決定版!チェロの名曲・名盤 20選
Twitterのフォロワーの方から「チェロのお勧めCDを教えて欲しい」とリクエストを頂いた。そこで熟考の上、20枚のアルバムを選んだ。聴いて欲しい順に並べてある。
- エルガー&ディーリアス/チェロ協奏曲
(デュ・プレ、バルビローリ/ロンドン交響楽団 ほか) - J.S.バッハ/無伴奏チェロ組曲 全曲
(ビルスマ or 鈴木秀美) - コダーイ/無伴奏チェロ・ソナタ
(ペレーニ) - ピアソラ/ル・グラン・タンゴ
(「ヨーヨー・マ・プレイズ・ピアソラ」) - カタロニア民謡/鳥の歌
(カザルス「ホワイトハウス・コンサート」より) - サン=サーンス/チェロ・ソナタ 第1・2番
(ナヴァラ/ダルコ) - ジョン・ウィリアムズ/映画「セブン・イヤーズ・イン・チベット」
(チェロ独奏:ヨーヨー・マ) - メンデルスゾーン/チェロ・ソナタ 第2番
(ウィスペルウェイ/ジャコメッティ) - ベートーヴェン/チェロ・ソナタ 第3番
(ビルスマ/インマゼール) - 譚 盾(タン・ドゥン)/映画「グリーン・デスティニー」
(チェロ独奏:ヨーヨー・マ) - フォーレ/夢のあとに
(マイスキー「ララバイ」より) - ドヴォルザーク&サン=サーンス/チェロ協奏曲
(デュ=プレ、チェリビダッケ/スウェーデン放送O.) - シューベルト/アルペジョーネ・ソナタ
(マイスキー/アルゲリッチ) - C.P.E.バッハ/チェロ協奏曲 イ短調 Wq. 170 (H. 432)
(鈴木秀美/オーケストラ・リベラ・クラシカ) - コルンゴルト/チェロ協奏曲
(ディクソン、バーメルト/BBCフィル) - チャイコフスキー/ロココ風の主題による変奏曲
(ロストロポーヴィチ、カラヤン/ベルリン・フィル) - ドビュッシー/チェロ・ソナタ
(ボロディン・トリオ) - ブラームス/チェロ・ソナタ 第1・2番
(ロストロポーヴィチ/ゼルキン) - フォーレ/チェロ・ソナタ 第1・2番
(クリーゲル/ティクマン) - グリーグ&ラフマニノフ/チェロ・ソナタ
(ウォルトン/グリムウッド)
若くして多発性硬化症という難病に罹り、夭折した天才チェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレの生涯については下記で詳しく語った。
ジャッキーといえばエルガーである。なんと激しく、強烈に訴えかけてくる音だろう!まるで火の玉のようだ。彼女と交流があったロストロポーヴィチが生涯、エルガーを録音しなかったのは「ジャッキーには到底敵わない」という想いがあったからではないだろうか?僕は哀しみに満ちたエルガーの協奏曲が全てのチェロ協奏曲の中で一番好きだ。この究極の名盤は「無人島に持っていきたい一枚」である。聴かずに死ねるか!? (なお、バレンボイムが指揮した盤は伴奏が☓)
大バッハの無伴奏チェロ組曲は基本的に舞曲で構成されている。大半のチェリストの最終目標が、この高い山を制覇することであると断言しても過言ではないだろう。モダン楽器ではなく、ガット弦を張ったバロック・チェロで聴きたい。アンナー・ビルスマか鈴木秀美の演奏を推す。
ハンガリーの作曲家コダーイの最高傑作は「ハーリ・ヤーノシュ」ではなく、間違いなく無伴奏チェロ・ソナタである。低音2弦を通常より半音下げる変則的調弦法(スコルダトゥーラ)を採用。ピッツィカートや重音奏法など超絶技巧が駆使されている。ハンガリー民謡に基づき、時に昂ぶり情感豊か。ミクローシュ・ペレーニのCDがいい。ヤーノシュ・シュタルケルが1950年にモノラル録音したもの(アメリカのマイナーレーベル Period)が名盤の誉れ高いが、現在入手困難となっている。
ピアソラ@アルゼンチンの「ル・グラン・タンゴ」はロストロポーヴィチのために書かれた、チェロとピアノのための情熱的な音楽。聴いているうちに次第に興奮してくるのは必定。
パブロ・カザルスのホワイトハウスコンサートは1961年の録音(モノラル)。当時のアメリカ大統領はジョン・F・ケネディ。1939年スペイン内乱でフランコ独裁政権が樹立されるとカザルスは故国を捨てフランスに亡命、さらにプエルトリコへ拠点を移す。そしてフランコ政権を認める国では一切演奏しないと宣言した。1971年、94歳になったカザルスは「私の生まれ故郷カタロニアの鳥たちは、青い空に舞い上がるとピース(peace)、ピース、ピースと鳴くのです」と国連でスピーチをした。ホワイトハウスでの「鳥の歌」は、魂が震えるような、鬼気迫る演奏である。
サン=サーンス@フランスは機知に富み、活きがいい魚みたいなピチピチした音楽。
メンデルスゾーンは華やかで、自由闊達な音楽。ウィスペルウェイか鈴木秀美など古い時代の楽器も演奏できるチェリストで聴きたい。なおウィスペルウェイも鈴木もビルスマに師事している。いわば音楽的同門と言えるだろう。
ベートーヴェンのチェロ・ソナタはノン・ヴィブラート奏法による古楽器とフォルテピアノの組み合わせを推薦する。モダン楽器ならロストロポーヴィチ/リヒテルか、マイスキー/アルゲリッチでどうぞ。この作曲家の音楽はいつも前向きで、人生を肯定しているように感じられる。だからむしろ哀しい時、落ち込んだ時には聴きたくない。そういった場合はエルガーやブラームスなどが、親しい友として慰めてくれるだろう。
「スター・ウォーズ」「E.T.」で知られる映画音楽の巨匠ジョン・ウィリアムズとヨーヨー・マのコラボレーション「セブン・イヤーズ・イン・チベット」は心に染み入る、まことに美しい楽曲である。やはりジョン・ウィリアムズが作曲した映画「SAYURI」の音楽もイツァーク・パールマンとヨーヨー・マが競演する、ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲に仕上がっており、聴き応えがある。
マイスキーの「ララバイ」はチェロの名曲アルバムとして推したい。フォーレ/夢のあとにも素敵な曲だし、「鳥の歌」も収録されている。
チェロの名曲は?と問われて、一番多くの人が挙げるのがドヴォルザークの協奏曲だろう。ロストロポーヴィチ、カラヤン・ベルリン・フィルの演奏が有名だが、ぼくはデュ・プレのライヴ録音を真っ先に推したい(スタジオ録音盤はバレンボイムの指揮が駄目)。この気迫、雄弁さ。一期一会、壮絶なパフォーマンスである。デュ・プレというチェリストを想う時、僕の脳裏に浮かぶ言葉は「短くも美しく燃え」。これに尽きる。
シューベルト/アルペジョーネ・ソナタは忘れられた楽器アルペジョーネのために書かれた。今はチェロで演奏されることが多い。大変メロディアスで魅了される。
大バッハの次男坊、C.P.E.バッハの音楽は文字通り「疾風怒濤」。躍動感があり衝撃的である。後のハイドンやベートーヴェンに多大な影響を与えた。
コルンゴルト/チェロ協奏曲は元々、映画「愛憎の曲(Deception)」の挿入曲として作曲された。浪漫的で芳醇な香りがする。演奏時間12分と短め。
チャイコフスキーは 穏やかで伸びやか、そして柔らかい。それは植物の葉のような自由な曲線を複雑・優美に配したロココ建築を連想させる。
譚 盾は現代中国を代表する作曲家。「グリーン・デスティニー」(原題: 臥虎蔵龍、英語題: Crouching Tiger, Hidden Dragon)は是非、映画自体をご覧下さい。アカデミー外国語映画賞・作曲賞などを受賞。監督のアン・リーは後に「ブロークバック・マウンテン」「ライフ・オブ・パイ」で2度アカデミー監督賞を受賞。大傑作だ。演奏はヨーヨー・マ。
ボロディン・トリオのCDはドビュッシーのヴァイオリン・ソナタとチェロ・ソナタ、ラヴェルのピアノ三重奏曲を収録しており、選曲がいい。ヴィブラートが控えめで好感度大。フランスのエスプリを味わおう。
ブラームスのチェロ・ソナタ 第1番は憂愁と諦念の音楽。「秋」を感じて下さい。第2番はこの作曲家にしては珍しく内面から沸き起こる生命力、活力がある。
フォーレのチェロ・ソナタはトルトゥリエ/ユボーのCDが有名だが、僕には些かヴィブラートが多すぎるように思われる。その点クリーゲルは◯(NAXOSなので価格が安い)。またアルバムには美しいシチリアーナ(こちらが原曲)が収録されているのも嬉しい。
最後に選んだグリーグとラフマニノフのCDは取り立てて演奏が優れているとは想わないが、カップリングの妙で選んだ。要するに20という枠の中でどちらも入れたかったのである。個別に言えば北欧らしく仄暗い抒情を感じさせるグリーグはマイスキー/アルゲリッチ(DVD「ヴァルビエ音楽祭ライヴ2007-2008」)、ロマンティックで甘美な夢を描くラフマニノフはゲリンガス/ファウンテンの演奏を推奨したい。
枠からはみ出してしまったが、8人のチェロ奏者とソプラノのために書かれたヴィラ=ロボス/ブラジル風バッハ 第5番も是非、併せてお聴き頂きたい。何しろ編成がユニークである。
あとスイス出身のユダヤ人、エルネスト・ブロッホが1916年に作曲したヘブライ狂詩曲「シェロモ」も一度耳を傾けて欲しい。チェロと管弦楽のための作品でソロモン(=ヘブライ語で”シェロモ”)の彫刻から着想を得た作品。癖のあるヘブライの節回しに好みが分かれるだろうが、ちょっと他では味わえない独特の雰囲気があって面白い。
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