2月23日(日)ザ・シンフォニーホールへ。
大阪桐蔭高等学校吹奏楽部の第9回定期演奏会を聴く。過去のレビューは以下。詳しいプロフィールもこちらに書いたのでご参照あれ。
2013年定期の記事で、プログラムに編曲者の記載がないことの不満を書いたら、それを読まれた吹奏楽部総監督の梅田隆司先生が今回きちんと表記してくださったのでありがたかった。この場を借りてお礼申し上げます。
また昨年のコンクールでのハプニングについての経緯は下記。
今回の曲目は、
- スメタナ(高橋徹 編)/交響詩「我が祖国」より「モルダウ」
- コダーイ(バイナム 編)/組曲「ハーリ・ヤーノシュ」より
- エルガー(杉本幸一 編)/エニグマ変奏曲
- ラフマニノフ/交響的舞曲~ファリャ/火祭の踊り
(杉本幸一 編)
- ワーグナー(カイリエ 編)/エルザの大聖堂への行列
- ロウ(R.ベネット 編)/マイ・フェア・レディ
- メンケン(星出尚志 編)/塔の上のラプンツェル・メドレー
- ラヴランド(星出尚志 編)/You Raise Me Up ~3年間の歩み
- 菅野佑悟(金山徹 編)/大河ドラマ「軍師官兵衛」テーマ
- 北川悠仁(相澤直人 編)/友 ~旅立ちの時~
- ロイド=ウェバー(デ・メイ 編)/オペラ座の怪人
「モルダウ」は冒頭から柔らかい木管の響きに魅せられた。
「ハーリ・ヤーノシュ」はホルン20人、トロンボーン17人、チューバ11人、コントラバス6人と低音が充実。聴き応えあり。ここまでが全員での演奏。
吹奏楽コンクールに出場したメンバーによる自由曲「エニグマ変奏曲」を聴いた率直な感想は「ああ、これは選曲ミスだな」ということ。コンクール20日前に曲を変更したそう。たとえ出演直前に楽器が壊れる突然のハプニングがなくても金賞は無理だったろう。演奏は切れがあって精緻。しかし如何せん30分近く演奏時間を要する原曲をコンクール用に8分弱にカットするのは無理な話で、各変奏曲は細切れ、継ぎ接ぎは不自然。音楽として全く楽しめない。
僕はエルガーの音楽が大好きだ。特にチェロ協奏曲と、弦楽合奏+弦楽四重奏のための「序奏とアレグロ」を偏愛している。エニグマ変奏曲も良く聴くし、大植英次/大阪フィルで実演に接したこともある。しかし今回の吹奏楽版の居心地の悪さはどうしたことだろう?
過去に大阪桐蔭が吹奏楽コンクール全国大会で金賞を勝ち取った3回は自由曲がオルフ/カルミナ・ブラーナ、ヴェルディ/レクイエム、ワーグナー/楽劇「ワルキューレ」。全て原曲に歌が入る。そして歌のないクラシック音楽ーレスピーギ/ローマの祭り、ドビュッシー/海、エルガー/エニグマ変奏曲を選んだ年は全て銀賞止まりだった。因果関係は明らかであろう。歌こそが大阪桐蔭の生命線、魅力の根源なのだ。僕が桐蔭の定期演奏会で印象に残ったのも「ローエングリン」とか「レ・ミゼラブル」、「エリザベート」、「銀河鉄道999」など歌の曲ばかり。因みに梅田先生は音大で声楽科を専攻されている。
また吹奏楽コンクールデータベースを調べてみると、過去に「エニグマ変奏曲」で全国大会まで勝ち進んだのは大阪桐蔭を含めて3団体のみ。そして金賞は0である。つまりそもそも金賞が取れない曲なのだ。こういう例は他にもあって、天下の丸谷明夫/淀川工科高等学校吹奏楽部もイベール/交響組曲「寄港地」で2度全国大会にチャレンジして、どちらも銀賞に終わっている。2009年に全日本吹奏楽コンクールの審査員を務めた作曲家の西村朗氏は次のように総評し、物議を醸した。「どの学校も90~95点の仕上がり。選曲と細部の表現の繊細さが最後の勝負だった」つまり選曲で審査が左右されると認めているのである。
「シンフォニック・ダンス~火祭の踊り」ではなんとマーチングを披露!これには驚いた。というのは朝日放送が運営していた時代、ザ・シンフォニーホールは舞台上で行進することが禁止されており、だから淀工グリーンコンサートもこちらの会場に移ってからはマーチングが封印されたのだ。2014年から経営母体が変わったので、ルールも緩和されたのだろうか?一列に並んだラインが綺麗で格好よかった!
休憩を挟み第2部冒頭で”吹奏楽の神様”と呼ばれる鹿児島情報高校の屋比久勲先生が指揮台に立った。曲は屋比久先生の十八番、「エルザの大聖堂への行列」。これは先生が部活の最後に毎日合奏している曲である。鹿児島情報高の生徒も5人来阪し、演奏に参加した。今回は合唱付きで、屋比久先生も初めての経験だそう。丁寧で、息の長い歌。胸に染み入る透明感。甚く感銘を受けた。75歳。梅田先生がコッソリ鹿児島情報高の生徒に尋ねても、屋比久先生は一度も怒ったことがないそう。「怒らんでも子供は育つ」が持論。「”吹奏楽の神様”と呼ばれていますが、仏様みたいな先生です」と梅田談。
「マイ・フェア・レディ」の編曲はロバート・ラッセル・ベネット。ジャズの要素を取り入れた作風の人で、オリジナル作品としては「バンドのためのシンフォニック・ソング」「古いアメリカ舞曲による組曲」がある。運がよけりゃ~君住む街角~ああ、なんて幸せ!~まずは教会へ~忘れられない君の顔~踊り明かそう のメドレー。「君住む街角」はイングリッシュ・ホルンのソロが○。また"Wouldn't It Be Loverly ?"は口笛が美しかった。"I've Grown Accustomed to Her Face"はミュート・トランペットによる伴奏が印象的。そして「踊り明かそう」は流麗で沸き立つ高揚感があった。
梅田先生は部室で生徒に映画「マイ・フェア・レディ」を観せたそうだが、感想は「音楽はええけど、話はよう分からん」「ヒギンズ教授が偉そうでムカつく」と不評だったそう。それはそうだろう。ぼくもこの映画を初めて観たのが高校生ぐらいで、その時はちっとも面白くなかった。「マイ・フェア・レディ」の原作はバーナード・ショウの戯曲「ピグマリオン」。これはさらにギリシャ神話「ピュグマリオン」に遡る。現実の女性に失望していたピュグマリオンは理想の女性・ガラテアを彫刻し、彼女に惚れ込んで人間になることを願った。彫刻から離れず衰弱していくピュグマリオンを哀れに想ったアフロディーテはその願いを叶え、彫像に生命を与える……つまりヒギンズ教授にとってイライザは自分が創造した芸術作品であり、それに恋をするという寓意なのだが(ピグマリオン・コンプレックス/ピュグマリオニズムとう心理学用語もある)、高校生に分かる筈もない。やっぱり大人のミュージカルだね。
ディズニー・アニメ「塔の上のラプンツェル・メドレー」は自由への扉〜誰にでも夢はある〜王国でダンス〜輝く未来〜自由への扉 という構成。この曲はハープの女の子の推薦で決まったそう。来年は「アナと雪の女王」を期待していますよ、梅田先生!
大合唱で歌われた「You Raise Me Up」は何だか「アメイジング・グレース」(イギリスの賛美歌)に曲調が似ているなと想った。調べてみるとアイルランド民謡「ダニー・ボーイ(ロンドンデリーの歌)」の旋律に基づいて作曲されたらしい。因みに今年の卒業生は3年間で約200回の演奏会(病院・幼稚園訪問を含む)をこなしたそう。
昨年の大河ドラマ「八重の桜」はピンとこなかった梅田先生。今年の「軍師官兵衛」は聴いた瞬間に「ええなぁ、格好ええ」と思われたそう。アマチュアの団体では1番最初の演奏だとか。
「友〜旅立ちの時〜」はゆずの楽曲。2013年NHK合唱コンクールの課題曲だとか。難しいみたいだけれど桐蔭の生徒たちは見事に歌いこなしていた。ここで背景のスクリーンに卒業生ひとりひとりの動画と名前が映し出されるのだが(梅田先生編集)、今年はワイドスクリーンとなり、スプリット(分割)画面で左右2人同時進行(画面下方は歌詞付き)に進化していたので驚いた!まるでスティーブ・マックィーン、フェイ・ダナウェイ主演の映画「華麗なる賭けThe Thomas Crown Affair」みたいだ。すごい。
「オペラ座の怪人」は音楽の天使〜夜の音楽〜手紙〜私を想って〜All I Ask of You〜オペラ座の怪人〜墓場にて のメドレー。編曲は交響曲第1番「指輪物語」第3番「プラネット・アース」等で有名なヨハン・デ・メイだから洒落ている。このミュージカルの吹奏楽版は今までに沢山の種類を聴いたが、このデ・メイか建部知弘編曲のものが特に優れていると想う。
アンコールは再び屋比久先生が登場し、高橋宏樹/行進曲「希望の光」を伸びやかに歌い上げた。
続いて梅田先生の指揮で復興支援ソング「花は咲く」と定番「銀河鉄道999(樽屋雅徳 編)」「星に願いを」で〆。やっぱり桐蔭には「銀河鉄道999」が欠かせないね!サンタコンサートでは一番盛り上がるこれが聴けず、悲しかった。
2015年は10周年記念ということで2月14・15日にフェスティバルホールで開催されるとのこと。また絶対行くからね!
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