東京家族
評価:B+
ブルーレイで鑑賞。公式サイトはこちら。
今更言うまでもなく、山田洋次監督が松竹映画の大先輩である小津安二郎監督の「東京物語」(1953)に捧げたオマージュである。
英国映画協会(BFI)が発表した「映画監督が選ぶベスト映画」で「東京物語」は「2001年宇宙の旅」「市民ケーン」「8 1/2」を抑え堂々第1位に選ばれた(詳細はこちら)。またジム・ジャームッシュ監督の代表作「ストレンジャー・ザン・パラダイス」では競馬紙を見ていた主人公がTokyo Storyという名の馬を見つけ、「よし、これに賭ける」と言う場面があったりする。「東京物語」を観たことのない日本人がもしもこの世に存在するとしたら、シェイクスピアを知らないイギリス人みたいなのものである。
広島から老夫婦が子どもたちを訪ねて上京する設定、長男(西村雅彦)が内科医として開業しており、長女(中嶋朋子)は美容室を経営しているという設定もそのまま「東京家族」で踏襲されている。「東京物語」では両親の世話に困った子どもたちが二人を熱海の旅館に宿泊させるが、「東京家族」では横浜みなとみらいにあるヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテルに変更になっている。また両親の実家は「東京物語」では広島県尾道市だが、「東京家族」では瀬戸内海に浮かぶ大崎上島(おおさきかみじま)になっている。ここは広島県竹原市と愛媛県今治市に挟まれるような位置にある。今や尾道市といえば誰しも大林宣彦監督の尾道三部作(転校生・時をかける少女・さびしんぼう)や新・尾道三部作(ふたり・あした・とんでろじいちゃん)を想起するので、山田監督が遠慮したのではないかと想像する。
元々は2011年12月に公開予定だったが映画クランクイン直前に東日本大震災が起こり、撮影延期を余儀なくされた。山田監督が3・11の要素をシナリオに盛り込み改訂したため、意見の食い違いから老夫婦にキャスティングされていた菅原文太・市原悦子が降板、橋爪功・吉行和子に交代した。3・11は確かに「東京家族」にひっそりと影を落としているが控えめであり、声高な主張がない点に好感を抱いた。
リメイクと言うよりはリ・イマジネーション(再構築)と言うべきで出来はいい。特に蒼井優が素晴らしかった。これは「東京物語」における原節子の役どころで、役名も同じ「紀子」。ちなみに小津安二郎の「晩春」「麦秋」「東京物語」は紀子三部作と呼ばれている。原節子の役名が全て「紀子」だからである。蒼井優の”間宮紀子”は「麦秋」で原が演じた役名である。
「東京物語」は核家族化が進む日本で、気持ちがバラバラになってゆく家族をテーマにしているわけだが、老夫婦に対して一番優しく接してくれるのが血のつながりがない「紀子」(戦死した次男の未亡人)というのが実に皮肉だ。蒼井優演じる「紀子」もまるで天使のように優しく、「東京家族」の救いになっている。往年の銀幕の大女優と比較されることを承知の上でこの役を引き受けるには相当の覚悟が必要だったろう。それでも蒼井は堂々とした存在感を持って見事にこなした。アッパレである。
恐らく山田監督と組むのは初めてであろう久石譲さんの音楽も良かった。
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