映画「ザ・マスター」と村上春樹
評価:A
アカデミー賞に主演男優賞(ホアキン・フェニックス)、助演男優賞(フィリップ・シーモア・ホフマン)、助演女優賞(エイミー・アダムス)と3部門ノミネート。
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監督・脚本のポール・トーマス・アンダーソンは1999年にトム・クルーズを起用して「マグノリア」を撮った(ベルリン国際映画祭金熊賞受賞)。「マグノリア」はクライマックスに空から大量のカエルが降ってくる場面がある。理由付けはない。これはどうやら旧約聖書の「出エジプト記」(蛙の災い)から来ているらしい。
で、村上春樹の小説「海辺のカフカ」にも似たような場面がある。空から大量のイワシ、アジ、ヒルが降ってくるのである。「海辺のカフカ」が刊行されたのは2002年。「マグノリア」に触発された可能性は高い。少なくとも作家のルールとして「知らなかった」という言い訳は通用しないだろう。
さて、本題の「ザ・マスター」だ。フィリップ・シーモア・ホフマン演じるザ・マスターは新興宗教の教祖と言ってもいいかもしれないが、微妙。自己啓発セミナーの指導者という見方も出来る。「マグノリア」のトム・クルーズも「誘惑してねじ伏せろ」という本を出版して新興宗教まがいのセミナーを行っているから、その延長上にあるキャラクターと言える。カリスマ性があり、胡散臭いと分かっていても惹きつけられる魅力を放散している。
ホアキン・フェニックスは2008年に突然、歌手への転向を宣言し、その奇行が話題となったが、実はモキュメンタリー(フェイク・ドキュメンタリー)出演のための役作りだったと後に判明した。「ザ・マスター」でもあの時の騒動を地で行くような変人ぶりで、正にはまり役だった。
兎に角、この二人の演技が素晴らしい。僕がアカデミー会員だったら絶対投票しただろう。
ザ・マスターが言っていることは明らかにインチキ/ペテンである。しかし映画は決して彼のことを糾弾しようとはしないし、心を病んだ退役軍人と師匠との奇妙な、ある意味”擬似親子”的関係を淡々と描いていく。
「人間って、こういうもんだな」と思わせる、摩訶不思議な説得力があった。
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