« 私は二歳 | トップページ | 捻ったウィーンプログラム~下野竜也/大阪交響楽団 定期 »

「半沢直樹」の魅力を分析する。

TBSのテレビドラマ「半沢直樹」最終話の視聴率は関東で42.2%、関西で45.5%を記録し、1977年以降の民放のテレビドラマ史上第1位となった。主演の堺雅人は大ブレイク、流行語大賞まで掻っ攫った。

巷で話題になり、僕が観たいと思った時には既に舞台が大阪から東京に移って後半戦に突入していたので、リアルタイムで観ることは諦めた。そして年が明けてからTSUTAYA DISCASでブルーレイを借り、一気に観た。評判に違わずすこぶる面白く、深夜に観ると興奮して眠れない。史上最高の視聴率を叩き出しただけのことはある。そこで「何が他のドラマと異なるのか?」ということについて僕なりに考えてみた。

1.復讐劇:「半沢直樹」の魅力は「やられたらやり返す、倍返しだ!!」の決め台詞が象徴するように、復讐劇であることがまず第一に挙げられるだろう。アレクサンドル・デュマが書いた復讐劇「モンテ・クリスト伯」(巌窟王、1845-46)は今でも世界中で読み継がれているし、最近、舞台ミュージカルにもなった→こちら。また映画化されたスティーヴン・ソンドハイムのミュージカル「スウィーニー・トッド」も「モンテ・クリスト伯」を下敷きにしている。日本でも江戸時代から仇討ちの芝居は庶民に人気だ。「忠臣蔵」などはその典型だろう(「忠臣蔵」は仇討ちに加え、日本独自の美意識=《潔く散る》という価値観に貫かれている)。復讐は相手が巨悪であるほど盛り上がる。しかし民主主義が浸透した現代日本でそういう存在は稀だ。滅多に見つかるものではない。だから「半沢直樹」の着眼点は秀逸であった。上司を呼び捨てにして土下座させるー中々実現することが叶わない甘い夢。日本中のサラリーマンがこれに溜飲を下げた。

2.恋愛の不在:1980年代後半(「男女7人夏物語」)から1990年代(「東京ラブストーリー」「愛という名のもとに」)にかけ一世を風靡したトレンディドラマ。それ以降日本のテレビドラマはターゲットを20〜30代独身女性(女子大生、OL等)に絞った「恋愛至上主義」となった。しかし「半沢直樹」はその風潮に背を向けた。銀行という男の世界を舞台とした無骨な経済ドラマである。全然トレンディじゃない。女性の登場人物は少ないし、半沢も最初から既婚者だ。常識的に考えれば当たる筈がない。しかし、それがかえって新鮮で受けた。従来の作劇法を覆すことで、新たな活路を見出したのである。

3.タイトル:「半沢直樹」というタイトルはテレビドラマとして極めて異例である。主人公の名前だけ。例えば過去に「寺内貫太郎一家」とか「課長島耕作」とかはあったが、人物を説明する修飾語が伴うことが常であった。日本映画のタイトルとしても極めて少ない。パッと思いつくのは「横道世之介」くらいかな?実はハリウッド映画にはこういうケースが比較的多い。トム・クルーズ主演Jerry Maguire→「ザ・エージェント」とか、ジョージ・クルーニー主演のMichael Clayton→「フィクサー」、トム・ハンクス主演のForrest Gump→「フォレスト・ガンプ/一期一会」、Hugo→「ヒューゴの不思議な発明」、Butch Cassidy and the Sundance Kid→「明日に向かって撃て」、Bonnie and Clyde→「俺たちに明日はない」など。つまり邦題では全く違うタイトルになったり、余分な言葉が付け足されたりすることが当たり前になっているのだ。だからこそ逆に「半沢直樹」のシンプルさ、潔さは目立った。ちなみに原作は「オレたちバブル入行組」(第一部・大阪西支店編)と「オレたち花のバブル組」(第二部・東京本店編)である。

4.かぶく(傾く):「半沢直樹」には香川照之(市川中車)、片岡愛之助というふたりの歌舞伎役者が出演している。非常に大仰な演技で見栄を切り、「かぶいて」いる。当然意図的な所作であり、このスタイルがドラマに良く似合っている。また元・劇団四季の石丸幹二や、ニナガワ・スタジオ(蜷川幸雄 主宰)出身の高橋洋を起用したりと、リアリズムよりも演劇的手法を志向しているのは明らかだ。さらにこの「何もそこまで!」というケレン味を増幅するのが、しばしば登場する顔の半分だけ光を当て、残り半分は影にするという演出。輪郭がくっきりした、濃い芝居を引き立たせている。

5.音楽:通常テレビ・ドラマはレコード会社や芸能事務所(例えばジャニーズ)とタイアップして主題歌を流すのが慣例となっている。しかし「半沢直樹」は違う。重厚なオーケストラのサウンドのみで押し切るのだ。ストイックである。また服部隆之が作曲した音楽が素晴らしい。「王様のレストラン」以来の傑作と断言出来るだろう。特にチェンバロを使用したアイディアが秀逸だ。不思議と銀行という舞台に似合っている。

僕が今更言うまでもないことだが、「半沢直樹」は必見ですぞ。特に歌舞伎・文楽・演劇ファン、そして時代劇ファンにこそお勧めしたい。

|

« 私は二歳 | トップページ | 捻ったウィーンプログラム~下野竜也/大阪交響楽団 定期 »

テレビくん、ハイ!」カテゴリの記事

古典芸能に遊ぶ」カテゴリの記事

コメント

 いやあ、痛快でした。半沢直樹!
堺さんが香川さんの起用をお願いしたと聞きましたが、あの「鍵泥棒のメソッド」のコンビは形を変えてもやっぱり面白い!!と思いました。
 今後映画であれ舞台であれなんであれ、堺・香川の二人が出演していれば必ず観ると思います。
 音楽も良かったですね。私はお父上のファンなんですが、息子には 最初に「オケピ」のイメージがついてしまい、今ひとつピンときてなかったのですが、見直しました。

投稿: ディズニーラブ | 2014年1月26日 (日) 10時34分

コメントありがとうございます。

「鍵泥棒のメソッド」も良かったですよね。役柄が全然違っていて。大好きです。

チェンバロがどうして「半沢直樹」にピッタリきたか、僕なりに考察しました。

1)気品のある貴族的雰囲気が銀行(のお高く構えた態度)に似合っていた。
2)チェンバロの金属的響きが、金庫などの冷たい感触を彷彿とさせる。
3)チェンバロのちょこまかした動きが、電卓を叩く感じを連想させる。

投稿: 雅哉 | 2014年1月27日 (月) 08時34分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/212850/58989114

この記事へのトラックバック一覧です: 「半沢直樹」の魅力を分析する。:

« 私は二歳 | トップページ | 捻ったウィーンプログラム~下野竜也/大阪交響楽団 定期 »