アカデミー短編アニメーション賞受賞「紙ひこうき」とアニー賞受賞「シュガー・ラッシュ」(同時上映)
評価:「紙ひこうき」A+ 「シュガー・ラッシュ」A+
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「紙ひこうき」でアカデミー賞短編アニメーション部門を受賞したジョン・カーズ監督はチーフ・クリエイティブ・オフィサーのジョン・ラセターに感謝の言葉を述べた。「彼が戻ってきてくれたおかげで、ディズニーは息を吹き返したんだ」
ジョン・ラセターは大学卒業後、ディズニーに入社するもCGアニメを推進しようとする彼の姿勢が社内の反発を呼び、解雇された。そしてスティーブ・ジョブズが経営するピクサー・アニメーション・スタジオに入社。「トイ・ストーリー1・2」「バグズ・ライフ」「カーズ1・2」等を監督した。「ティン・トイ」でアカデミー短編アニメーション賞を受賞。フルCGアニメが同賞を受賞するのは史上初であった。
ラセターが去った後、ディズニーは「美女と野獣」「アラジン」「ライオンキング」の成功で第二次黄金期を迎えた。しかし映画部門の責任者ジェフリー・カッツェンバーグとC.E.O.(最高経営責任者)のマイケル・アイズナーが衝突、カッツェンバーグが去ってドリーム・ワークスを設立したあたりからディズニーは再び低迷期に突入、作品の質は凋落し、経営が悪化した。そして2005年、アイズナーはついに放逐された。
2006年5月ウォルト・ディズニー・カンパニーがピクサーを買収した際、ラセターはディズニーおよびピクサーのチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任した。同時にジョブズも、ディズニーの個人筆頭株主(持株率約7%)となり、役員に就任した。つまりこれは事実上、ピクサーの首脳陣がディズニーを制覇したことを意味する。こうしてラセターは迷える子羊ディズニー社の救世主となった(いわばキリストの復活だ)。
「紙ひこうき」は手書きとCGの融合が違和感なく見事だ。白黒3Dだが、ヒロインの口紅だけパート・カラーになっている。これは黒澤明監督が「天国と地獄」で合図の煙だけ着色し、黒澤に私淑するスティーヴン・スピルバーグ監督も白黒映画「シンドラーのリスト」で赤い服の少女だけ着色したひそみに倣っている。また主人公が働く会社の雰囲気がビリー・ワイルダー監督「アパートの鍵貸します」のオマージュになっているのもニヤリとさせられる。ペーソス(←もしかして死語!?)と、詩情溢れる快作。全篇台詞なしのサイレント映画仕立てというのも洒落てるね(音楽と音響効果あり)。
一方、3D CG「シュガー・ラッシュ」はアカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされたほか、アニー賞では作品賞・監督賞・脚本賞など5部門を受賞した。
業務用(コンピューター)ゲームの世界が舞台となる。これがゲームによって美術背景が全く異なり、また作られた年代によって解像度やキャラクターの動きの滑らかさが異なるように設定されており、その描き分けが素晴らしい。主人公ラルフが住むゲーム「フィックス・イット・フェリックス」が30周年という設定なので1980年代のアーケードゲームということになる。「スペースインベーダー」が1978年だからもう少し後、1980年の「パックマン」あたりの時代か。シューティング・ゲーム「ヒーローズ・デューティ」に登場する怪物は「エイリアン」と「スターシップ・トゥルーパーズ」を足して2で割ったような設定で愉しい。またレースゲーム「シュガー・ラッシュ」の世界は全てがお菓子で出来ておりファンタスティック!そのイマジネーションの飛翔にときめいた。
アルコール依存症やエイズ患者などが集い、輪になって座り、ひとりひとりが悩みや体験談を語る「分かち合い」の様子がしばしば映画やドラマで描かれるが、本作ではゲームの悪役たちがそのミーティングをしているという設定が秀逸。
巧みな伏線の張り方、そして各々のキャラの立ち方といい脚本がパーフェクト。はっきり言おう、今までのどの(分家)ピクサー映画よりも面白かった!そして泣いた。これは必見。(本家)ディズニー王国完全復活に快哉を叫びたい。ラセターさん、ありがとう!
余談だがAKB48が歌うエンディングソング「Sugar Rush」のミュージック・ビデオは写真家としても名高い蜷川実花が撮っている。ポップでカラフル、ガーリーでキュートな傑作だ。ただしこれは映画館では観れません、あしからず。
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