アンドレアス・シュタイアー(フォルテピアノ)&佐藤俊介(ヴァイオリン)のモーツァルト
12月6日(金)いずみホールへ。
アンドレアス・シュタイアー(フォルテピアノ)、佐藤俊介(ヴァイオリン)で、オール・モーツァルト・プログラム
- ヴァイオリン・ソナタ ハ長調 K.303
- ピアノ・ソナタ 第8番 イ短調 K.310
- ヴァイオリン・ソナタ ホ短調 K.304
- 「ああ、私は恋人をなくした」の主題による6つの変奏曲 ト短調 K.360
- ヴァイオリン・ソナタ ニ長調 K.306
- ヴァイオリン・ソナタ K.380より第2楽章 ト短調 (アンコール)
日本にもバッハ・コレギウム・ジャパンのメンバーなど、古楽器奏者は多い。しかし裸ガット弦を張ったバロック・ヴァイオリンと、スチール弦のモダン・ヴァイオリンの二刀流は意外と少ない。弓の長さが違うからボウイング(運弓法)が違うし、ヴィブラートの掛け方などアプローチが全く異なるからである。二刀流のヴァイオリニストとしてまずヴィクトリア・ムローヴァ(ロシア)が筆頭に挙げられるだろう。そして最近メキメキと頭角を現してきたのがイザベル・ファウスト(ドイツ)。彼女が弾いた「ベルク&ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲」のCDは2012年度レコードアカデミー大賞を受賞した。佐藤俊介もそんなひとりだ。
- 佐藤俊介/無伴奏ヴァイオリンの世界 @いずみホール
あとチェロの二刀流と言えばピーター・ウィスペルウェイ(オランダ)やジャン=ギアン・ケラス(カナダ生まれのフランス人)がいる。
ドイツ生まれのアンドレアス・シュタイアーはチェンバロからフォルテピアノまで弾きこなす。
- アンドレアス・シュタイアー/フォルテピアノで弾くシューマン
@フェニックスホール
延原武春/テレマン室内管弦楽団(クラシカル楽器使用)と共に日本で初めてフォルテピアノによるモーツァルト/ピアノ協奏曲全曲演奏を大阪倶楽部で敢行した高田泰治は定期的にドイツに赴き、シュタイアーに師事している。高田はそれ以前、チェンバロとフォルテピアノをクリスティーネ・ショルンスハイムに師事していたが、ショルンスハイムもシュタイアーの弟子である。
今回シュタイアーが使用した楽器はアントン・ワルター製作のフォルテピアノ(1800年頃、ウィーン)の複製。
コンサートの特徴はメイン・プログラムの5曲中、短調が3曲を占めているということである。これは極めて異例なことだ。おまけにアンコールまで短調ときた!
番号の付いたモーツァルトの交響曲は41番までだが、番号もないものを含めると約50曲作曲された。うち短調は25,40番の2曲のみ(5%)。18番まであるピアノ・ソナタでは第8,14番の2曲(約1割)。つまり彼は「長調の作曲家」なのである。
今回選ばれた曲の多くはマンハイム=パリ旅行の時期に書かれた。モーツァルトは旅先のパリで母を失っている。そのことと短調は無関係でないだろう。
さて、ステージにふたりが登場すると、シュタイアーより佐藤の方が背が高かった!今回の模様はNHKがテレビ収録しているので、来年BSプレミアム「クラシック倶楽部」あたりで放送されるのではないかと想われる。
フォルテピアノの音量はモダン・ピアノの半分にも及ばない。だから聴き手は息を潜め、耳を澄ますことになる。現代のピアノとヴァイオリンの音は異質で対峙するような印象だが、フォルテピアノは優しい音色で、ガット弦が奏でるそれによく溶け込み一体感がある。シュタイアーの指使いは繊細で軽やか。小犬が転げるような感じだった。
佐藤のヴァイオリンは基本的にノン・ヴィブラート奏法。音を伸ばす時だけ、その中腹で軽く装飾的に掛ける程度。なんとも典雅な響だ。
イ短調のピアノ・ソナタはかなり速いテンポ。疾走する悲しみ。心がかき乱されるようだが、かといって決して深刻になり過ぎない。
ホ短調のヴァイオリン・ソナタは第2楽章トリオでホ長調に転調するが、ここで緊張が緩和され、ホッとする。
フランスの歌「ああ、私は恋人をなくした」の主題による変奏曲を支配するのは静謐な悲しみ。ヴァイオリンには透明感があり、これぞロジャー・ノリントン(指揮者)が言うところの"pure tone"だなと想った。
ニ長調のヴァイオリン・ソナタはまるでオペラの二重唱を聴いているような掛け合いがあり、終楽章には両楽器によるカデンツァがあったりと愉しい。ガット弦の音色は渋いという印象があるが、佐藤は伸びやかに歌い心地よかった。
NHKの放送があれば永久保存版だね、これは。
以下余談。先日「音楽の友」誌にイザベル・ファウストと、ベルリン・フィルのコンサートマスター:樫本大進の対談が掲載されていた。ピリオド・アプローチ(時代奏法)に極めて懐疑的な樫本(「本当に正しいのか?」)に対し、イザベルは「正しいかどうかは判らないけれど、我々演奏家は作曲家が意図したことに近づけるよう、最大限の努力をすべきだ」といった旨を主張。両者の意見が噛み合っていないのが面白かった。僕は断然、イザベルを支持する。
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