新海誠監督「秒速5センチメートル」「雲のむこう、約束の場所」
「秒速5センチメートル」 評価:A 公式サイトはこちら。
「雲のむこう、約束の場所」 評価:C 公式サイトはこちら。
今年公開された「言の葉の庭」のレビューで、「好きだけど、嫌い」と書いた。その後どうも気になって仕方がないので、新海誠監督の過去のアニメーション作品のDVDを借りて観た。
「雲のむこう、約束の場所」(2004)はその年公開された「ハウルの動く城」を抑え、毎日映画コンクールでアニメーション映画賞を受賞している。しかし僕は「言の葉の庭」同様に、自己陶酔的かつ過剰にセンチメンタルな内容に閉口した。「この監督にはついていけないわ……」と想った。
だが連作短編アニメーション「秒速5センチメートル」(2007)は一味違った。
第一話はやはり、じくじくして鬱陶しい展開だったが、種子島を舞台にした第二話で様子が変わってきた。まず冒頭の男女二人が夜明けを見るシーンの何と幻想的で美しいこと!また高校生の貴樹と花苗が会話している背景で宇宙探査ロケットが打ち上げられる場面も印象深かった。そして第三話。そこまでフェードアウト・インを繰り返すことでゆったりした時間が流れていたのが、山崎まさよしの歌「One more time, One more chance」が始まると同時に細かいカット割りで畳み掛け、画面が爆発的に動き出す。鮮やかな編集。音楽的リズム感がいい。また絵作りも丁寧でクオリティが高い。
中学生を最後に、別れ別れになった幼なじみの貴樹と明里が、結局その後再会することなく終わる残酷なプロットもよかった。人生そんなに甘くない。二十億光年の孤独(by 谷川俊太郎)。
僕が「秒速5センチメートル」を気に入った理由は、「One more time, One more chance」が使用されていたことも大きいと想う。これは元々、山崎まさよしが主演した映画「月とキャベツ」(1996)主題歌に採用されたもので、そちらも観ている。大した作品ではなかったが、歌はすごく好きだった。
3作品続けて観て浮かび上がる共通のテーマは「距離感」である。「雲のむこう、約束の場所」「秒速5センチメートル」は物理的に男女の距離が離れている。あるいは近くにいても気持ちは遠いというケースもある。そして「言の葉の庭」は15歳の少年と27歳の女性の物語であり、年齢が離れている。その距離は縮まるのか、あるいは縮まらないのか?そこにドラマが生まれる。
それにしても「幼少期の恋の記憶を大切に生き続ける」という設定を新海監督は好むが、やっぱり男の発想だよね。実際の女性たちを見ていると、彼女たちは切り替えが早い。別れた元カノとの想い出の品を捨てられず未練がましく持ち続けるのは男ばかりで、女はあっさり処分して元カレのことなんかすぐ忘れちゃう。だから新海アニメを熱烈に愛するファンは圧倒的に男たちで、女性ファンは少ないんじゃないかな?
あとこの人はつくづく自分が大好きで「俺が、俺が」なんだなと感じるのがエンド・クレジットである。「秒速5センチメートル」を例に取ると、スタッフとして新海誠の名前が何と9回も登場するのである。「監督・脚本」のみならず、「絵コンテ」「キャラクター原案」「美術監督」「撮影」「色彩設定」等、延々と繰り返されるのだ。まとめりゃいいじゃん!?これが如何に異常なことかは、宮崎駿監督作品と比べれば明らかであろう。「同一人物が映画のクレジットに登場する回数」という項目があれば、ギネス記録なのではなかろうか?
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