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2013年12月 9日 (月)

小池徹平、柿澤勇人主演:ミュージカル「メリリー・ウィー・ロール・アロング ~それでも僕らは前へ進む~」

12月8日(日)梅田芸術劇場、シアター・ドラマシティへ。「メリリー・ウィー・ロール・アロング」千秋楽を鑑賞。

スティーヴン・ソンドハイムが作詞・作曲したミュージカル(作詞のみの「ウエストサイド物語」や「ジプシー」は置いておいて)で、僕が生の舞台を観たことがあるのは「カンパニー」(1970)、「リトル・ナイト・ミュージック」(73)、「太平洋序曲」(76・宮本亜門演出)、「スウィーニー・トッド」(79・亜門演出)、「イントゥ・ザ・ウッズ」(87・亜門演出)である。DVDやBSで観たことがあるのが「ジョージの恋人(サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ)」(84)、「パッション」(94)、そしてアンソロジー「Putting It Together」(93/99)。

一番好きなソンドハイム作品は「スウィーニー・トッド」、次点が「リトル・ナイト・ミュージック」「太平洋序曲」「イントゥ・ザ・ウッズ」(順不同)辺りかな?

ソンドハイム作詞・作曲の「メリリー・ウィー・ロール・アロング(Merrily We Roll Along)」は1981年にブロードウェイ初演。今回が日本初演となる。ブロードウェイ初演を演出したのは「オペラ座の怪人」「スウィーニー・トッド」「キャバレー」の巨匠ハロルド・プリンス。しかし批評は芳しくなく、52回のプレビュー、そしてたった16回の本公演で幕を閉じた。端的に言えば興行的に惨敗したわけだ。その後リバイバルで手直しされ、楽曲も追加されたようである。

今回観て甚く感動し、最後は泣いた。もしかしてこれ、ソンドハイムの最高傑作ではないだろうか?音楽的には「スウィーニー・トッド」の方が優れているが、「メリリー・ウィー・ロール・アロング」は台本の完成度が群を抜いている。

1976年のロサンゼルスから物語は始まる。アメリカが泥沼のベトナム戦争から撤退し、南北ベトナムが統一された年だ。「アメリカの正義」というピカピカの金メッキが剥がれ、「病んだアメリカ」、その腐臭、ダーク・サイドが顕になった時代(ウォーターゲート事件もあった)。それから本作はどんどん時間を遡行し、1957年のニューヨーク、グリニッチ・ヴィレッジで幕を閉じる。 ソ連が世界初の人工衛星スプートニクの打ち上げに成功した年で、この後アメリカはアポロ計画に乗り出すことになる。ベルリンの壁が築かれるのが1961年、キューバ危機が62年、J.F.ケネディ暗殺が63年、キング牧師暗殺が68年だから、アメリカが未だ挫折を味わうこと無く、無邪気に自分たちの正義や理想社会の実現を夢見ることが出来た幸福な時代であったと言えるだろう。

作詞・作曲家の男二人とベストセラー作家となる女一人が主人公だ。ミュージカル冒頭の1976年にそれぞれ成功し有名になっているが、気持ちはバラバラになり三人の友情は破綻、決別することとなる。そして未だ年若く貧乏だった彼らが出会う瞬間、友情が芽生え、将来に夢を膨らませる場面で終わる。つまり三人の友情の軌跡とアメリカ史が密接にリンクしているところが凄い。予定調和なハッピー・エンドではない。希望もない。しかし結局、この作品は三人の生きざまを肯定している。そこがいい。そして人生は続く。

人の心は計り知れない、理不尽なものである。「夢やぶれて」(by レ・ミゼラブル)、それでもこの世界は生きるに値する。そう想わせる作品である。「計画通りうまく運ぶわけはない。予定通り行かない。番狂わせが面白い」(by エリザベート)

ソンドハイムの楽曲について。口ずさめるようなキャッチーなメロディはないが、都会的で極めて洗練されている。僕は「カンパニー」より好きかも。

回転する円形舞台(盆)があり、その中央にピアノが置かれているというシンプルな装置。しかし宮本亜門の振付・演出はスタイリッシュで、巧みに時間変化を見せる。カラフルな照明が美しい。またブロードウェイ初演時は2幕構成だったが、休憩なしで一気呵成に最後まで見せる趣向はスピード感があって良かった。

オーケストラは舞台後方に配置され、ビックバンド・ジャズの編成で愉しませる。

これが舞台初出演となる小池徹平は決して歌が上手いと言えないが、滲み出してくる人柄の良さで観客を魅了した。適役といえるだろう。

柿澤勇人は劇団四季時代に「春のめざめ」で一世を風靡した。第1幕最後に曝け出される彼の生尻を間近でガン見しようと女子たちがステージシートに殺到したことは今では伝説となっている。

彼はジャニーズ系のイケメンだが、現在26歳という若さにもかかわらずミュージカルの冒頭は脂ぎって欲望のまま生きる中年に成り切り、実に見事だった。

他に出演者はラフルアー宮澤エマ(アメリカ人とのハーフ、祖父が総理大臣だった宮沢喜一)、ICONIQ在日韓国人三世、韓国のアイドルグループ「SUGAR」の元メンバー)高橋愛ら。全然知らない女優たちだったが、オーディションで選ばれただけあって実力と個性がある。

カーテンコールで挨拶した宮澤が、「この作品に出演して凄く嬉しかったのは、生まれて初めてファン・レターを頂いたことです!」と涙ながらに語ったので、場内は温かい笑いと拍手に包まれた。

再演があれば絶対に観に行く!何度でも味わいたい、僕にとってとても大切なミュージカル作品となった。

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