前回から何と3年経過していた!
まずジェリー・ゴールドスミスについて記事を書きたいと想った切っ掛けについて語ろう。
先日WOWOWで「ニュースルーム」を観た。映画「ソーシャル・ネットワーク」を書いたアーロン・ソーキン企画・脚本でケーブル・ニュースの舞台裏を描くテレビ・ドラマだ。福島原発事故も取り上げられている。その第5話「ジャーナリストの条件」の番組企画会議の場面で映画「ルディ/涙のウィニング・ラン」が話題となり、それが実は伏線でラストに絡んでくる展開となる。僕は「ルディ」の音楽が大好きでサントラCDを25年くらい前から所有している。しかし映画を観たことはなかったので、この機会にレンタルしてみた。でも感心しなかった。体と体がぶつかり合うアメフトはあくまで獰猛な狩猟民族のスポーツだなと想った。日本人のような穏やかな農耕民族にはどうも性が合わない。だから我が国では人気がない。でもやはりジェリーの音楽は最高だった(試聴は→こちら!)。
ジェリー・ゴールドスミス(1929-2004)は気の毒な作曲家だ。シンフォニックな映画音楽を得意としたが、ジョン・ウィリアムズ(1932- )と同時代に生きたため、目立たない「知る人ぞ知る」存在だった。ジョンが光ならジェリーは影。太陽と月のような関係だった。ジョージ・ルーカスやスティーヴン・スピルバーグとの美味しい仕事は全てジョンに持って行かれ、ジェリーが担当するのはどちらかと言えばB級作品。ジェリーの朋友というべき映画監督はフランクリン・J・シャフナー(「猿の惑星」「パットン大戦車軍団」)だが、やはりスピルバーグと比べると弱いよね。トランペット・ソロによる勇壮な「スター・トレック」(1979)のテーマなんか、プロデューサーから「『スター・ウォーズ』(1977)みたいな曲を書いてよ」と依頼されたことが透けて見えるし、ジョンが「スーパーマン」(1978)で大ヒットを飛ばし、その後塵を拝したジェリーは「スーパーガール」(1984)の音楽をひっそりと担当している。「エイリアン」エンド・クレジットの音楽は勝手にハワード・ハンソン/交響曲 第2番「ロマンティック」に差し替えられるし、「レジェンド/光と闇の伝説」の音楽はスタジオの要請でタンジェリン・ドリームに全てに差し替えられるし(アメリカ公開版)、散々である。ジョン・ウィリアムズがこんな扱いを受けてことは一度もない。ジョンがアカデミー賞を5回受賞しているのに対し、ジェリーは1回のみ。余りにも不当な過小評価であろう。
ベストテンを選ぼうと想ったが、収まり切らなかった。
- カプリコン・1(1978)
- オーメン(1976)
- いつか見た青い空(1965)
- トゥルーナイト(1995)
- エイリアン(1979)
- 海流のなかの島々(1977)
- アンダー・ファイア(1983)
- チャイナタウン(1974)
- ルディ/涙のウイニング・ラン(1993)
- パピヨン(1973)
- スター・トレック(1979)
- 氷の微笑(1992)
- 猿の惑星(1968)
- ブルー・マックス(1966)
- 風とライオン(1975)
主要な作品は抑えているつもりだ。多くのジェリー・ファンにも納得できるチョイスの筈だと自負している。「『トータル・リコール』(1990)がどうして入っていないんだ!?」という怒りの声が上がるかも知れない。いや、あれは確かに名曲だけど「カプリコン1」そっくりだから……。「L.A.コンフィデンシャル」(1997)も「チャイナタウン」と被るから入れなかった。
「カプリコン・1」 中学生の時におそらく僕が初めて聴いたジェリーの音楽。様々な映画音楽を集めたコンピレーション・アルバム(LPレコード)に収録されていた。衝撃を受けた。打楽器を中心に繰り広げられる血沸き肉踊るドコドコ・サウンド。低音金管群のパンチが効いた先鋭なリズム。燃えるね。映画本編を観れたのはそれから10年後くらいだが、こちらも面白かった。まず間違いなくピーター・ハイアムズ監督の最高傑作だろう。僕はこれを当時所属していた吹奏楽部で演ろうと中学校に録音テープを持参し力説したが、あっさり却下された。今では懐かしい想い出だ。また上述したが「トータル・リコール」も同趣向の楽曲である。試聴は→こちら!
「オーメン」 アカデミー作曲賞受賞。後にも先にもジェリーがオスカーを獲ったのはこれだけである。悪魔の賛美歌が戦慄的!素晴らしい。試聴は→こちら!
「いつか見た青い空」 口笛のイントロがいい(虹の彼方に)。そして呟くように密やかに弾かれるピアノの旋律。寂しいけれど清々しい名曲。アカデミー作曲賞ノミネート。試聴は→こちら!
「トゥルーナイト」 5世紀のイギリス。アーサー王と円卓の騎士の物語。兎に角、音楽が高貴!匂い立つ気品。エルガーの「威風堂々」やウォルトンの「王冠(戴冠行進曲)」「宝玉と王の杖」を彷彿とさせる。だからといって決して真似ではなく、独自の個性を有している。試聴は→こちら!
「エイリアン」 調性音楽と無調の間を揺蕩うようなトランペット・ソロが描く虚空。その雰囲気はフランツ・シュミットの交響曲第4番 第1楽章冒頭を彷彿とさせる。試聴は→こちら!
「海流のなかの島々」 アーネスト・ヘミングウェイ原作。フランス印象派のスタイルでドビュッシー「海」を彷彿とさせる。試聴は→こちら!
「アンダー・ファイア」 アカデミー作曲賞ノミネート。舞台はニカラグア。ギターをフィーチャーしたラテン音楽のノリ。熱い!試聴は→こちら!
「チャイナタウン」 これはJAZZ。ハードボイルドだね。全篇に漂う虚しさがいい。アカデミー作曲賞ノミネート。試聴は→こちら!
「ルディ/涙のウィニング・ラン」 フルートによるテーマがしみじみと美しく、アメフトのシーンの音楽はカッケー!!これも燃える。フジテレビ「ハンマープライス」等に使用されているので、皆さんも聴いたことが必ずある筈。「嗚呼、あれか!」と首肯するだろう。試聴は→こちら!
「パピヨン」 アコーディオンの哀愁漂うテーマ音楽が印象深い。「猿の惑星」とは真逆で、メロディメーカーとしてのジェリーの面目躍如である。アカデミー作曲賞ノミネート。試聴は→こちら!
「スター・トレック」 アカデミー作曲賞ノミネート。オーケストレーションを担当しているアレクサンダー・カレッジはTVシリーズ「宇宙大作戦」の作曲家としても有名。カレッジによるテーマ音楽はJ・J・エイブラムスが監督したリブート版「スター・トレック」で復活した。試聴は→こちら!
「氷の微笑」 ひんやりとした肌触りが魅力的。アカデミー作曲賞ノミネート。
「猿の惑星」 打楽器と金管楽器の衝撃音が中心に構成されている。メロディらしいものは皆無で無調音楽の世界が展開される。アカデミー作曲賞ノミネート。
「ブルー・マックス」 第一次世界大戦におけるドイツ空軍のパイロットを描く。勇壮で開放感のある音楽。試聴は→こちら!
「風とライオン」 ジェリー版「アラビアのロレンス」だ。ホルンが咆哮する。アカデミー作曲賞ノミネート。試聴は→こちら!
こうして眺めていくと、ジェリー・ゴールドスミスの音楽は無調からメロディアスな作品まで実に多彩である。多くの方にもっと聴いてもらいたい作曲家であり、この記事がその契機になれば幸いである。
第3回はさすがに3年もお待たせしないつもりだ。どうなるかは反響次第かな。という訳で、ふるってコメントをお寄せ下さい。次回はフランスのモーリス・ジャール(「アラビアのロレンス」「ドクトル・ジバゴ」「刑事ジョン・ブック 目撃者」「ゴースト/ニューヨークの幻」「いまを生きる」)あたりを検討中。
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