フェスティバルホールに物申す!〜ドゥダメル/ミラノ・スカラ座管弦楽団「ヴェルディ ガラ・コンサート」
9月25日(水)フェスティバルホールへ。
ベネズエラの驚異的音楽教育システム「エル・システマ」の申し子グスターボ・ドゥダメル(32歳!)/ミラノ・スカラ座管弦楽団による「ヴェルディ ガラ・コンサート」を聴いた。独唱はソプラノがウルグアイ出身のマリア・ホセ・シーリ、テノールがアメリカ、アトランタ出身のスチュアート・ニール。ニールは大樽を思わせるパバロッティみたいな体型であった。
1階席は7割の入り、2階席が3割程度。考えてみれば僕がミラノ・スカラ座を聴くのはこれが2回目で、初体験は中学生の時。やはり(改築前の)フェスティバルホールだった。演目はプッチーニの歌劇「ラ・ボエーム」で演出がフランコ・ゼフィレッリ、指揮がカルロス・クライバー、フレーニのミミとドヴォルスキーのロドルフォという史上最強のプロダクションであった。
今回、僕の席は2階席正面1列目(S席:26,000円)だった。音はよく飛んできたし、音響的に悪くなかったが、問題は2階席中央客席前面に設置されていたカメラ(記録/監視用?)である。まず1曲目に「ピッ、ピッ、ピッ」という定期的な電気信号が聞こえてきた。恐らくピントを調整していたのではないかと思われる(あるいはズームイン/アウトかも)。2曲目以降電気信号はなくなったが、その代わり演奏会の最後まで(熱を放出するための)ファンが回転するブーンと唸る低音が鳴り続け、凄く気になった。関係者には今後の善処を強くお願いしたい。またフェスティバルホールでコンサートを聴く計画をお持ちの方、2階席正面前よりは避けることをお勧めする。不快な気持ちになり、折角の音楽鑑賞が台無しだ。
さてオール・ヴェルディ・プログラムで、
- 『ナブッコ』序曲
- 『アイーダ』から「清きアイーダ」「勝ちて帰れ」
- 『椿姫』から第1幕への前奏曲
- 『アイーダ』から「運命の石が〜さらばこの世」
- 『ルイザ・ミラー』序曲
- 『トロヴァトーレ』から「ああ、あなたこそ恋人〜見よ、恐ろしい火よ」
- 『シチリア島の夕べの祈り』序曲
- 『トロヴァトーレ』から「静かな夜〜この恋を語るすべもなく」
- 『運命の力』序曲
オーケストラ・アンコールは、
- マスカーニ『カヴァレリア・ルスティカーナ』間奏曲
冒頭の『ナブッコ』序曲から引き締まったリズムで血沸き肉踊る演奏が展開された。ドゥダメルの指揮は聴衆を熱狂の渦に巻き込む。しかし一方で、音楽にくっきりと暗い陰影を付与することにも長けている。
スチュアート・ニールは張りのある声で、広いホールを物ともせずよく通る。ゴッツイ声量で驚いた。
僕は昔からレオンタイン・プライスとかキリ・テ・カナワなど過剰な(振幅の大きい)ヴィブラートが大嫌いで、マリア・ホセ・シーリも苦手なタイプだった。
『アイーダ』終幕の地下の石牢で歌われる二重唱「運命の石が~さらばこの世」はクラリネットの甘い音色に魅了された。冥(くら)い情念、夜の静寂(しじま)が広がってゆく。
『椿姫』第1幕への前奏曲は弦の透明感、繊細さにウットリした。
『ルイザ・ミラー』序曲でも弦が瑞々しい。またクラリネットが素晴らしい。ドゥダメルの指揮は締めるところは締め、奏者を開放するときは自由に泳がせる。そのCatch and Releaseが絶妙、卓越した能力だ。
『イル・トロヴァトーレ』のアリアは畳み掛けるテンポで、ドゥダメルのラテンの血がひしひしと感じられる。
『シチリア島の夕べの祈り』序曲は弦のカンタービレが最高!《歌の翼に乗って》とは正にこれだなと感服した。ただイタリアのオケは日本と同様に弦楽パートが素晴らしいが、金管が弱いかなという気がした。特にアインザッツ(縦)が大雑把でピッタリ合わないんだよね。気にしていないのかも。金管に限って言えばNHK交響楽団や京都市交響楽団の方が実力が上かも知れない。
『運命の力』は払っても払っても纏わり付く《宿命》が感じられた。美しく劇的で(CDを含め)僕が今まで聴いた同曲のベスト・パフォーマンスであった。あとチューバではなくチンバッソ(イタリアで主に使われる低音の金管楽器。狭いオーケストラピットで使うのに考えられたもの)が使われていたのが印象的だった。初めて見た!ヴェルディの楽譜にもチンバッソが指定されているそうだ。
アンコールの『カヴァレリア・ルスティカーナ』間奏曲はまどろみ夢見る音楽を余すところなく表現。イタリア・オペラの醍醐味を満喫した夜であった。
会場で大阪フィルハーモニー交響楽団の次期首席指揮者就任が発表された井上道義さん(ミッキー)をお見かけした。そういえばNHKで放送されたドゥダメル/シモン・ボリバル・ユースオケの演奏会でも客席にミッキーの姿があった。
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