邦楽器との響演/いずみシンフォニエッタ大阪 定期
1月31日、いずみシンフォニエッタ大阪 定期演奏会を聴く。当初予定されていた指揮者の飯森範親はインフルエンザで降板し、それぞれ作曲家本人が指揮台に立った。
- 川島素晴/尺八協奏曲 初演
- 鶴澤清治、猿谷紀郎/三井の晩鐘
~ソプラノ、浄瑠璃、室内アンサンブルのための
また開演に先立ち、ロビー・コンサートあり。オーボエ:古部賢一、ハープ:内田奈織で、
- 中田章/早春賦
- 宮城道雄/春の海
- イベール/間奏曲
満席。いずみホールは普段と異なる客層で、文楽ファンが多数詰めかけていたようである。
尺八協奏曲の独奏は藤原道山。第1楽章「春の藤」は下降音型が繰り返され、藤が垂れ下がっている情景が目に浮かぶよう。第2楽章「夏の原」は上昇気流を感じさせる。作曲家の弁によると、《草いきれ・命が這う・蝉・蛙・花火・風》などのイメージが挿入されているという。第3楽章は「秋の道」で第4楽章「冬の山」は山彦(言霊:ことだま)が聞こえてくる。
尺八とは「一尺八寸管」の略称だが、それぞれの楽章で長さの異なる楽器が使用された。第1楽章は最も短い一尺三寸管で、リコーダーやフラウト・トラヴェルソ(木製バロック・フルート)に近い響きがした。
「三井の晩鐘」は琵琶湖の画家・三橋節子の描いた同名絵画によりこの昔話を知った梅原猛が原作を書き、それを基に石川耕士が浄瑠璃の台本を作成した。三橋は33歳の時に鎖骨腫瘍で利き腕の右手を切断、その後ガンが転移し2人の子供を残して35歳で死去した。彼女の無念の想いがこの物語に反映されている。また梅原は「湖の伝説」という三橋の伝記を書いている。
浄瑠璃部分を鶴澤清治が、オーケストラ部分を猿谷紀郎が作曲した。演出は岩田達宗、浄瑠璃:豊竹呂勢太夫、三味線:鶴澤清治、ソプラノ:天羽明惠が担当した。なお岩田はかつてびわ湖ホールで三橋節子の絵本「雷の落ちない村」をアニメーション・オペラ化し、上演したことがあるという。
舞台上手(客席から向かって右)に浄瑠璃と三味線奏者が、下手にオーケストラが配され、中央は白い半透明のカーテンが下ろされ、その内側にソプラノ歌手が立った。カーテンに照明が当てられ、滝のようにも龍のようにも見えるという趣向。
浄瑠璃とオーケストラ(+ソプラノ)が交互に演奏する形で進行された。時に義太夫とオケが重なることもあったが、殆ど両者は交わることがなかった。浄瑠璃にはもののあわれ、(古語的意味での)すさまじさ、わび・さび(侘・寂)が感じられた。一方、猿谷が担当したオーケストラ・パートは叙情的でロマンティック。最初はそれに違和感を覚えたが、次第に「こういう構成もありだな」と感じるようになった。全く別物なのだから無理して歩み寄る必要はないだろう。むしろ異文化の衝突で生じる摩擦熱、軋みこそがこの作品の真骨頂なのだと納得した。
クラシック専用のホールで浄瑠璃を聴く機会なんて滅多にないし、漲る緊張感と迫力があってすこぶる面白かった。「三井の晩鐘」に漂う哀感も切々と胸に迫った。是非また体験したい(CDとか音だけでは物足りない!)大切な作品となった。
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