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2013年7月 3日 (水)

児玉宏/大阪交響楽団「トリスタン秘話」/カイルベルトとモットル

6月18日(火)ザ・シンフォニーホールへ。児玉宏/大阪交響楽団による定期演奏会。

  • ワーグナー/楽劇「トリスタンとイゾルデ」第1幕への前奏曲
  • ワーグナー/ヴェーゼンドンク歌曲集(女声のための5つの詩)
  • ワーグナー/楽劇「トリスタンとイゾルデ」”愛の死”
  • マルトゥッチ/交響曲 第1番

ソプラノ独唱はベルギー出身のエレーヌ・ベルナルディ

ワーグナーが友人で指揮者のハンス・フォン・ビューローからその妻コジマを寝取ったのは有名な話だが、それ以前にも人妻マティルデ・ヴェーゼンドンクと不倫関係にあったという。そのワーグナーの恋と「トリスタンとイゾルデ」の物語をリンクさせたのがプログラム前半である。ヴェーゼンドンク歌曲集の合間に「トリスタンとイゾルデ」からの管弦楽曲を挟むという巧みな構成で、全く違和感はなかった。息の長いフレージングで曖昧さは皆無。パウゼ(休符)はたっぷり取る。押しては返す感情の波が次第に昂ぶり、やがて官能の頂点に達する。法悦と陶酔。何と劇的な音楽であろうか。

現在までに「トリスタンとイゾルデ」を指揮している最中に死亡した指揮者はふたりいる。1911年のフェリックス・モットルと1968年のヨーゼフ・カイルベルトである。カイルベルトは生前、口癖のようにこう言っていたという。

「モットルのように『トリスタン』を指揮しながら死にたい」

正にその夢は実現したわけだ。指揮者冥利に尽きるだろう。今回、児玉/大響で実演に接し、その心情を少し理解出来たような気がする。

イタリアの作曲家マルトゥッチの交響曲はブラームスに似ていると言われているが僕はそう思わない。ブラームスの「陰」=negativeに対し、マルトゥッチはあくまで「陽」=positiveだ。第1楽章は弾み、リズミカル。動的な演奏。穏やかな第2楽章は叙情的。ウィットに富む第3楽章はコミカルなパントマイム劇を観ているかのよう。第4楽章はノーブルで威風堂々としている。どちらかと言うとエルガーなど英国風に聴こえた。マルトゥッチは指揮者として「トリスタン」のイタリア初演を振ったが、この交響曲の終楽章は「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲に近いと感じた。

曲的にマルトゥッチはイマイチだが、とても面白いプログラムだった。

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