ディズニーの第三次黄金期到来!〜アナと雪の女王/ミッキーのミニー救出大作戦(3D字幕版)
ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ(Walt Disney Animation Studios)最初の黄金期は言うまでもなくウォルト・ディズニー在命中に訪れた。そのピークとなったのが1940年に公開された「ファンタジア」である。複数のセル画を異なった距離に配置し、それぞれ異なったスピードで動かし3次元的奥行きを表現するマルチプレーン・カメラは1933年にディズニー・スタジオが開発し、1937年の短編「風車小屋のシンフォニー」(アカデミー賞受賞)で初めて導入された。その実験を経て「ファンタジア」の「くるみ割り人形」では最大8段のプレーンを持つ装置が使用されている。
しかし「メリー・ポピンズ」(1964)を経て1966年にウォルトが亡くなると、スタジオは長期低迷期に入る。そんな時期の1983年に大学を卒業したばかりのある若いアニメーターがディズニーに入社する。CGアニメーションの可能性を感じた彼が企画を推し進めると、社内の猛烈な反発を買い84年に解雇された。それがジョン・ラセターである。失意の彼はジョージ・ルーカス率いるインダストリアル・ライト・アンド・マジック(ILM)に入社、後にアニメーション部門が独立しピクサー・アニメーション・スタジオが生まれ、アップル・コンピューターのスティーブ・ジョブズが会長に就任した。ラセターはそこで監督として「トイ・ストーリー」「カーズ」などの名作を生み出していく。
一方、ディズニーが破竹の快進撃を再開するのは1989年「リトル・マーメイド」からである。これはミュージカル・アニメーションという伝統を取り戻した作品でもあった。作詞家のハワード・アシュマン、作曲家アラン・メンケン、映画部門の責任者ジェフリー・カッツェンバーグの功績が大きい。第二次黄金期はアニメとして初めてアカデミー作品賞にノミネートされた「美女と野獣」(1991)で頂点に達する。「美女と野獣」はディズニー・アニメ史上初めて、一部にCGを用いた作品でもあった。しかしアシュマンがAIDSで亡くなり、カッツェンバーグが最高経営責任者であるマイケル・アイズナーと喧嘩してディズニーを飛び出しドリームワークスSKG(スピルバーグ・カッツェンバーグ・ゲフィンの頭文字)を創設した頃からディズニーは不作が続き、低迷期に逆戻りした。
暗黒の時代はアイズナーの失脚で終止符が打たれた。2006年にディズニーはピクサーを買収。しかし実質的にはジョブズがディズニーの筆頭株主となり、役員に就任。ラセターが両スタジオのチーフ・クリエイティブ・オフサーに就任することでピクサーがディズニーの実権を掌握したのである。
ラセターはスタジオの士気を高めクリエイティブなものに変え、遂に昨年「紙ひこうき」でアカデミー短編アニメーション賞を受賞した。
「アナと雪の女王」の併映である「ミッキーのミニー救出大作戦」(Get A Horse !)は製作総指揮を努めたジョン・ラセターの”ミッキーマウスを現代の観客に再び紹介する”というコンセプトをもとに18年ぶりに製作されたミッキーマウス・シリーズの短編である。ミッキーの声には、やはりラセターの発案によりアーカイブから抽出されたウォルト・ディズニーの声が使用されている。ウォルトが声を担当するのは「ミッキーのダンスパーティ」(1947)以来、実に66年ぶりとなる。考えてみたら「美女と野獣」や「ライオンキング」時代のディズニー映画は長編しか上映していなかったわけで、前座として短編を上映するという方針はピクサー・アニメーション・スタジオのやり方を踏襲したもの。これもラセターがディズニーに復帰してからの改革なんだね。
「ミッキーのミニー救出大作戦」はとある映画館でアニメが上映されているという設定である。スクリーンの中は白黒で、キャラクターもミッキーのデビュー作「蒸気船ウィリー」(1928)の頃の手描きスタイルで描かれている。しかしそこで乱闘が勃発、キャラクターがスクリーンから飛び出してくる。その外側の世界はカラー3DCGというわけ。つまりこの短編でアニメーションの歴史が一気に俯瞰できるように仕組まれている。はっきり言うが、3Dで観なければこの短編の面白さは半減だろう。またスクリーンの枠とかを使ったギャグは明らかに手塚治虫の実験アニメ「おんぼろフィルム」(第1回広島国際アニメーション映画祭グランプリ)の影響が色濃い。ただ単なるパクリというわけではなく、ちゃんと咀嚼して自分たちのものにしているのだからさすがである。
で「ミッキーのミニー救出大作戦」と同様に「アナと雪の女王」(Frozen)も絶対3Dで観るべきだと僕は力説したい。とにかく立体感が素晴らしい。特に空中で静止した雪の結晶の表現!もう溜息が出るくらい美しい。ほとんどの映画館が2D上映で3D上映は極限られているというのはとても残念だ(しかも日本語吹き替え版の3D上映はない)。
評価:A+
公開当時「リトル・マーメイド」や「美女と野獣」が画期的だと言われたのは、ディズニー・アニメが受動的なお姫様ではなく、初めて強い意志を持ち自立したヒロインを描いたからである。また「美女と野獣」のベルが本を読んでいる(向学心がある)というのも新鮮だった。しかしこれは宮崎アニメでは当たり前のことであり、ディズニー・アニメの宮崎化現象でもあった。
「アナと雪の女王」で度肝を抜かれたのが、そんな行動力がありどんどん前に向かって進むヒロインがダブルになったことである!遂にディズニー・アニメは宮﨑駿を追い越したのだ。エルサとアナという姉妹の強烈なキャラクターに打ちのめされた。まるでスカーレット・オハラが2人登場したようなものだ。
本作のスピード感、躍動感はパーフェクトである。また”凍った心を溶かす真実の愛”というのが実はミスリーディングであったのには恐れ入った。脚本もよく練られている。
さらにミュージカル映画としても卓越している。冒頭の男声合唱からすっかり魅了されてしまった。アカデミー歌曲賞を受賞した"Let It Go"を単独で聴いた時にはピンとこなかったのだが、物語の文脈の中で改めて聴くと歌詞の意味と音楽の力強さ・高揚感が心に響いた。これは抑制された自分の魂を一気に開放させる歌だったのだ。「雪だるまつくろう」とか「生まれてはじめて」など他の楽曲も質が高く、極めて充実している。
アカデミー賞長編アニメーション部門で我が国の「風立ちぬ」が破れてしまったのは本当に悔しいが、「アナと雪の女王」を観てしまった今、ぐうの音も出ない。降参である。ディズニーの第三次黄金期は紛れもなく本作で頂点を極めた。何度でも不死鳥のように蘇る、これぞ老舗の底力。
ジョン・ラセター、恐るべし。
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