新たなる旅立ち/大阪市音楽団 定期演奏会
老婆心ながら一言。昔「宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち」というアニメ作品があり(1979年テレビ放送/81年劇場公開)、本記事のタイトルはそれに由来する。
2月19日(水)フェスティバルホールへ。大阪市直営だった大阪市音楽団(プロの吹奏楽団)は本年4月より一般社団法人として再出発することになった。今回は市音に縁の深い4人の指揮者が登場した。
2,700席のホールが満席。1,704席のザ・シンフォニーホールでの定期は満席になることがなかったのに!
- エルガー(リード 編)/行進曲「威風堂々」第1番
指揮:秋山和慶 - スパーク/鐘の歌
指揮:吉田行地 - 宮川泰、宮川彬良/「宇宙戦艦ヤマト 2199」からの音楽
指揮:宮川彬良 - プッチーニ(飯島俊成 編)/歌劇「トスカ」第3幕より
指揮:牧村邦彦 - ラヴェル(佐藤正人 編)/バレエ音楽「ダフニスとクロエ」第2組曲
指揮:秋山和慶
今までの市音は定期演奏会で沢山の世界初演/日本初演を成し遂げてきた。しかし今回新曲と言えるのはスパークだけ。5曲中3曲はクラシック音楽の有名曲をアレンジしたもの。守りの姿勢が目立つが、今後は生き残るために集客を考えなければならないという苦渋が滲み出していた。
冒頭で団長が登場し挨拶。市の直営から離れる準備をこの1年半、団員は必死でしてきた。今年は創設から90周年だが、100周年までなんとしても生き残りたい。どうかご支援をと涙ながらに訴えた。なんだかお通夜みたいな、しんみりした空気になった。
コンサートマスターだったサクソフォンの長瀬敏和がいつの間にか退団し今回は客演として参加、コンマスがオーボエの福田淳になっていたのには驚いた。
「威風堂々」はカチッと引き締まったリズムで明快な解釈。誇り高く英国の栄光を讃える。
フリードリヒ・シラーの詩にもとづく「鐘の歌」は3つの部分に別れる。
1)ライフ・セレブレーション(人生を祝して) は爽やかで、明朗な知性を感じさせる。
2)サウンド・ザ・アラーム(警報を鳴らせ) はメロディアスに歌い、まるでヴェルディのオペラのよう。
3)ジャーニーズエンド(旅の終わり)は葬送行進曲。僕は映画「ゴッドファーザー」のシチリア島での葬列の風景を想い出した。
昨年、テレビ放送された「宇宙戦艦ヤマト2199」全26話を観て、宮川泰という作曲家は天才だったのだなと再認識した。その散逸したスコアを耳コピーで息子の彬良が完璧に現代に蘇らせ、さらに新曲を巧みに挿入した技も卓越していた。完全オリジナル・エピソードである第9話「時計仕掛けの虜囚」や第14話「魔女はささやく」の音楽も全く違和感なく溶け込んでいた。
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本コンサートではたっぷり11曲が演奏され、聴いていて胸が熱くなった。吹奏楽アレンジもお見事の一言である。
「宇宙戦艦ヤマト 2199」の構成はオーバーチュア(ヤマト音楽団大式典2012のために特別に作曲されたもの)~無限に広がる大宇宙(交響組曲から第1曲)~宇宙戦艦ヤマト(交響組曲から第2曲)~地球を飛び立つヤマト~コスモタイガー~永遠に讃えよ我が光(ガミラス国歌、新曲)~艦隊集結~出撃(交響組曲から第3曲)~ヤマト渦中へ(ブンチャカヤマト、新曲)~イスカンダル~大いなる愛(交響組曲から第4曲)
「コスモタイガー」は1970年代ディスコ・サウンド調。なんだか「マツケンサンバ」を彷彿とさせる所も。「イスカンダル」で彬良はピアノの弾き振りだった。
どうやら関東方面からもヤマト・ファンが集結していたようで、休憩時間中に以下のような会話が耳に入ってきた。
「いや〜良かった。感無量だったのは『艦隊集結』でした」
「やっぱり肩入れしてしまうのはガミラス派だよね」
「『ガミラス国歌』では、思わず一緒に歌いそうになりませんでした?」
「なったなった!」
これには爆笑した。愛だね、愛っ。
さて後半。僕はプッチーニの歌劇「トスカ」が好きだし、生の舞台を観たこともある。しかし第3幕を歌抜きで、そのまま吹奏楽で演奏することに何の意味があるの?と疑問に感じた。その激しい違和感は最後まで払拭出来なかった。コンクールで演奏するほど難易度が高くないし、アレンジする目的が分からない。いや、仮に弦楽器も入ったオーケストラだったとしても変でしょう?ここではホルンのミスが目立った。一連の騒動で、市音のレベルが低下しているのではないかという懸念が残った。
「ダフニスとクロエ」は明晰で曖昧さが皆無、精巧緻密な演奏だった。
アンコールは宮川彬良の自作自演で「大ラッパ供養」。冒頭は「ツァラトゥストラはかく語りき」風で、途中からパンチが効いたノリノリの音楽に。彬良得意の腰振りダンスも飛び出して、最高潮に盛り上がり幕を閉じた。
なお来年度から宮川彬良が大阪市音楽団の音楽監督に就任することが決まっている。
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コメント
はじめまして。市音のことを調べているうちにこちらにたどり着きました。
長瀬氏ですが母校のくらしき作陽大学に戻られるために昨年の4月に退団され、准教授として後進の指導にあたっておられます。退団後も定期演奏会には観客として見えられいましたが今回はステージでしたね。なお同じタイミングでほかに4名退団されています。今回は長瀬氏以外にも何名かのOBが客演として参加されていました。
そして、4月の新法人移行の際にも6名が退団の予定です。今回の移行に際し、収入が半減することもあり市の職員として残留される方もおられるとのことです。新生市音は残留する25人とオーディションで選ばれた新メンバーでのスタートとなります。
今回の独立に際しては、市からのサポートはほとんどなく、2月23日に堺で開催された佐渡裕&大阪市音楽団のコンサートにゲスト出演した宮川彬良氏の話によると、廃止の話が出てからは、団員の皆さんが関連の法律の勉強からはじめたそうで、新しい事務所兼練習場探しや新法人設立とやっとのことでこぎつけたというのが実態のようです。なお新法人の事務所は住之江のATC内に移転します。そういえば、これまで大阪城野外音楽堂の管理も市音がやってたんですが、追い出した後の管理、どうするんでしょうね?
いよいよ独立まで1ヶ月を切りましたが、市音の行く末がどうなるのか注目していきたいと思っています。
投稿: 913d | 2014年3月 9日 (日) 23時51分
913dさん、コメントありがとうございます。詳しい事情がわかりました。家族を養うためとはいえ、いままでやってきた音楽を捨て、公務員として市の職員に留まる方が数人いらっしゃるというのは哀しいことですね。
僕は市音を愛していますが、基本的に民営化は賛成です。プロ吹奏楽団の中で、今まで市音の楽員は公務員として優遇されすぎだと思っていました(逆にだから優秀な奏者が集まったとも言えます)。しかし芸術に公的支援はなければないほど良いのです。一度保護されて当たり前という感覚に陥ってしまうと、それは自助努力をせず、堕落へと繋がります。
大阪センチュリー交響楽団への4億円の補助金が廃止された時、いわゆる《有識者》たちが「大阪の文化の火を消すな!」と大騒ぎ(バカ騒ぎ)しました。しかし現在はどうでしょう?大阪センチュリーは日本センチュリー交響楽団と名を変えて存続しています。在阪オケは4つのまま。《文化の火》は灯り続けています。頑張るしかないんです。そうすれば道は開ける。大阪市音楽団がなくなることは決してないだろうと僕は信じています。
投稿: 雅哉 | 2014年3月10日 (月) 08時54分
雅哉様、ご返信ありがとうございます。
公営からの法人化の過去の例と比べてみても、市音の状況はとても楽観できるものではありません。たとえば京都市交響楽団の場合、元々存在した京都市音楽芸術文化振興財団に運営を移管する形をとり、団員は現在も非常勤の京都市職員(つまり公務員)であったと記憶しています。また日本センチュリー交響楽団(移管当時は大阪センチュリー交響楽団ですが)の場合は、大阪府音楽団から改組する際に大阪府が20億円を出資して受け皿となる財団法人を設立した上で移管をしています。いずれのケースでもあくまで存続を前提とした動きであるといえるでしょう。それに比して市音の場合、楽団は解散、団員は分限解雇というまず廃止ありきで話が始まっています。したがって市側からのサポートはほとんどなく、辛うじて楽器や音源の引継ぎが行われた程度です。最近の報道では単に「民営化」と言って、あたかも市の方針で民営化したかのように聞こえますが、実態としては団員や関係者の皆さんが必死になってなんとか設立にこぎつけた新法人の設立を市側が追認したに過ぎないという状態です。設立のための寄付金を集めようにも、公務員である団員は直接動くことが出来ず、ファンクラブ的存在である大阪市音友の会が寄付金を集めていました。一応、新法人に対しては3年間で3億円の補助(これも誤解している人がいるのですが3億円が3年間出るのではなく3年の合計で3億円です)、3年目は減額の可能性があるというものです。
>プロ吹奏楽団の中で、今まで市音の楽員は公務員として優遇されすぎだと思っていました
そういう点はあるかもしれません。ただ市音の場合、市内外の学校の吹奏楽の指導、小学生や幼稚園児を対象にした合同音楽鑑賞会の開催、一般市民を対象とした音楽教室、各種無料コンサートの開催、大阪市野外音楽堂の管理等々、演奏するだけの楽団ではない点は指摘しておきたいと思います。それでも優遇されすぎといわれれば返す言葉はありませんが。市音がトップクラスの吹奏楽団であると私は思ってますが、地位に驕り堕落した団員たちにそんな高いレベルの演奏が出来るのでしょうか?それに見合う努力をしたからこそ、今のレベルにあるのではないのでしょうか?
>しかし芸術に公的支援はなければないほど良いのです。
例に挙げておられる日本センチュリー交響楽団ですが、確かに補助金という形での支援はなくなったかもしれませんが、”公益”財団法人として認定され税制上の大幅な優遇が認められています(これは京響や大フィルにも言える事ですが)。決して公による支援がなくなったわけではないのです。ちなみに公益法人改革における新しい”公益”法人の税制上の優遇の大きさは、日本相撲協会が血眼になって公益認定を受けようとしたことでもお分かりいただけるかと思います。一方市音は、設立までの準備期間が短くこれといった財産もないことから、”一般”社団法人としてのスタートとなります。”一般”社団法人だと”公益”社団法人とは違い税制上の優遇は非常に小さくなり、この点においても厳しいスタートとなるわけです。ただし、”公益”法人より活動の自由が得られるという側面もありますが(”公益”法人だと事業の5割以上は公益に資する事業にあてなけらばならず、営利活動に大幅な制限がかけられます)。
こういった状況を鑑みると
>大阪市音楽団がなくなることは決してないだろうと僕は信じています。
と、楽観する気にはとてもなれないというのが正直なところです。頑張りさえすれば生き残れるほど現実は甘くないと思っています。
こうした状況でも練習場を開放しての低料金のコンサートの開催、グランフロントやなんばパークスでのフラッシュモブ、プロの演劇集団とのコラボレーション等々、市音は新たな試みを行っています。新法人に移行する4月にも京響のコンサートにゲスト出演をします。市音はがんばっていますよ。なお16日は近大POPSコンサートにアキラさんとともにゲスト出演します。
いろいろの書いてしまいましたが、釈迦に説法ですね。市音びいき人間の言っている事なんで、極めて市音よりの内容となっているかもしれませんがご容赦いただければ幸いです。
投稿: 913d | 2014年3月16日 (日) 12時03分
913dさま
産経新聞で読みました。来年度からの市音の基本給は月に14万円、退職金なし。年収は200万円とか。今までの優遇された境遇と比べると非常に厳しい条件ですが、大体関西フィル並ですね。
ただ、今まで市音の楽員は公務員でアルバイトが出来ない身分でしたが、今後は他楽団のトラや学生のレッスンで副収入を得ることが出来るわけですから、頑張って下さいと申し上げる他はありません。
厳しいことを書きますが基本的に僕も市音のファンですので、今後もコンサートに足繁く通い、応援する所存です。ぐだぐだ市政に不満を言っても詮無いことです。公的に支援されて当たり前という時代は終わったのです。現実を直視しましょう。
投稿: 雅哉 | 2014年3月16日 (日) 20時16分