マーラーのライヴァル”級友ハンス・ロット”/大阪交響楽団 定期
5月17日(金)ザ・シンフォニーホールへ。寺岡清高/大阪交響楽団による定期演奏会。
恐らく世界初の試みだろう、全てがハンス・ロットの作品という無謀とも言える挑発的プログラム。それでも客席は8-9割の入りだったのだから驚いた!恐らく全国からロットのファンが駆けつけたのであろう。寺岡さんによると、前回ロットの交響曲第1番を取り上げた時は東京からスコア持参で馳せ参じた人や、なんとロットのTシャツを着た人も楽屋に現れたとか。曲目は、
- 「ジュリアス・シーザー」への前奏曲
- 管弦楽のための前奏曲 ホ長調 (世界初演)
- 管弦楽のための組曲 ホ長調 (日本初演)
- 交響曲 第1番 ホ長調
ハンス・ロットは1858年に女優の私生児としてウィーンに生まれた(マーラーより2歳年長になる)。父は喜劇俳優で既婚者だった。父に認知されたのが先妻の死後、両親が正式に結婚した4歳の時。14歳で母が死に、16歳の時に父が舞台の事故で障害者となり、その2年後に死去。生活に困窮したロットはウィーン楽友協会音楽院でブルックナーに師事する傍ら、オルガニストとしてアルバイトに励まなければならなかった。
交響曲第1番 第1楽章を20歳で仕上げ作曲コンクールに応募するが落選。その2年後、全体を完成させブラームスに見せるが、手厳しい評価を受けることになる。失意の内に合唱指揮者として就職先を見つけたアルザス地方に向かう列車の中でロットは発狂し(「ブラームスが客車に爆弾を仕掛けた!」と叫んだという)、そのまま精神病院送りとなり25歳で短い生涯を終えた(死因は結核)。なんとも幸薄い、哀しい人生である。
ホ長調の作品が多いが、寺岡さんによると西洋人はこの調性に天国を感じるのだそうだ。マーラー/交響曲 第4番の終楽章(天上の生活)も、最後にホ長調になるそう。
「ジュリアス・シーザー」ヘの前奏曲はオペラ/付随音楽を念頭に書かれたものと思われる。19歳の作品。ロットはワーグナーに私淑しておりワーグナー協会にも入会していた。だから「調子が狂った『ニュルンベルクのマイスタージンガー』」といった雰囲気で開始される。そして全体を通して「この人はやはり、根が暗いんだな」と痛切に感じた。
交響曲 第1番については、2008年にやはり寺岡さんの指揮で聴いた時のレビューと併せてお読み下さい。
寺岡さんによるとこれは、「マーラーの交響曲 第0番」と揶揄する人もいるらしい。第3楽章のスケルツォはマーラー/交響曲 第1番 第2楽章と驚くくらいそっくりである(ちなみにマーラーの方が9年後に初演された)。ゆえに「マーラーの盗作疑惑」がいま、ホットな話題となっている。
ワーグナー風サウンドあり、第2楽章ではブルックナーもどきの教会コラールが登場し、終楽章はブラームス/交響曲 第1番フィナーレを彷彿とさせる。ごった煮、支離滅裂、混沌としたシンフォニーだ。しかし確かに狂っているが、その一方で何とも言えぬ魅力も感じられる。That's 世紀末。
”シェフからのメッセージ”に寺岡さんが、「聴いていてこう何だか胸が熱くなるのです。そしてなぜかとても悲しくなってしまうのです。うまく言葉にできないのですが、もう戻れない青春の日々のような、心の奥底に眠っている何かとても個人的で大切なものを思い起こさせるというか…」「私はこの交響曲の中に、他には代えられないかけがいのないものがあると思います」と書かれている意味がよく分かった。
ウィーン在住の寺岡さんの熱い想いがいっぱい詰まった、稀有な体験を我々聴衆も体験させて貰った。
ところで寺岡さん、20世紀前半にウィーンで時代の寵児となり、後に忘れ去られたエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトもいずれ近いうちに取り上げて頂けないでしょうか?僕、大好きなんです。
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