映画「エリジウム」のメタファー
評価B+
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SF映画「第9地区」(僕のレビューはこちら)でアカデミー作品賞にノミネートという快挙を果たしたニール・ブロムカンプ脚本・監督による最新作。
「第9地区」の監督なら絶対面白いだろうという確信があったので、何の予備知識もなしに映画館に足を運んだ。だからまず主人公がマット・デイモンだったことに驚き、続いてジョディ・フォスターが登場するに至りさらにびっくりした。有名俳優が一人もいない「第9地区」は紛れもなくB級映画だったのに、同じSFのジャンルでも「エリジウム」は堂々たるA級の風格がある。製作費の規模も桁違いなのではないだろうか。
2115年の地球は大気汚染が深刻化しており、富裕層は衛星軌道上のコロニー(宇宙ステーション)「エリジウム」に移住しているという設定がユニーク。ロサンゼルスは荒廃しスラム化しており、その雰囲気はまるでブラジルのスラム街を舞台にストリート・チルドレンの抗争を描く映画「シティ・オブ・ゴッド」みたいな感じだ。発達した医療でどんな難病でも治癒可能な「エリジウム」を目指して、密入国を企てる貧民も後を絶たない。
この図式はニール・ブロムカンプ監督の出身地南アフリカ共和国のアパルトヘイト時代に喩えるなら、エリジウム=白人居住区であり、LA=ソウェト(黒人居住区)と言えるだろうし、あるいはエリジウム=北米のビバリーヒルズやNY郊外にあるグレート・ネックなどの高級住宅街、LA=中南米の貧民街(スラム)のメタファーと解釈することも出来る。
注意! 以下、物語の核心に触れるネタバレあり。これから観ようという方はさらに読み進めるかどうかご一考下さい。
映画を最後まで見れば、この物語は新約聖書を下敷きにしていることが分かるだろう。つまりマット・デイモン演じる主人公はメサイア(救世主)となり、地上の民の疾病を癒やすのだ。ヒロインは彼の傷の手当をする場面があり、マグダラのマリアに相当する。よく練られたシナリオである。
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