オンド・マルトノとテルミン~井上道義/大フィル定期「トゥランガリラ交響曲」
9月20日(金)井上道義/大阪フィルハーモニー交響楽団でメシアン/トゥランガリラ交響曲を聴いた。滅多に演奏されないから、実演を聴くのは初めてである。この交響曲には電子楽器オンド・マルトノ(演奏:原田 節)が登場する。この楽器はフランス人電気技師モーリス・マルトノによって1928年に発明された。
一方、1919年にロシアでは電子楽器テルミンが発明されている。物理学者テルミン博士については是非ドキュメンタリー映画「テルミン」(1993)をご覧になることをお勧めする。
オンド・マルトノが使用されている名曲で真っ先に思い浮かぶのはメシアンと同じフランスに生まれたモーリス・ジャールが作曲した映画「インドへの道」(1984)の音楽である。ヒロイン・アデラのテーマに登場し、揺れ動く不安定な彼女の心情を表現している。アカデミー作曲賞受賞。ジャールはやはりオスカーを受賞した「アラビアのロレンス」(1962)でもこの楽器を用いている。ちなみにオンド・マルトノが映画史に初登場するのはフランツ・ワックスマンが作曲した「リリオム」(フリッツ・ラング監督、1934)だと言われている。ワックスマンは神尾真由子さんがレコーディングした「カルメン幻想曲」の作曲家でもある。
テルミンが印象的なのはアカデミー作曲賞を受賞したミクロス・ローザ/映画「白い恐怖」(1945)やバーナード・ハーマンが作曲した映画「地球の静止する日」(1951)。近年ではハワード・ショアが作曲した「エド・ウッド」(1994)やダニー・エルフマンが作曲した映画「マーズ・アタック!」(1996)等がある。そうそう、「のだめカンタービレ」のパリ編でも出て来たよね?
オンド・マルトノには鍵盤があるが、テルミンにはない。これが両者最大の相違かな。テルミンは手の感覚(と奏者の耳)が頼りなので音程が取りづらく、楽器として普及しなかった。また音の高低が連続的にしか移行出来ないので、絶対音感を持つ人には耐え難いだろう。
さて、井上/大フィルの「トゥランガリラ交響曲」の話に戻ろう。第1楽章はゆったりとしたテンポで開始、児玉桃さんが弾くピアノの透明感が素晴らしい。この作品でピアノは打楽器的に用いられることが多い。第2楽章、オンド・マルトノは美しく甘い旋律を奏でる。第5楽章でオーケストラは生命力に溢れる。第6楽章、ピアノは鳥のさえずりを担当し、オンド・マルトノと共に神秘的かつ陶酔的雰囲気を醸し出す。僕は恍惚として聴き入った。そして第10楽章フィナーレ。音楽は生を謳歌し、歓喜の声を挙げる。それは宇宙の無限へと広がってゆく。
「トゥランガリラ交響曲」をCDで聴くと、音の洪水で「ウルサイ音楽だな!」という印象があったのだが、今回生で接し、ミステリアスで静謐な抒情も多々感じられた。やっぱり音楽はライヴに限ると感じた夜だった。
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