに流れてきた。
昭和9年(1934年)テノール歌手・藤原義江が藤原歌劇団を設立。歌舞伎座でオペラの上演をした。大倉財閥の大倉喜七郎や三井財閥がパトロンとして援助をした。
1937年に日独伊防共協定が結ばれ、第二次世界大戦に突入するが、ドイツ・オペラとイタリア・オペラは同盟国なので、戦争中も日本で上演され続けた。
しかし終戦後、封建的であるとして暫く上演できない時期が続いた。そこでオペラの上演に貢献したのが労働組合主導の勤労者音楽協議会(労音、1949年創立)や創価学会が1963年に創立した民音であった。
また日本に本格的オペラハウスを造ろうという動きが生まれ、浅利慶太、石原慎太郎、小澤征爾らの尽力により1963年に日生劇場が生まれた。こけら落とし公演はベルリン・ドイツ・オペラによるベートーヴェンの「フィデリオ」(指揮:カール・ベーム)であった。
1997年には新国立劇場が誕生した。ここではオペラ上演時に2〜3千人のスタッフが働いている。残念ながら専属のオーケストラはないが、専属バレエ団が目覚ましい活躍をしている。
びわ湖ホールは1998年に開館。初代芸術監督の若杉弘は日本人キャストによる上演にこだわった。またびわ湖ホール声楽アンサンブルが設立されたことは特筆に値する。
2005年には佐渡裕が芸術監督を務める兵庫県立芸術文化センターが出来て、若いオーケストラ(兵庫芸術文化センター管弦楽団)を育成している。
名古屋にはオペラが上演出来る愛知芸術文化センターが1992年にオープンしたが、ここには芸術監督もいなければ何も育成していない。つまりハコだけ作って理念がない。
以上、オペラ上演の歴史をざっと俯瞰し、現在我が国が抱える問題点が浮き彫りにされ、面白く傾聴した。
| 固定リンク | 0
「舞台・ミュージカル」カテゴリの記事
- 史上初の快挙「オペラ座の怪人」全日本吹奏楽コンクールへ!〜梅田隆司/大阪桐蔭高等学校吹奏楽部(2024.09.04)
- 段田安則の「リア王」(2024.05.24)
- ブロードウェイ・ミュージカル「カム フロム アウェイ」@SkyシアターMBS(大阪)(2024.05.23)
- 大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定期演奏会2024(「サウンド・オブ・ミュージック」「オペラ座の怪人」のおもひでぽろぽろ)(2024.04.01)
「クラシックの悦楽」カテゴリの記事
- 映画「マエストロ:その音楽と愛と」のディープな世界にようこそ!(劇中に演奏されるマーラー「復活」日本語訳付き)(2024.01.17)
- キリル・ペトレンコ/ベルリン・フィル in 姫路(2023.11.22)
- 原田慶太楼(指揮)/関西フィル:ファジル・サイ「ハーレムの千一夜」と吉松隆の交響曲第3番(2023.07.12)
- 藤岡幸夫(指揮)ヴォーン・ウィリアムズ:交響曲第5番 再び(2023.07.07)
- 山田和樹(指揮)ガラ・コンサート「神戸から未来へ」@神戸文化ホール〜何と演奏中に携帯電話が鳴るハプニング!(2023.06.16)
コメント
愛知県は全国に先駆けて、本格的なオペラ上演が可能な多面舞台の劇場を造りましたが、ご承知のように実際の活動としては、年1回の自主制作以外は貸し館であることは事実です。
しかしながら、自主制作オペラに出演するコーラスは、AC合唱団という自前の合唱団であり、オペラ公演の主役は毎回オーディションで選んでいる点ぐらいは評価して頂きたいものです。
また、来年度からは芸術監督に相当する館長職が新たに置かれ、日生劇場の舞台監督をされていた方が就任されますので、これからの変革に期待しています。
栗山氏の愛知県芸術劇場への評価があまりにも酷いので、地元民として助け舟を出させて頂きました。
投稿: gijyou | 2014年3月18日 (火) 08時30分
gijyouさん、コメントありがとうございます。
AC合唱団は常設ではなく公演ごとに公募しているんですよね?それでは「育成する」ことにはならないと思います。
来年度から新たに館長職が設置されることは栗山氏も言及されていました。
批判は真摯に受け止められ、愛知芸術文化センターがこれから内容的にも充実したオペラハウスに発展していかれることを祈念しております。
投稿: 雅哉 | 2014年3月18日 (火) 09時58分