言の葉の庭
「時をかける少女」「おおかみこどもの雨と雪」の細田守監督とともに、「ポスト宮崎駿」と言われる新海誠監督の最新アニメーション映画である。新海監督の「雲のむこう、約束の場所」(2004)は「ハウルの動く城」を抑え、毎日映画コンクール・アニメーション映画賞を受賞した。
評価:B-
公式サイトはこちら。
この映画を観た感想を一言で表現するのは難しい。「好きだけど、嫌い」というのが多分一番近いだろう。つまり背反する感情を覚えるのだ。
アニメーションとしてのクオリティは極めて高い。特に雨など自然描写が美しい。間の取り方、編集も巧みである。心地良いリズムがある。つまり技術的にはパーフェクトなのだ。
しかしセンチメンタルで自己陶酔的な脚本はいただけない。身も蓋もない青臭さに鼻白む。男が夢見る理想の女性像。こんな女(ひと)、現実にはいないよ。新海アニメには熱狂的男性信者がいるが、多分女性ファンは少ないんじゃないだろうか?「ふん」と鼻であしらわれそう。
あと「全てが借り物」感が強かった。例えば主人公の15歳の高校生は将来靴職人になることを夢見ているが、どうしても「耳をすませば」の少年(やはり15歳)がヴァイオリン職人になるためにイタリア留学を志すことを思い出してしまう。また新宿御苑で佇む男女という構図はトラン・アン・ユン監督「ノルウェイの森」における井の頭公園の場面を彷彿とさせる。さらに言えば新海監督「星を追う子ども」(2011)の世界観、キャラクターデザインは宮崎駿の絵物語「シュナの旅」とそっくりである。既視感(デジャヴュ)が強い。つまり、この人にはオリジナリティ(特筆すべき個性)というものが欠けているのだろう。
そういう意味で「雰囲気はあるけれど、中身が空っぽ」という、新海監督に対する巷での評価には頷けるものがある。
しかしこれだけ悪口を書いても、バッサリ斬り捨てられない魅力も確かにこの作品にはあるんだなぁ。複雑な心境である。
また、最後に流れる大江千里(作詞・作曲)「Rain」(秦基博がカヴァー)が凄くよくて、映画の内容にぴったり寄り添っていた。調べてみるとシングル・カットされていない曲で、1988年に発表されたアルバムに収録されているらしい。25年も前の歌なんだね。
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コメント
OB's広島のころに何度かやり取りさせていただいていたものです。
いつもその造詣の深さ、広さに裏打ちされた愛情あふれるレビューを拝見させていただいております。
言の葉の庭、私も福山で鑑賞しました。
鑑賞後の第一印象は「なんで短編でこの上映時間にしたんだろう」ということです。
上映時間が短い割に心理描写が淡く甘すぎて、結局モノローグに頼って多用している割に感情の変遷が唐突感を否めない。クライマックスでも「先生だと知っていたら~」と言っていますがなんでいきなりそんな話に?
わるくないんだけど、脚本が甘いため良品になり切れない。そんな作品でした。
こんなにモノローグに頼るならせめてあと30分上映時間を延ばしてでも丁寧に心理描写を行えばもっと良くなったと思います。まあ監督の力量次第ですが。
と言って駄作でもなく嫌いというわけでもないのがこの作品の不思議な魅力?と言えるかもしれません。
広島のキャッチフレーズではないですが、「おしい」作品です。
投稿: gambatodo | 2013年8月16日 (金) 13時25分
gambatodoさん、コメントありがとうございます!
仰る通りだと想います。新海監督の作品は明らかに欠陥があるけれど、だからといって嫌いになれない。愛すべき失敗作なのです。
宮崎駿、押井守、大友克洋など日本のアニメ監督は脚本を兼任することが多いです。そして新海誠は明らかにそれが裏目に出ている。プロットが弱いのですね。絵を描く才能と物語るセンスは別です。彼は一度他のシナリオライターと組み、バランス感覚や客観性を学ぶべきだというのが僕の考えです。
投稿: 雅哉 | 2013年8月16日 (金) 21時47分