日本のテレビ・ドラマ(オールタイム)ベスト 10選~「岸辺のアルバム」から「あまちゃん」まで
映画は監督で選ぶ/テレビ・ドラマは脚本家で選ぶ。これは常識である。
歴代のテレビ・ドラマの中で印象深いものを厳選した。基本的に連続もので、単発ドラマは除外した(こちらは後述する)。また一作家一作に絞った。
- 向田邦子/阿修羅のごとく(昭和54-55年、1979-80)
- 山田太一/岸辺のアルバム(昭和52年、1977)
- 宮藤官九郎/あまちゃん(平成25年、2013)
- 三谷幸喜/王様のレストラン(平成7年、1995)
- 市川森一/黄金の日日(昭和53年、1978)
- 遊川和彦/女王の教室(平成17年、2005)
- 倉本聰/昨日、悲別で(昭和59年、1984)
- 大根仁(原作:久保ミツロウ)/モテキ(平成22年、2010)
- 田渕久美子(原作:宮尾登美子)/篤姫(平成20年、2008)
- 藤本有紀/ちりとてちん(平成19-20年、2007-8)
単発作品では順不同で
- 市川森一/明日-1945年8月8日・長崎(昭和63年、1988)
- 佐々木守(脚本)実相寺昭雄(監督)/「怪奇大作戦」
~第25話「京都買います」(昭和44年、1969) - 桂千穂(脚本)大林宣彦(監督)/麗猫伝説(昭和58年、1983)
- 岩井俊二(脚本・監督)/TVドラマシリーズ「If もしも」より
「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」
(平成5年、1993) - 山田太一/今朝の秋(昭和62年、1987)
「阿修羅のごとく」向田邦子は人間の性(さが)をえぐり出す。ドロドロと渦巻く人間の嫌な面が白日のもとに曝け出される。自伝的な「あ・うん」も名作だが、DVD化されていないのが残念。向田は台湾に旅行中、飛行機墜落事故で死去。享年51歳。本当に惜しい人をなくした。「阿修羅のごとく」映画版は別人が脚色しているので、ドラマ版を断固推す。
「岸辺のアルバム」つい最近、漸くDVDが発売された。家族の崩壊をシビアに描く。物語が実際に多摩川であった水害(堤防が決壊し、家屋が崩壊・流出)とリンクしている。昭和の作品にしてはキワドイ表現もあり、安易なホームドラマではなく、かなり踏み込んだ内容になっている。山田太一は四流大学生たちの青春群像を描く「ふぞろいの林檎たち」もお勧め。ただしIIIはゴミ。
「あまちゃん」は宮藤官九郎(クドカン)による見事なアイドル論である。東京一極集中から地方の時代へ(ジモドルの台頭)という現在進行形の潮流を取り入れ、3・11東日本大震災の絡め方も上手い。とにかく能年玲奈、橋本愛、有村架純ら登場する女の子たちが可愛い!観ていて元気になれる作品だ。
クドカンは江戸落語をテーマにした「タイガー&ドラゴン」や向田邦子賞を受賞した「うぬぼれ刑事」(←無茶苦茶可笑しい!)、そして風変わりなホームコメディ「11人もいる!」もお勧め。あと東野圭吾の推理小説を脚色した「流星の絆」は、はっきり言って原作よりドラマの方が面白い。
「王様のレストラン」三谷幸喜はこの作品で向田邦子賞を打診されたが、「未だ僕には早い」と辞退している。馬鹿なことをしたもんだ。彼はその後本作を超える作品を書いていないし、未来永劫無理だろう。映画「がんばれベアーズ」を下敷きにしており、チーム・プレーがテーマという意味では「トイ・ストーリー」など一連のピクサー・アニメーション・スタジオ作品に通じるものがある。なお最終話のエピローグで三谷幸喜がカメオ出演しているが、彼の扮装はビリー・ワイルダー監督「あなただけ今晩は」のジャック・レモンへのオマージュである(三谷はビリー・ワイルダーに会うために渡米したくらい私淑している)。
市川森一の「黄金の日日」は三谷幸喜が一番好きな大河ドラマだそうだ。だから主演の松本幸四郎を「王様のレストラン」に迎えた。また「王様」で向田邦子賞を打診された時に辞退したのは、第1回受賞作が市川の「寂しいのはお前だけじゃない」であり、未だ自分はそのレベルに達していないと感じたからだそうである。港町・堺を舞台にしているのがいい。
遊川和彦は高視聴率を稼ぎ話題になった「家政婦のミタ」も傑作なので迷うところだが、ここは向田邦子賞を受賞した「女王の教室」を選んだ。小学校を舞台にいじめ問題を真正面から取り上げた姿勢を高く評価したい。映画「二十四の瞳」と見比べると興味深い事実が浮かび上がってくる。遊川は《人の悪意》を描くことが実に上手い。逆に彼が起用されたNHK朝ドラ「純と愛」はタイトルと裏腹に徹頭徹尾悪意に満ちた作品で、これは悲惨な失敗作であった。朝は「あまちゃん」みたいに爽やかでないとね。暗い気持ちで出勤したくないじゃない。
いや、皆さんが思っていることは分かるよ。倉本聰なら断然「北の国から」だろ!って言いたいんでしょ?「北の国から」が彼の代表作であることに異論はない。でもさぁ、誰もが認め、知っている作品を選んでも意味ないじゃない?だから僕はここで敢えて、余り見た人がいない「昨日、悲別で」を選んだ。この名作が幻になっている理由は再放送やビデオ・DVD化が一切されていないからだ。タップ・ダンサーになることを夢見て、北海道から上京してきた若者(天宮良)の物語。実はこの作品、「メモリー」などアンドリュー・ロイド=ウエバーのミュージカル「キャッツ」の音楽がふんだんに盛り込まれており、楽曲の二次使用が認められなかったのではないか?と考えている。あの時代はビデオ化まで考えて製作していなかったからね。あと「昨日、悲別で」のエンディングにフォークデュオ「風」の『22歳の別れ』が流れるのが心に残った。
「モテキ」はフリーターの若者を主人公にした瑞々しい青春ドラマ。演出のテンポが良く、軽やか。これぞ平成の作品!という気がする。僕が一番お気に入りのエピソードは森山未來が満島ひかるに誘われて岩井俊二監督の「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」のロケ地巡りをする回。これは爆笑ものだった。僕も大林宣彦監督の尾道三部作を観てロケ地巡りをしたクチなので、身に覚えがある。なお映画「モテキ」はテレビの続きだが、独立した作品として愉しめる。
「篤姫」は激動の幕末をお姫様の視点から観た作品で、そこがユニーク。宮崎あおいや堺雅人など役者もいい。女性視聴者にも支持される大河ドラマとなった。
「ちりとてちん」のお陰で大阪は数年間、空前の上方落語ブームに沸いた(同時期に江戸落語はクドカンの「タイガー&ドラゴン」で湧いた)。古典落語とプロットの結びつけが上手いし、上方落語の歴史・現状がよく分かる。ただラストの主人公の決意に、僕は未だ納得していない。
こうして10本を見てくると、向田邦子・山田太一・倉本聰・市川森一らが大活躍した昭和50年代こそがテレビ・ドラマの黄金期であったことがよく分かるであろう。
次に単発ドラマに移ろう。
市川森一の「明日」は長崎に原爆が投下される瞬間までの市井の人々のささやかなる一日の生活が描かれる。命の愛おしさ。市川は長崎出身である。原作は井上光晴。「明日」は映画版もあるが、僕はドラマ版の方が好き。
「京都買います」は古都の美しさと醜さを赤裸々に描き秀逸。夢のようなラストシーンには唸った。あとフェルナンド・ソルが作曲したギター独奏曲「魔笛の主題による変奏曲」の使い方が素晴らしい。
「麗猫伝説」は”化け猫映画”で一世を風靡した入江たか子と、その娘・若葉の共演作。プロットはビリー・ワイルダーの「サンセット大通り」を下敷きにしている。
「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」小学校・夏休み・花火・プール。奥菜恵の絶頂期が映像の中に永遠に封じ込められた。岩井俊二監督は少女の一瞬の輝きを捉える天才である。「LOVE LETTER」の酒井美紀や「花とアリス」の蒼井優もそうだよね。
「今朝の秋」余命3ヶ月を宣告された息子(杉浦直樹)に対し父(笠智衆)は当初どう接すればいいか戸惑う。これは家族の物語である。残された人生をどう過ごすか、ターミナル・ケアについても問いかける不朽の名作。音楽は武満徹。
ちなみに2011年に週刊現代が「決定!懐かしのテレビドラマ ベスト100」を特集している。選者は中野翠(コラムニスト)、中森明夫(エッセイスト)、黒田昭彦(All Aboutドラマガイド)ら識者20人+編集部で構成される「ベストドラマ選定委員会」。その結果は、
- 山田太一/岸辺のアルバム
- 倉本聰/北の国から
- 山田太一/早春スケッチブック
となった。
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