現代若手指揮者事情〜ネルソンス/バーミンガム市響×ハーン@兵庫芸文
11月24日(日)兵庫県立芸術文化センターへ。
ネルソンス/バーミンガム市交響楽団、ヴァイオリン独奏:ヒラリー・ハーンで、
- ワーグナー/歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲
- シベリウス/ヴァイオリン協奏曲
- チャイコフスキー/交響曲 第5番
を聴いた。
アンドリス・ネルソンスはラトビア生まれの35歳。現在はバーミンガム市響、2014年からはボストン交響楽団の音楽監督となる。ダニエル・ハーディング(イギリス、38歳)やグスターヴォ・ドゥダメル(ベネズエラ、32歳)らとともに次世代を担う才能として将来を嘱望されている指揮者である。他に同世代ではヤクブ・フルシャ(チェコ、32歳)、クシシュトフ・ウルバンスキ(ポーランド、31歳)らの名が挙げられるだろう。ドイツ・オーストリア・イタリアの若手に有望株が居ないのが痛い(かつてはトスカニーニ、フルトヴェングラー、クライバー父子、カラヤン、ベーム、ジュリーニ、アバド、ムーティといった錚々たる面々を輩出したのだが)。
ネルソンスが生まれたラトビア出身で有名な指揮者といえばマリス・ヤンソンス。ヤンソンスの幼少期は旧ソ連だったので彼はレニングラード音楽院で学んだが、1991年に独立。ネルソンスはラトビアで音楽を学んだ(ヤンソンスに師事)。またギドン・クレーメル(モスクワ音楽院卒)やミーシャ・マイスキー(レニングラード音楽院)もラトビア出身である。
ラトビアの隣にエストニアがあり、ネーメ&パーヴォ&クリスチャン・ヤルヴィ親子はエストニア出身の指揮者。ラトヴィアやエストニアはバルト海に接しており、その対岸にシベリウスが生まれたフィンランドがある。これらの国々を環バルト海地域と呼ぶ。因みにパーヴォ・ヤルヴィの名前はフィンランドの指揮者パーヴォ・ベルグンドにちなんで名付けられた。
バーミンガム市響の第3ファゴット奏者が黒人だったのには驚いた。木管奏者は珍しい。今回の兵庫が台湾→日本と続いたアジア・ツアーの最終公演だそうだ。
「ローエングリン」冒頭のpp(最弱音)の美しさ!ゾクゾクっとした。透き通るようなハーモニーは「純白」のイメージ。テンポの微妙な揺れが心地よい。押しては引く波のよう。ネルソンスが紡ぎだす魔法の虜になった。
シベリウスはヒラリー・ハーンの繊細でしなやかな音色に魅了された。洗練されていて、かつ粘りがある。オーケストラは第1楽章冒頭、雲のような柔らかい弱音を奏でる。ネルソンスはここでもテンポを揺らし、エモーショナル。アクセントの付け方に独特のセンスを感じる。第2楽章は木管の表情付けが上手い。音符が生き生きと動き出す。第3楽章は躍動感、疾走感に満ち溢れる。ヌーの大群が押し寄せるイメージ(ほら、「ライオンキング」にあったじゃない)。ハーンとオケの丁々発止の掛け合いがスリリング。ロックだね、燃えるぜ!
ソリスト・アンコールは
- J.S.バッハ/無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番
より ”ルール”と”ジーグ”
後半はあっさり、スッキリしたチャイコフスキー。もうちょっと影(暗さ)とか、濃厚さがあってもいい。ストコフスキーや大植英次みたいにネルソンスは積極的にテンポを動かす。しかし不思議とそれが作為的/不自然じゃない。あざとさがなく、すんなり耳に入ってくる。中間楽章は流麗でなめらか、真に美しい。第2楽章はゲネラルパウゼ(総休止)をたっぷりとる。第3楽章のワルツはシルクの肌触り。妖精たちが飛び回る。そして終楽章。ネルソンスはオーケストラを煽るが、手綱はしっかり締めている。一糸乱れぬアンサンブル。圧倒的なフィナーレであった。
オーケストラ・アンコールは
- エルガー/朝の歌
ネルソンスには是非一度、日本のオケも振って貰いたいものだ(2011年春にNHK交響楽団を指揮して「ローエングリン」全曲を演奏する予定だったが、東日本大震災が発生し中止となった)。
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