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2013年11月26日 (火)

高畑勲監督14年ぶりの新作「かぐや姫の物語」とその思想

高畑アニメと出会ったのは、忘れもしない小学校4年生の時であった。僕が通う岡山大学教育学部附属小学校の創立100周年記念行事が岡山市民会館であり、ゲストとして卒業生である高畑勲監督が招かれ自作のアニメーションを上映してくれたのだ。その時「僕の友人でもある優秀なアニメーターと組んだ作品です」と高畑監督が紹介されたことを今でも鮮明に憶えている。むちゃくちゃ面白かった!それが「パンダコパンダ」であり、”優秀なアニメーター”とは原案・脚本・画面設定(レイアウト)を担当した宮﨑駿のことであったということはずっと後、大学生になって「風の谷のナウシカ」と出会って知った。

それから僕は高畑&宮崎コンビによる「太陽の王子 ホルスの大冒険」、「ルパン三世」(第1シリーズ)、「アルプスの少女ハイジ」(全52話)、「母をたずねて三千里」(全52話)、「赤毛のアン」(全50話/第15話で宮﨑駿降板)、「柳川堀割物語」(実写ドキュメンタリー映画)を観た。ただ宮﨑駿とコンビを解消して以降の高畑アニメは好きではなかった。

高畑監督が長年追求してきたことはリアリズムである。「火垂るの墓」や「おもいでぽろぽろ」を観た率直な感想は「実写でやればいいんじゃないの?」これらの物語をアニメで描くことの必然性を僕は全く感じなかったのだ。だから高畑アニメとは決別した。

「かぐや姫の物語」は「ホーホケキョ となりの山田くん」以来、高畑監督14年ぶりの新作である。「となりの山田くん」は製作費20億円を掛け、目標配給収入60億円を掲げたが7.9億円しか稼げなかった大赤字だった。つまり高畑監督は事実上、14年間干されていたわけだ。そして今回の総製作費はなんと50億円に上った。

Hime

評価:A+  公式サイトはこちら

神懸った完成度に度肝を抜かれた。文句無し、紛れもなく高畑勲の最高傑作である。

通常のアニメーションはセル画(動画)と背景美術が全く異なるセクションで作業され、どうしても質感の違いが生じる。ところが淡い水彩画のようなタッチの「かぐや姫の物語」は両者が渾然一体となり、完全に調和している。驚くべき技法である。「木を植えた男」「大いなる河の流れ」などフレデリック・バックの短編アニメを想い出した。

宮崎アニメならあたりまえのことだが、高畑アニメのヒロインが空を飛ぶのはこれが初めてじゃないだろうか?イマジネーションの飛翔。高畑勲は生まれて初めて「リアリズムの追求」をかなぐり捨て、アニメーションでしか不可能な表現方法を極めた。

かぐや姫の感情が爆発し、京の都の屋敷から飛び出して十二単を一枚一枚脱ぎ捨てながら疾走する場面の躍動感が物凄い。また姫の美しさの評判を聞き、五人の公達(貴公子)が我先にと屋敷に駆けつけている場面の演出もダイナミックだ。

日本の四季、自然の美しさが丹念に描かれる。この作品は最も「アルプスの少女ハイジ」に近い。都に移ってからの姫が田舎の暮らしを懐かしみ鬱々と日々を送る場面も、フランクフルトのゼーゼマン家に移り住んでからのハイジの憂鬱を彷彿とさせる。

都での貴人の暮らしには「生きている」という実感がなく、田舎で汗水流す生活にこそ「生の本質」があるという結論にかぐや姫は達する。これを観て僕は「高畑さん、相変わらず左翼思想だな」と想った。つまりブルジョアジーを否定し、労働階級にこそ真の人間性があるというわけだ。ちなみに高畑監督は東映動画時代(「太陽の王子 ホルスの大冒険」を創った頃)、労働組合の副委員長で、宮﨑駿は書記長を務めていた。ふたりは労組で出会い、会社を相手に共に闘ったのである。また調べてみると2013年7月には高畑監督が赤旗に登場し、「危険な道くいとめる」という記事の中で日本共産党支持を表明している。

そういった本作が有する古臭いイデオロギーや(金持ちは悪で貧者が善という)単純な図式に鼻白む側面も確かにあるのだが、まぁ78歳の爺さんの戯言(たわごと)だから許す。この欠点を帳消しにし不問に付すくらいの有無を言わせぬ作品の力、圧倒的クオリティがあったということである。

最後に音楽について触れよう。高畑監督が久石譲と組むのはこれが初めて。フル・オーケストラを駆使する宮崎アニメと異なり久石は本作で室内オーケストラ規模で臨んだ。雰囲気がガラリと違い、和風でとてもいい。特に物語の最後にかぐや姫を迎えに来る天人の音楽が賑やかで愉しく、鮮烈な印象を受けた。

今年2歳になった僕の息子は「パンダコパンダ」のDVDをニコニコしながら繰り返し観ている。特に子パンダの”パンちゃん”が登場した時は声を上げて笑う。偉大なる高畑&宮崎コンビに乾杯!

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コメント

確かにおっしゃる通りだと思います。
左翼の化石思考があちこちで描かれていますね。ミカドを後から抱きつかせて、かぐや姫がそれを振り切って逃げ出す所なんて天皇に対して敬意があればあのような描写はありえませんね。かぐや姫は風景が美しく優しく描かれて素晴らしい作品ですけど、子供が見て日本の歴史を勘違いしてしまうの子も出てしまうのでは? そこが何となく残念ですけどね。

投稿: イルカ | 2015年3月13日 (金) 23時02分

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 【ネタバレ注意】  2013年、高畑勲監督は実に14年ぶりとなる新作映画を発表した。  『かぐや姫の物語』は、まさに高畑アニメの集大成ともいうべき大傑作だ。これまで世界中を泣かせ、喜ばせ、感動させてきた高畑勲作品のあらゆる要素がここに結実している。  72歳で長編アニメからの引退を宣言した宮崎駿監督よりも、さらに年上で78歳になる高畑監督が発表したこの長編は、心して観たい作品であ...... [続きを読む]

受信: 2013年11月26日 (火) 18時54分

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