アメイジング!!~宝塚宙組「翼ある人びと ーブラームスとクララ・シューマンー」
2月9日(日)シアター・ドラマシティへ。宝塚宙組「翼ある人びと ーブラームスとクララ・シューマンー」を観劇。
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まず特筆すべきは作・演出:上田久美子の功績だろう。とにかく台本が素晴らしい!ロマン派の作曲家たちの前に立ちはだかるベートーヴェンという高い山。それを一生懸命登って行き、仮に頂上に立てたとしてその先に一体何があるのか?というブラームスの疑問/絶望感に対して、死の床にあるシューマンはある明快な回答を示す。その台詞の鮮やかなこと。またブラームスの眼の前に現れたベートーヴェンの幻がこう言う。「私がお前の妄想なら、お前は私の影だ!」そして最後のブラームスの独白「ロベルト(・シューマン)が私に翼の片方をくれ、クララがもう片方をくれた。その翼で飛んだ空は孤独で寂しくて、そして美しかった!」いやもう、涙腺が崩壊しそうになった。こんな台詞が書ける作家は天才ではなかろうか?また冒頭が枯葉散る秋というのがいいし(ブラームスの音楽は憂愁の秋がよく似合う!)、第1幕フィナーレがカーニバルの場面で、ブラームスがクララに愛を告白し、同時にロベルトが橋から飛び降りて入水自作を図るという劇的なクライマックスの作り方が上手い。そしてショーの場面ではブラームス/交響曲第4番 第1楽章をタンゴ風に編曲し踊らせる。何て粋な演出だろう!宝塚歌劇団は本当に才能のある座付作家に恵まれたと言えるだろう。なお彼女は2013年5月に演出家デビューしたばかりの期待の新人である。
あと感心したのは、シューマンの死因はスメタナ同様に脳梅毒(梅毒第4期)だったというのが現在の定説である。しかし宝塚歌劇には「清く正しく美しく」というすみれコードがあるので、これには触れないだろうと高を括っていた(実際ミュージカル「エリザベート」でもヒロインが夫のフランツ・ヨーゼフ1世から梅毒を移される場面はカットされていた←東宝版にはあり)。ところが劇中、病名には触れないが医師がはっきりと「精神疾患ではなく、感染症がシューマンの中枢神経を侵した」と明言しているので脳梅毒説を採っていることが分かり、びっくりした。上田久美子、偉い!よくぞここまで踏み込んだ。
ヨハネス・ブラームス役:朝夏 まなとは長身で、ダンスでは足がまっすぐ高く上がり格好いい。ただ音程は不安定。クララ・シューマン役:伶美 うららは老け顔だが飛び切りの美人。実際にクララはブラームスより14歳年長だったので、違和感はない。細い声で声量がないのは些か残念だった。
シューマンからヴァイオリン協奏曲を献呈され(しかし生涯弾くことはなく自筆譜を封印)、ブラームスのヴァイオリン協奏曲を初演したヨーゼフ・ヨアヒム(澄輝 さやと)やフランツ・リスト(愛月 ひかる)、リヒャルト・ワーグナー(春瀬 央季)らが登場。華やかで愉しかった。特に「金に困っているんなら貸してやろうか?」とクララに無神経に言いつつ、その一方で思いやりもある屈折したキャラクターとして描かれたリストが秀逸。あと「人は音楽そのものではなく、パフォーマンスで(価値を)判断する」という台詞は、まるで佐村河内守事件を皮肉っているようで笑った(ベートーヴェンも登場するしね)。
ロベルトとクララには7人の子供がいたが(8人生まれ、1人死去)、舞台では3人に減らされていた。これは作劇上、適切な処置であったと思う。
というわけでこれは宝塚ファンだけに独占させておくにはあまりにも勿体ない。クラシック音楽を愛している人々にこそ、幅広く観てもらいたい珠玉の傑作であると断言しよう。僕は今後、上田久美子が作・演出する作品は絶対に見逃さないようにしようと固く心に誓った。
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