ゼロ・グラビティ(3D)
評価:AAA(トリプル・エー)
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来年のアカデミー作品賞・監督賞は「ゼロ・グラビティ(Gravity)」と「それでも夜は明ける」(12 Years a Slave) 」の一騎打ちになるだろう。今年みたいにそれぞれ違う作品に与えられる可能性もある。ちなみに長編アニメーション部門は「風立ちぬ」とディズニー「アナと雪の女王(Frozen)」の頂上決戦となる見込み。
まず日本語タイトルについて。「ゼロ・グラビティ」だと無重力に力点が置かれているように感じられるが、肝はラストなんだよ。主人公が重力(Gravity)の重みを噛み締めることがテーマなんだ。
これは「観る」ものではなく、無重力を「体感」する映画だ。だから3D上映を選択することを強くお勧めする。新次元の体験となることを保証する。
エンターテイメント作品に仕上がっているが、全体を支配するのは「絶対的孤独」。そして人間とは何か?どうして人は生きるのか?という核心に迫ってゆく哲学的思索の旅でもある。
上映時間91分という短い尺なのに中身がギュウギュウに詰まっている。冒頭13分の長回しが凄い。クルクル回転しながら宇宙を漂流するサンドラ・ブロックにカメラが近づいて行く。そしてヘルメットのガラスの中に入り(!)そこで180度回転して彼女の視線となり、またガラスを透過して離れていくというカメラワークにはびっくりする(当然CGを使っているのだろうが、その視覚効果に目を瞠る)。冒頭から緊張を強いられ、息苦しくなり、エンド・クレジットで漸くホッと出来る。
メキシコ出身のアルフォンソ・キュアロン監督と撮影監督のエマニュエル・ルベツキは「リトル・プリンセス」(1995)の頃から注目していた。特に緑の使い方が印象的。世界各国で興行的失敗に終わった近未来SF「トゥモロー・ワールド」(2006)も好きだった。キュアロンが単独で仕事をした「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」(2004)も緑が際立っていた。エマニュエル・ルベツキはテレンス・マリック監督と組み、「ニュー・ワールド」や「トゥ・ザ・ワンダー」で卓越した仕事をした。特に「ツリー・オブ・ライフ」のカメラワークは空前絶後の美しさ!これで彼はアカデミー撮影賞を受賞すべきだったが、理不尽にも「ヒューゴの不思議な発明」が掻っ攫ってしまった。しかし、今度こそ100%間違いなく「ゼロ・グラビティ」は撮影賞を受賞するだろう。視覚効果賞も確実だ。
NASAの管制塔から聴こえる声がエド・ハリスなのは「アポロ13」だし、ペンが空中で回転する描写は「2001年宇宙の旅」、そしてサンドラ・ブロックが宇宙で独りぼっちになったり宇宙服を脱いで下着姿になるのは「エイリアン」のリプリー(シガニー・ウィーバー)を彷彿とさせるといった具合に、宇宙を舞台にした過去の名作映画へのオマージュがふんだんに盛り込まれている。
漂流していたサンドラがジョージ・クルーニーに一本の綱で牽引される場面は明らかに「へその緒」だし、彼女が宇宙ポッドの中で体を丸める仕草がまるで子宮の中の胎児のように見えたりといったメタファーに満ちている。ラストシーンは水生動物だった人類が陸に上がり、二足歩行に進化する経過を暗示している。そいういう意味でも本作は21世紀の「2001年宇宙の旅」なのだ。
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