柳家三三×北村薫/「六月の花嫁」と落語「鰍沢」
6月9日(日)兵庫県立芸術文化センターへ。
このシリーズに足を運ぶのはこれが3年連続3回目。
- 北村「空飛ぶ馬」+落語「三味線栗毛」 (2011年)
- 北村「砂糖合戦」+落語「強情灸」 (2012年)
落語家・柳家三三による一人芝居というか朗読劇。兎に角新しい演劇の形態であることは確か。
北村薫の推理小説〈円紫さんと私〉シリーズより、今回は連作短編集「夜の蝉」に収録されている「六月の花嫁」が選ばれた。 落語家・春桜亭円紫=ホームズ、「私」=ワトソンという役回りとなっている。谷口英治によるクラリネット独奏付き。
- 「六月の花嫁」前半
仲入り - 「六月の花嫁」後半
- 落語「鰍沢(かじかざわ)」
- 対談/北村薫×柳家三三
今回初めてクラリネット・ソロが加わったのは、主人公の友人・江美ちゃんが「クラリネット・ポルカ」を吹く場面が登場するためだと思われる。
冒頭で暗い闇から浮かび上がってくるのはクラリネット奏者ひとり。ハル・デヴィッド(詞)バート・バカラック(曲)の「雨にぬれても」(映画「明日に向かって撃て!」主題歌)がジャズ・アレンジで吹かれた。続いて「雨に唄えば」。そして梅雨の物語が始まる。最後、春桜亭円紫が喫茶店の窓を見て言う台詞「おや、雨が上がりましたね」を切っ掛けに「虹の彼方に」(映画「オズの魔法使い」)が演奏され締め括られる。なんて粋な選曲だろう!過去3回の中で今回が一番感銘を受けた。舞台で演じられることの意義が感じられた。
47都道府県を47日で廻るという快挙(暴挙?)を達成した三三さん。以前彼の「三味線栗毛」は錦木(検校)が最後に死ぬバージョンだったが、「空飛ぶ馬」で春桜亭円紫として死なないバージョンを演じて以来、そちらの方がしっくり来るようになり現在は後者で演っているという。
「鰍沢」は三遊亭圓朝作。元々は三題噺(「卵酒」「鉄砲」「毒消しの護符」、あるいは「熊の膏薬」という説あり)だと言われている。初めて聴いたネタだが、ブラック・ユーモアがあり超展開で面白かった!
三三さんは圓朝直系の橘家圓喬(たちばなやえんきょう)の型でされた。殺されかけ這々の体で逃げた主人公が崖に追い詰められる場面で圓喬の型は口を結び、恐怖で身を引く(それまでは前につんのめりそうになる演出が主流だったという)。
この「鰍沢」、東京の聴衆はクライマックスを息を潜めて真剣な眼差しで聴くが、ここ関西では「んなあほな!」という雰囲気で意外と受けたと。そういう反応は「皮膚で感じる」のだそう。東日本では時々、聴衆と「折り合いがつかない」ことがあるという。
ネタの内容をめぐり、北村薫さんは狩人が歌った「あずさ2号」について女性編集者数人と語り合ったエピソードを披露。「女は新しい恋人と旅に出る時、昔の男のことを考えたりしない。キッパリ忘れ去る。想い出の品も(高価なもの以外)惜しみなく捨てる(断捨離)。未練がましいあの歌詞は男の発想だ」と彼女たちは断言したという。「そういうものかなぁ」と思い、北村さんが調べてみると作詞したのは女性だった。「男性の聴衆に共感されるよう、意図して作詞されたのかも知れませんね」。
また「六月の花嫁」で江美は何故クラリネットを吹くのか?ということが話題になり、北村さんは「彼女の楽器はクラリネット以外考えられなかった」。ここでクラリネット奏者の谷口さんが「中学や高校の吹奏楽部でクラリネットを吹く女の子はおっとり/しっかりタイプ。古風でスカートの丈も膝下まであり、ソックスもきちっと折っている。絵美ちゃんのイメージにピッタリ」「ではスカート丈が短い楽器は何ですか?」と三三さん。谷口さんは「サックスです」と即答。成る程!さらにオーケストラにおいてクラリネットという楽器は弦楽器と管楽器を調和させる働きがあり、ポワーンとしたところもあると。
また、落語とは「より少ない情報で想像力が広がる芸」だと三三さん。そういう意味において、最小限の舞台セットと照明効果だけで想像の羽を広げるこの企画は大成功であったと言えるだろう。
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