アカデミー作品賞受賞「それでも夜は明ける(12 Years a Slave)」〜邦題の意味するところ
評価:B+
米アカデミー賞で作品賞・助演女優賞(ルピタ・ニョンゴ)・脚色賞の3部門受賞。公式サイトはこちら。
ダサい邦題だ。原題は"12 Years a Slave"。実は1987年に「遠い夜明け」(原題:Cry Freedom)というイギリス映画があった。監督は「ガンジー」のリチャード・アッテンボロー。舞台となるのは1970年代アパルトヘイト政権下の南アフリカ共和国。ディンゼル・ワシントンが演じるのは黒人解放活動家で、最後に彼は獄中で暴行を受け殺される。つまり「遠い夜明け」を受けての「それでも夜は明ける」なんだね。バカみたい。
《良心的》で立派な映画だ。今年のアカデミー賞は本作と「ゼロ・グラビティ」の一騎打ちだったわけだが、観ていてやはり「ガンジー」と「E.T.」が競った1983年第55回アカデミー賞のことを想い出した。結果は真面目で愚鈍で凡庸な「ガンジー」が勝ち、NYタイムズ紙は「オスカーはノーベル平和賞と取り違えているみたいだ」と書いた。ただ"12 Years a Slave"は「ガンジー」に比べれば演出や映像的に観るべき長所、美点はあると想った。でもね、100年後に人々の記憶に残る映画が「ガンジー」ではなく「E.T.」であるのと同様、"12 Years a Slave"より「ゼロ・グラビティ」の方が断然格が上、奥が深いとも感じた。
原作はソロモン・ノーサップが1853年に上梓した自伝である。つまり実話だ。彼はヴァイオリン奏者でニューヨークで自由黒人として暮らしていたが、拉致されアメリカ南部で奴隷として働かさせることになる。この物語を映像化するまで160年掛かったということが、アメリカ人が自分たちの恥部・暗黒史を認めるのにどれくらい長い歳月を要したかを象徴している。
ビリー・ホリデイが1939年にレコーディングした代表曲「奇妙な果実」という歌がある。当時アメリカ南部では黒人を縛り首にして木に吊るすリンチ殺人が横行しており、その情景を「奇妙な果実」に見立てているのだ。"12 Years a Slave"にも何度かこの「奇妙な果実」が登場するが、アメリカ映画が正面からこの描写をしたのは初めてではないだろうか?
スティーヴ・マックイーン監督の演出は、例えばソロモンがワシントンから蒸気船で南部に運ばれる場面で、回転する巨大な外輪(水車)を暴力的装置として、圧迫感を持って象徴的に描いたりと、上手いなと想った。
ルピタ・ニョンゴは言うに及ばず、一見善い人そうなベネディクト・カンバーバッチ、情状酌量の余地がない残酷な農園主を演じたマイケル・ファスベンダーなど脇役が充実。プロデューサーのブラッド・ピットが映画の後半ちょこっと出演しているのだが、これがむちゃくちゃ美味しい役どころで「ブラピ、それはないぜ!」と爆笑した。
問題になったイタリアのポスター↑
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