大林映画の子供たち~細田守、高橋栄樹、そして三木孝浩「陽だまりの彼女」
アニメーション映画「おおかみこどもの雨と雪」の細田守監督(1967年生まれ)は大学生の時に学園祭で「大林宣彦ピアノ・コンサート」を企画したという過去があり、大林監督は細田監督のことを「映画の血を分けた息子」と言っている。細田版「時をかける少女」(アニメ)は事実上、大林版「時をかける少女」の後日談となっている。
AKB48のミュージック・ビデオ(MV)を最も多く撮っている高橋栄樹監督(1965年生まれ)は今年10/29のツィートで次のように書いている。
僕が思うAKB48最高のMVは、大林宣彦監督の「So long!」(全長版)。
高橋監督は「So long !」撮影現場に、手弁当で手伝いに馳せ参じたそうだ(これはツイッターで監督から直接伺った)。高橋監督作品であるAKB48「永遠プレッシャー」MVは明らかに大林映画へのオマージュである。冒頭、ぱるる(島崎遥香)が吊り橋を渡って登場するのは大林監督の劇場映画デビュー作「HOUSE ハウス」だし、アニメーションとの合成、眼が光ったりするのは「ねらわれた学園」、そしてサイレント映画風字幕挿入、円形でワイプする編集も大林映画を連想させる。
さて、「陽だまりの彼女」だ。
評価:B+ 映画公式サイトはこちら。
三木孝浩監督(1974年生まれ)も熱狂的な大林映画ファンのようである。高校生の時に大林監督の「ふたり」をどうしても観たくて修学旅行先の東京で集団行動から抜けだし映画館に行ったそうだ(記事は→こちら)。また尾道三部作への愛も告白している→こちら。
以下ネタバレあり。
映画の冒頭、大きなワイドスクリーンの中に小さな4:3サイズの画面が現れ、8mm映像が映し出される。僕は「いきなり『転校生』かよ!」と嬉しくなった。大林映画を愛する「同志」にめぐりあった気分。そして猫が登場。猫は尾道三部作にも出てくるし、大林映画の重要なアイテムだ。大林監督は「HOUSE ハウス」や「麗猫伝説」といった化猫映画も撮っている。 ……といういわけで、僕はかなり早い段階から「彼女」の秘密の真相に気が付いた。つまり「陽だまりの彼女」は「時をかける少女」を化猫映画のスタイルで撮った作品だったのである。
主人公が幼少時に負った手の傷跡(=絆)を大切な想い出としている点で「陽だまりの彼女」と「時をかける少女」は共通している。しかもご丁寧なことに傷の位置まで全く同じなのだ。また「彼女」が立ち去る時、彼女に関わった人間全ての記憶が消えるという設定、エピローグで別の人間として再びめぐりあうというのも一緒。「彼女」は水族館で泳ぐ魚を見て「美味しそう」と言うが、同じ台詞を「HOUSE ハウス」のおばちゃま(南田洋子)が集まった娘たちを見て呟く。また、ふたりが高い丘の上から海を見下ろす場面は映画「ふたり」や「はるか、ノスタルジィ」を彷彿とさせる。映画終盤には「さびしんぼう」の重要なガジェット(小道具)・自転車も登場。つまり本作は徹頭徹尾、大林宣彦へのラブレターとなっているのだ。恐れ入った。
松本潤や上野樹里といった旬の(”トレンディ”は死語?)役者を使い、”お洒落な恋愛映画”を偽装しつつ、その実「大林映画万歳!」という化猫映画を撮ってしまった三木監督はしたたかだ。アッパレなり。
大林映画との決定的違いはキス・シーンが多いことかな?大林ヒロインは滅多なことではキスしない。ストイックなのだ。
ミステリアスなヒロインを演じた上野樹里が素晴らしい。彼女の代表作といえるだろう。「虹の女神」も良かったが、本作ではそれを上回る魅力を放っている(彼女は常に、背後から陽の光を浴びて逆光で現れる)。上野が身につけるファッションもお洒落で○。また大倉孝二、谷村美月ら脇役も好演。
それにしても細田監督「おおかみこどもの雨と雪」と三木監督「陽だまりの彼女」が”獣(けもの)の変化(へんげ)と人間の恋”を描くというテーマで一致しているのは興味深い。
三木孝浩監督の次回作は能年玲奈主演の「ホットロード」。きっと三木版「彼のオートバイ、彼女の島」になるだろうと期待する。
大林映画の遺伝子を継ぐ”息子”たちが現在第一線で活躍するようになった。頼もしい限りである。デビュー当時から大林監督が映画化を希い、未だ実現していない福永武彦の小説「草の花」。現在75歳の大林監督には残された持ち時間が少なくなって来た。仮に大林監督が無理だったとしても、”息子”たちがその意志を継いでくれるかも知れないなと、僕は「陽だまりの彼女」を観ながら将来に希望を持った。
たとえ肉体が滅んでも 人はいつまでも誰かの心の中に
その人への想いとともに 生き続けている
だから 愛の物語は いつまでも語り続けなければならない
(映画「HOUSE ハウス」より)
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