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2013年7月18日 (木)

吉松隆/交響曲第6番初演と、天使に関する考察~いずみシンフォニエッタ大阪 定期

7月13日(土)いずみホールへ。

Yoshi

飯森範親/いずみシンフォニエッタ大阪による定期演奏会。今回は映画やテレビ・ドラマに携わる作曲家によるコンサート用作品がテーマである。

  • エンニオ・モリコーネ/ヴィヴァルディのための4つのアナコルーティ
  • ニーノ・ロータ/トロンボーン協奏曲 (独奏:新田幹男)
  • 吉松 隆/鳥は静かに...  op.72
  • 吉松 隆/交響曲 第6番「鳥と天使たち」 op.113 (委嘱作・初演)

また恒例のロビー・コンサートもそれに先駆けてあった。安藤史子(フルート)、内田奈織(ハープ)で、

  • ニーノ・ロータ/映画「ロミオとジュリエット」~青春とは何か
  • エンニオ・モリコーネ/映画「ニュー・シネマ・パラダイス」抜粋
  • ニーノ・ロータ/フルートとハープのためのソナタ 第3楽章

吉松隆/交響曲第6番は初演の二日前に作曲家立ち会いのもと行われたリハーサル見学会も聴いた。静謐で超絶的に美しい!「鳥と天使たち」と題されているが、僕は吉野山で静御前が舞っている姿を幻視した。吉松さんは「平清盛」を作曲しているし、あながち的外れでもないだろう。

吉松さんの風貌は大阪フィルの指揮台に立ったフィンランドの作曲家レイフ・セーゲルスタムにすごく似ていた。吉松さんは高校1年生の時にシベリウス/交響曲第6番を聴いて作曲家を志した人で、セーゲルスタムもシベリウスに私淑している。

演奏の方は見通しがよく精緻で、透明感溢れるものだった。1管編成の室内オーケス トラのために作曲されたという要素も大きいだろう。吉松作品の特徴である鳥の鳴き声が飛び交い、まるで森林浴を体験しているような気持ちの良さであった。

第1楽章「右方の鳥」の序奏はピアノと弦の対話。弦はノン・ヴィブラートで開始され、やがて躍動する舞へ。あくまで調性音楽にこだわりつつ、時に大胆な不協和音が用いられる。変拍子のリズムは絶え間なく変幻する(metamorphose)。楽章半ばからドラムスが大活躍し、プログレッシブ・ロック/フリー・ジャズ的展開を見せる。

リハーサルでは作曲家から「リズムが重い、(リズム・セクションを)デッドにして」「このホールは響くので、ハープやホルンはもっと軽めに」「出だしと最後はもうちょっと(テンポが)速いよ」「もっと乾いた感じで」「そこはモーツァルトっぽく」といった指示が飛んだ。

第2楽章「忘れっぽい天使たち」にチャイコフスキー/交響曲第6番「悲愴」 第4楽章の断片が現れたのを聴き、僕はニヤッとした。1990年代以降「天使」は「ゲイ」の暗喩になっているからである。

このイメージはトニー・クシュナーが書いた戯曲「エンジェルズ・イン・アメリカ」(第1部は1989年に初演、第1部、第2部を通しで1992年に初演)が先鞭をつけた。ニューヨークを舞台にエイズに冒された同性愛者たちとその周囲の人々を描く作品で、1993年にはトニー賞やピュリッツァー賞を受賞、またマイク・ニコルズ監督で2003年にテレビ・ミニ・シリーズとなり、エミー賞で11部門、ゴールデングローブ賞で5部門受賞した。僕はWOWOWで観たがアル・パチーノ、メリル・ストリープ、エマ・トンプソンら錚々たる出演陣だった。天使=ゲイのメタファーとして描かれている。

また1996年にはオフ・ブロードウェイでジョナサン・ラーソン台本・作詞・作曲のミュージカル「RENT」が初演され大ヒットを飛ばし、オンに進出。トニー賞で最優秀作品賞など4部門受賞、ピュリッツァー賞でも最優秀作品賞を受賞した。このミュージカルもエイズに罹患したゲイがテーマである。そして登場人物のひとりにそのものズバリ「エンジェル」がいる。

この楽章は天使というよりも、むしろ「天女の舞」といった感じだなと思った。風の音がして、特殊な和(打)楽器が活躍。懐かしいオカリナ響きから開始され、スライド笛、トイピアノなども使用されて「おもちゃ箱」の様相を呈する。そして全体を支配するのはワルツの気分だ。

リハーサルでは「(トイピアノは)もっとちゃちい音が欲しい」「ここのヴァイオリンはノイズ音。キツツキが木を叩く感じ」といった注文が作曲家から飛んだ。

活発な第3楽章「左方の鳥たち」には「平清盛」の旋律なども登場。リハーサルでは「ここは木管がメイン。弦がちょっと強い」「マリンバは固いマレットの方がいいい。その方が音がクリア」などといった注文も。吉松さんは交響曲第6番を「元気で喧しい女の子」のイメージで作曲したそうで、この楽章は正にその通りだった。

新作の前に演奏された弦楽アンサンブルのための「鳥は静かに...」は叙情的で、磨き上げられた音に魅了された。

吉松さんと、企画・監修を務める作曲家・西村朗さんによるトークもあった。「どうして鳥にこだわるの?」という西村さんの問いに対し「人間以外で歌う先輩だから。また翼を広げ飛翔するイメージに惹かれる」と。さらに天使は「音楽になる前。透明感がある」から好きなのだそう。

「ニーノ・ロータは天使のような人だった」朋友フェデリコ・フェリーニ監督の言葉である。

ニーノ・ロータはゲイだった。1976年にロータが来日し日本のオケを指揮して自作を演奏した時、若い男の恋人を連れてきていたと関光夫(ラジオ・パーソナリティ)が証言している。生涯独身だったロータに対し関が「どうして結婚されないのですか?」と尋ねると、「母が良すぎたから」と答えたという。同様な受け答えを故・淀川長治(映画評論家)もしているので、これはゲイの常套句なのだろう。ただフェリーニがロータのことを「天使」に喩えた時、そこにゲイのニュアンスを含めていたのかどうかは僕には分からない。

ロータのトロンボーン協奏曲は機知に富む。新田幹男さんのソロは朗々と伸びる音が素晴らしい。精緻な演奏。第3楽章はギャロップ風でお調子者の道化師を連想させた(フェリーニの映画で道化師は重要なテーマである)。

モリコーネの楽曲は第1部で基本音形がエコーのように交差し、第2部では重層的掛け合いとなる。ゆったりとした第3部を経て第4部は鋭利な響き。冷たい刃物で切り刻むような音楽であった。ノスタルジックな映画「ニュー・シネマ・パラダイス」におけるモリコーネとは全く別の前衛的側面を見せてくれて、凄く面白かった。ちなみに「アナコルーティ」とは破格構文(一文の中で構文が変化する)のことだそうだ。

とにかく今回はプログラムがユニークで、曲自体がどれも良かった。大阪でこれほど質の高い演奏を聴けることを、僕は誇りに想う。

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