映画「舟を編む」
評価:A+
原作は本屋大賞第一位に輝いた三浦しをんの小説。映画公式サイトはこちら。
「大渡海」という国語辞典(「広辞苑」や「広辞林」規模)を編纂し、完成させるまでの15年間を描く。
監督は石井裕也。ぴあフィルム・フェスティバルでグランプリを受賞し、そのスカラシップ(奨学金)で撮った映画が「川の底からこんにちは」(2010)。これが僕は大好きで、書いたレビューはこちら。また同作がきっかけとなり主演した満島ひかりと結婚した。ただ、その後撮った「ハラがコレなんで」は期待ハズレの駄作でがっかり(レビューはこちら)。しかし今回の「舟を編む」は起死回生の逆転サヨナラホームランとなった。1983年6月21日生まれの29歳。三浦しをんが1976年生まれだから、何と原作者より若いんだ!でもべらぼうに上手い。脱帽だ。
まず「辞書を作る」という目の付け所がユニークで面白い。未知の領域を扱うと傑作が出来るという先例として医学生の青春を描く「ヒポクラテスたち」とか、国税局査察官と脱税者の死闘を描く「マルサの女」、納棺師を主人公にした「おくりびと」(米アカデミー外国語映画賞受賞)などが挙げられるだろう。
辞書の監修を務める国語学者を演じた加藤剛が素晴らしい。この人は昔から大根役者だと思ってきたのだが、今回は生涯最高の名演技ではないだろうか?「老いた味」がある。
また真面目一徹で融通が利かない松田龍平と、典型的チャラ男=オダギリジョーのコントラストが鮮明でいい。キャラの違いがアクセントになっている。脇役ながら池脇千鶴がまた、ピリリと効いた柚子胡椒のような役割を見事に果たしている。キャスティングが音楽的だ。
ヒロインの宮崎あおいが猫を抱き、月の光を浴びながら登場する場面は衝撃的ですらあった。妙なる美しさ。彼女の役名は「林香具矢(はやし・かぐや)」。映画の途中で気が付いた。そうか、「かぐや姫」だから月光なんだ!そして「竹取物語」だから苗字が「林」なんだね。
「言葉を使うのは人と繋がろうとする行為」であり、「言葉という大海を渡る手段=舟こそが辞書なのです」「言葉は生きています。だから時代と共に意味が変わってくることもある。それをあながち『間違った用法』と断じることは出来ない、と私は思います」といった老学者の台詞にグッときた。日本語の愛おしさを実感し、言葉をもっと大切にしなくちゃいけないなと考えさせる作品。日々ブログを書き、言葉の選択に苦労している僕がいつも考えていることに直結し、共感する点が多かった。
「舟を編む」は「これぞ日本映画!」と胸を張って言える大傑作。これを観なければ2013年の今を生きている意味がない、とすら豪語しよう。
それにしても「川の底からこんにちは」「舟を編む」の石井裕也、「告白」の中島哲也、「桐島、部活やめるってよ」の吉田大八、「南極料理人」「横道世之介」の沖田修一、「愛のむきだし」「希望の国」の園子温、「ゆれる」「夢売るふたり」の西川美和、「天然コケッコー」「マイ・バック・ページ」「苦役列車」の山下敦弘、「モテキ」の大根仁。才能溢れる若手・中堅の映画監督が次々と優れた作品を世に送り出しており、いま日本映画は群雄割拠、「第二次黄金期」と呼んでいいほど熱い。ちなみに「第一次黄金期」は言うまでもなく、黒澤明が「羅生門」や「七人の侍」を、小津安二郎が「麦秋」「東京物語」を、溝口健二が「雨月物語」「西鶴一代女」を、木下惠介が「二十四の瞳」「楢山節考」を、成瀬巳喜男が「山の音」「浮雲」を、本多猪四郎が「ゴジラ」を撮った1950年代を指す。
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